市村:"ハンディカム"には、定形のパッケージがあります。サイコロというか、やや直方体に近い形のものです。しかし今回は、「特別なモデルだから、それにふさわしい箱を考えてほしい。」という新津の要望があり、あえて専用のパッケージをデザインしました。
まず形としては、プロダクトの薄さを反映させてスリムに。付属品や取扱説明書をどう同梱するか、店頭のシェルフに収まるかどうか、さまざまな要素を考えてサイズとスタイルを選んでいます。グラフィックとしては、プロダクトをほぼ原寸大であしらいました。通常、モニターを開いたカットも入れるのですが、今回はあえて省いています。プロダクトのいちばんきれいな佇まいを見せれば、それだけで十分にメッセージが伝わると判断したからです。
外箱には販売に必要な情報がたくさん入ります。一方で、私はソニーの「おもてなし」の気持ちを何とか表現したいと考えました。そこで頑張ったのが、ブラックの内箱です。取扱説明書やチラシも単に投げ込むのではなく、黒いケースに収納しています。工場を見ればわかるのですが、通常の"ハンディカム"なら、内箱の組み立てから封入まで、作業員がふたりもいれば十分です。しかし、今回は内箱の組み立てだけで4〜5人の作業員が必要なんですよ。ここまでやって、本体が白い樹脂の袋に入っていては興ざめですから、これもダークグレー色の綿の袋を特別にあつらえることにしました。
すべては、開梱した瞬間の「うれしさ」や「驚き」を演出するため。これまでソニーのパッケージは、プロダクトを守り、確実にユーザーの手元に届けることを重視してきました。でも、それでは"輸送箱"のレベルを超えられません。店頭に置かれたときも、開梱した後も、ブランドやプロダクトの"移り香""残り香"のようなものを、しっかり伝えたい。ソニーも、パッケージをコミュニケーションのメディアとして位置づけるときが来ていると思います。「HDR-TG1」が、その一端を担えればうれしいですね。

新津:今回のプロダクトは、"ハンディカム"の歴史の中でも特殊なものだと思います。内部のデバイスを見ても、単なる進化ではなく、明らかに次元のちがうレベルのものを開発・実装しています。非常に力の入ったプロダクトだけに、デザインに対しても外装のコスト上の制限はほとんど与えられませんでした。
こういう案件に携わったとき、どれだけアイデアが出せるかが大切だと思います。ルーティンでデザインしたり、日頃から何も問題意識を持っていなかったりしていると、いざというとき何の新機軸も出せないものです。
「HDR-TG1」は、私や高木、設計者が日頃から思っていることを惜しみなく出し合って生まれたプロダクトです。プロセスでは大変な思いをしましたが、結果としてシンプルなデザインになっています。個人の思い入れがソニーデザインを生んでいるのなら、それは、今回の案件のようなことを言っているのかもしれません。私たちは、そうやって苦労している先輩たちを横目で見ながら、ソニーデザインのDNAを継承して来ました。