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原研哉氏

「センスウェア」をつくるのが、ソニー・デザイン

僕がソニーの製品に「態度」やソニー性を感じるのも、一般的なモノづくりがテクノロジー偏重で発展してきたせいかもしれません。珍しい素材をつくっては、「こんなに斬新でおもしろいですよ」と奇抜に使い、さも新しいデザインが生まれてきたように見せる、というような。でも、優れたデザインというものは、そんなふうにまがまがしく自己主張するようなものではないと思うんです。もっと感覚にふっと寄り添って、気付かないようなものかもしれません。実際、これからはその方向に進化していくと、僕は思っています。

そのときに意識したいのが、「SENSEWARE(センスウェア)」。それは、ハードウェアやソフトウェアの時代に生まれてきたものではなく、もっと以前から人間の感覚に寄り添い、進化してきたものです。例えば石器時代の「石器」は、「SENSEWARE(センスウェア)」です。これは実際に手で持ってみるとすぐわかるんですが、要するに石の重さ、硬さや加工性が人間の感覚をインスパイアーしたんです。つまり石の物質性が人類をその気にさせた。そして石器時代という文化を何十万年もドライブさせたのです。紙もメディアであると同時に、「SENSEWARE(センスウェア)」であると僕は思っています。アースカラーの自然界から、突然、真っ白くて張りのある紙が生みだされた…紙という媒質の持つ白さと張りが大事なんです。これが人類のやる気を刺激したんですね。「何かを生み出したい、記録してみたい」と。真っ白い紙に黒い墨で字や図像を書くというイメージのコントラストが、人間のクリエーションに与えた影響はとても大きかったんじゃないかと思います。紙がもし濃いグリーンで、ビニールみたいにフニャフニャッとした質感だったら、人類はそこまでやる気が出なかったかもしれません。

紙と同じように、僕たちは新しいテクノロジーの中に「SENSEWARE(センスウェア)」を探しあてていかなければいけないと思っています。それが、ソニーの仕事なんじゃないでしょうか。電子というものも「SENSEWARE(センスウェア)」だと思いますが、その特徴は紙や石のような媒質を持たないということです。そこに、むしろ大きな可能性があると思います。まだ利用されはじめて間もないので乱暴な感じではありますが、 そこに何か人間の感覚の新たな覚醒を呼び起こすようなものが、きっと本格的に生まれてくるんだろうなと期待しています。

モダニズムのモノづくりに足りなかったもの

最近、触感に訴えかけるという意味の「HAPTIC(ハプティック)」という言葉を耳にしますね。これも「SENSEWARE(センスウェア)」と同じことだと僕は思っています。モダニズムのモノづくりは、非常に合理的です。色彩、形態、テクスチャー、点・線・面、運動・バランス・リズムなどといった要素をきれいに分析して、それをベースに僕たちの望ましいものを構築する、という発想ですね。でも、先ほどの美術品の例えじゃありませんが、もう一方で「人間がそれをどう感じるか」という部分が、まだ半分残っています。人の感覚というものをモノづくりにどう生かしていくかが、重要だと思います。

人間の身体の中に秘められた感じる力、世界を受容する可能性というのは計り知れません。それをいかに創造的に働かせて世界を感じ取っていくかが、生きていくことの豊かさだと思います。そのことに、そろそろ正面から向き合うことが必要と思うんですね。色や形だけじゃなく、「感じ方」にフォーカスしていくと、新しいデザインのフィールドが、くっきりと変わって見えてくる気がするんです。まさに「SENSEWARE(センスウェア)」とか「HAPTIC(ハプティック)」というコンセプトが、ソニーのモノづくりには非常に大切なことだろうと僕は思っています。

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