
日比:私は「DSC-T700」のプロダクトデザインを担当しました。これは、4GBのメモリーと高画質液晶を搭載した、Tシリーズのフラッグシップ。従来の「撮る」に加え、「見る」機能も追求したアルバムコンセプト・モデルです。
同じアルバムコンセプトの「DSC-T2」も、私がデザインを手がけました。「DSC-T2」のデザインコンセプトは「フレーム」です。写真を「撮る」「見る」ことの象徴であるフレームをカメラの側面に回り巡らせる、それが発想の原点でした。レンズカバーを閉じたときのフラットな造形は、フレーム以外の要素をすべてそぎ落とした結果であり、それによって、セット全体を薄く小さく見せる効果も担っています。
さて、「DSC-T700」をデザインするにあたり、私がまず検討したのは、その「フレーム」デザインを継承するか否かです。普通なら、商品コンセプトが同じ場合、デザイン上のキャラクターも統一するのが正攻法というものでしょう。
しかし、内部構成が変わるのであれば、当然デザインもシフトするべきだと思うのです。新開発の光学防振レンズユニットは画期的な薄さ。これまでのような「薄く見せるためのデザイン」ではなく、「薄さそのものを体現するデザイン」の好機です。それは、見失われつつあったTシリーズの真の思想を取り戻すこと。そのために私が目指すべきは、「薄いDSC-T2」ではなく、もっとエッジの効いたデザインだと考えました。そこで、あえてデザインコンセプトそのものを刷新し、社内外に問に直すことを決めたのです。
日比:「フレーム」に代わる新しいデザインコンセプトが、金属の「プレート」です。それで写真を「撮る」「見る」という潔さ・意外性が、いかにもTシリーズにふさわしい。また、「プレート=薄い」という固定概念を利用し、薄さをより直観的に表現できる点でも説得力があります。しかし、この段階のデザインコンセプトなど、まだデザイナーの思いつきに過ぎません。それを、よりピュアな形でプロダクトに結実させることこそ大切です。
そこで私は、企画担当者や設計者たちとイメージを共有することからはじめました。原寸大の金属のプレートを用意し、「こうしたい」と説いていく。最初のうちは「実現できるか」、「それでよいのか」と半信半疑だったメンバーも、やがて「これしかない」と共感するようになる。私は、このプロセスがデザイナーにとっていちばん重要だと考えています。そうすることで、さまざまな問題がおのずと解決されていくからです。
たとえば、「DSC-T700」のエッジの切れ味。この「いかにも金属から切り出した」かのような鋭さは、従来のプレス加工では表現できません。設計者が鍛造加工と切削加工を織り交ぜる工程を採用し、実現できたことです。また、前後のキャビネットも、あえて面を合わせませんでした。カメラ背面から前面のキャビネットの断面が見えるのがポイントで、その厚さたるや、剛性感たっぷりの1.2mm。こうして「プレート」コンセプトを表現しつつ、実は前面は切削して厚みを落とし、薄型化と軽量化も図っています。素材の使いこなしから作りざま、目に見えない工夫までもが、「プレート」という一点に収束していったのです。
それ以外のことは、私は「何もしていない」といっても過言ではないくらいでしょう。ボタンの形状などのディテールについても、金属から切り出された「プレート」というイメージがあるから、すべてが必然的に決まりました。とはいえ、背面のブラックのキャビネットは、カラーバリエーションに合わせた微妙な調色にこだわっています。ただの漆黒だと、本体のカラーによっては冷たく見えるからです。シンプルで明快なデザインは、細部の要素すべてをデリケートに扱わないと、製品全体のイメージを崩してしまうこともあるんです。