久保田:今回のテレビはワイヤレスですから、設置場所の制約がありません。極端な話、部屋の真ん中に置かれることも想定されます。そこで、360度、どこから見られてもいいよう、後ろ姿もきれいに作り込みました。
まずは可能な限りネジを見せないこと。実は、これもフレームに押し出し材を採用した理由のひとつでした。あらかじめフレームに溝を設けてデザインしておけば、リアカバーをはめ込むだけで、ネジを使わずともきれいに組み立てられますから。さらに、受信部などのデバイスを収める部分も放熱坑が目につかないよう設計者に努力してもらい、結果的にこの綺麗な背面が実現できています。
また、普通、テレビ背面の端子類は露出したままのことが多いのですが、それもカバーで隠しました。周辺機器の接続ケーブルや電源ケーブルは、パネルを支えるアームの内部を通して一カ所から出す仕組みです。おかげで、背面は配線の見えない、すっきりした佇まいをキープできます。
そのアームは、垂直ではなく斜め前に傾斜するようデザインしました。これは、正面から見たとき、アームの存在が目立たず、画面がより軽やかに見える効果を狙ったもの。ミラー仕上げを採用したのも、周囲のインテリアが写り込み、条件によってはアームの存在感がなくなるのを期待してのことです。
松岡:このような背面の美しさやコネクタの隠し方、アームの出し方は、デザイナーがこだわるべき部分です。何が何でも配線を見せないというこだわり。しかも、それを自然に、無理なく造形の中に実現させる処理の方法。そのあたりが久保田らしいと思います。また、設計も久保田のこだわりに賛同し、情熱をもって取り組んでくれたため、背面の美しさを実現することができたと思います。
松岡:スピーカーはパネル部分とセパレートしています。設置方法に合わせて2種類を用意しており、据え置きタイプのものはスタンドにスピーカーを備えています。スピーカーは前面に開口しなければならないものですが、これを直方体でデザインすると、体積的に大きすぎ、せっかくの薄いパネルとバランスがとれません。そこで、スタンドの体積をミニマムにするため、丸いラウンドフォルムを採用したわけです。一方、壁掛けタイプではバースタイルのスピーカーを用意しています。
薄いパネルに合わせてスピーカーをデザインすると、音質がトレードオフされてしまうことがよくあります。しかし、このようなデザインなら、高音質とパネルの薄さを両立することが可能です。これは、デザインサイドからの提案で実現したものです。
こうして見てみると、どのように設置しても、どこから眺めても、不必要なラインやエレメントがありません。加飾のための要素がなく、すべてが必然性に裏付けられています。たとえるなら、「いかに少ない言葉で言いたいことを伝えるか」。それが久保田のスタイルですね。