
高木:本体の外装はチタンです。これは設計者のこだわりで、軽量・高強度な素材として提案してきたもの。しかし、デザイン的には難しい素材なんですよ。もともとくすんだ茶色味をおびており、単純に考えるなら黒と合わせたくなってしまう素材です。しかし、それではソニーがつくる必然性が感じられない。もっとはっきり言えば、ソニー以外のメーカーでも、そのような色の組み合わせはいかにも思いつきそうな気がしました。
そんな話をしながら、新津が提案してきた組み合わせ色がブラウンです。確かに、有名ブランドのバッグや日本人の髪の色も最近は茶色が多いし、ブラウンという色に対するなじみはいい。"子ども撮り"という従来のカムコーダーとはちがう、新しい"ハンディカム"のあり方を表現するのにも理想的な色だと思います。
まず、チタン自体の色出しですが、素材特有の濃いくすみがかった茶系色のまま使うのではなく、通常のシルバーに近い明るい茶色を出すことを目指しました。この色出しは非常に難しく、前例がないんです。いろいろな試行錯誤の取り組みの末、今回はチタンとしてはきわめて明るい色を出すことに成功しました。
次に組み合わせ色としてグリップ部に使用したブラウンの色出しです。こちらは3層コート。ゴールドの上にブラウンの透明材を吹きつけ、さらに強固なコーティングで保護しています。「サングラスを通してゴールドを見たイメージ」と言えば近いでしょうか。こういう微妙な色合いは、単純にカラーチップを見本につけて指示を出せば、狙った色に仕上がるというものではありません。チョコレート系がいいのか、緑色系か、赤色系か。設計とメーカーに頑張ってもらい、最終の"色出し"は私が立ち会いました。10トライまでやったのは久しぶりですよ。
実際に色の出具合を見ると、折り曲げたところに深みのある色や光沢が出ます。「HDR-TG1」の側面にエッジラインをほどこしてあるのは、グリップ感を高めることはもちろん、この独特の色のニュアンスを楽しんでほしいからなんです。
新津:単調ではないシンプルな形を作りだすことは簡単ではありません。技あるデザイナーは、そのあたりのノウハウを持っています。
高木があえて側面をフラットにしなかったのは、「この塗装は折り曲げた部分に独特の光沢がある。」、「凹凸をつけた方が、特性を出せる。」、「きれいに見える。」とわかっていたからです。確かに、わざわざこの造形にする必要はないかもしれませんが、ここに"表情"が生まれています。言いたいことが何のてらいもなく伝わってきます。単純だけれども、単調ではない。単調でないから、記憶に残る。それがシンプルということ。これがグラフィックデザインとはちがう、インダストリアルデザインならではの仕事です。
同じように「レンズ先端のシルバーの部分を引っ込めて、本体と液晶モニターのラインに合わせたら、もっとシンプルになるだろう。」という声が、内部でもかなりあったんですよ。しかし、それをやってしまうと面白くなくなってしまいます。やはり単調になりすぎるんではないかと感じました。私は、この感覚が重要だと思っているんです。あえてラインを合わせないことで、そこにレンズの存在感が生まれ、カメラらしさが主張できる。この"言いたいことがストレートに伝わる"ことが、シンプルという言葉の本質だと思います。優れたデザイナーは、難しいテーマをシンプルに伝えることができるものです。陰では大変な苦労をしているものですが(笑)。