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Feature Design PIIQ & Jienne
[ 2010.8.25 up ]

ユーザー・オリエンテッドなモノづくり

機能からスタイルへと発想を転換したとき、モノづくりはどう変わるか。ヘッドホンに、その最先端を見ることができます。“PIIQ”(ピーク)と“Jienne”(ジェンヌ)。ユーザーがほしいと思うものをすくい取り、エッセンスを凝縮させる。これもソニーデザインのなせる技です。

和田 淨
和田 淨
ソニー(株)
クリエイティブセンター
チーフアートディレクター
湯山 恭男
湯山 恭男
ソニー(株)
クリエイティブセンター
統括課長
深松 香苗
深松 香苗
ソニー(株)
クリエイティブセンター
プロデューサー/シニアデザイナー
森澤 類
森澤 類
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー
Ronald Clark
Ronald Clark
Sony Electronics Inc.
デザインセンター
マネージャー
Parinaz Zamani
Parinaz Zamani
Sony Electronics Inc.
デザインセンター
マネージャー

「機能ありき」の発想を捨てる

和田:ソニーは、ヘッドホンのドライバーユニットを自社開発できる、数少ないメーカーのひとつです。また、装着性に関しても、豊富なノウハウを蓄積しています。しかし、いくら高機能でも、リスナーの支持を得られるとは限らないのが、ヘッドホン市場の難しさ。音楽のジャンルやリスナーの価値観は、驚くほど多様化しています。どれほど音質や着け心地がよいヘッドホンでも、デザインが気に入らなければ、手に取ってみようとも思わない。今は、そういう人が急激に増えつつある時代なのです。

もともとヘッドホンは、趣味性が高い、きわめてパーソナルな製品。このような製品カテゴリーでは、好みのデザインや、それを手にすることで得られる喜び、高揚感も大切な価値となります。そこで、ますます必要になるのが、従来の「機能ありき」のモノづくりではなく、リスナーの価値観やスタイルに立脚したデザインです。ソニーでは早くから「スポーツ」や「クラブカルチャー」といったスタイルを切り口に製品を開発し、多様なリスナーの嗜好に応えようと努めてきました。

このような取り組みの一環として生まれたのが、アメリカのストリートカルチャーにフォーカスした“PIIQ”(ピーク)と、主に日本国内の女性に提案する“Jienne”(ジェンヌ)です。“PIIQ”はアメリカでのマーケットリサーチに端を発し、日米のソニーが共同でデザインにあたりました。

Clark:アメリカのヘッドホン市場を調査していて、私たちは面白いことに気がつきました。ソニーは好調なセールスを記録し、シェアもトップですが、一方で新興のブランドも急成長しています。彼らはソニーの市場を奪うのではなく、新しいマーケットを開拓していたのです。これは、まだ手つかずのマーケットがあったことを意味しています。

そのマーケットとは、ストリートカルチャーを支えるティーンエイジャーたち。彼らのライフスタイルを理解するため、私たちはアメリカ国内のスケーター、サーファー、ミュージシャンたちにインタビューを行いました。彼らにとって何が「クール」なのか。彼らが新製品を知り、購入するとき、何に影響を受けているのか。さまざまなリサーチ結果に基づき、東京のデザインチームとプロダクトのあり方を検討し、デザイナーたちが主体となって企画からコミュニケーションまでを提案していくことになったのです。

掟破りの、大胆なブランディング

Clark:今回の製品を、狙ったターゲットに、効率よく発信すること。そのためには、新しいブランドが必要だと考えました。ストリートカルチャー育ちの若者には、ソニーという名前だけでは十分に響きません。彼らは、ソニーの品質の高さを理解しているものの、それはもっと上の世代が選ぶハイエンドなものであり、自分たちが普段使いにするものとはちがうと考えているからです。

そこで、アメリカのデザインチームで開発したのが、“PIIQ”というネーミングとロゴでした。これは「頂点」を意味する”peak”に由来するもの。これを前面に打ち出すことで、様々な方法で限界に挑戦している若者たちに「自分たちのための新しいヘッドホン」という印象を与えられると考えたのです。

一方で若者たちは、ソニーというブランド自体は非常に評価しているのですから、これはブランディングのうえで大きなアドバンテージとなります。スタイルについては“PIIQ”、性能については“Sony”が担保するという関係をつくれれば、「クール」なだけでなく、品質のよさも伝えることができ、まさに理想的です。

和田:そこでプロダクトデザインでは、“PIIQ”を最も立たせ、“Sony”のロゴはハウジングの内側やプラグの先等の性能を担保する部分に入れることにしました。これは、ソニーというブランドを重視してきた従来のマネジメントでは、掟破りともいえる発想。しかし、機能ではなく、スタイルで新しいブランドを確立するためには、避けて通れないチャレンジでした。

“PIIQ”のプロダクトデザインは、日本側で担当しました。というのも、日本には森澤がいたからです。彼はアメリカでの生活が長く、自身もBMXのレースやDJなど、ストリートカルチャーに漬かってきたデザイナー。彼が企画段階から参加したことは、大きな力になりました。いくらソニーデザインに長けたベテランでも、スケートボードに乗ったことがなければ、ストリートカルチャー育ちのティーンエイジャーに向けたデザインは不可能だったでしょう。今回は森澤が起点となることで、ソニーデザインの価値観だけではリーチの難しいマーケットに、ユーザー・オリエンテッドの視点もって臨むことが可能になったのです。

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