
出口:"ポケットビット"をデザインする上で、私が一貫して考えてきたのは、この小さなプロダクトを、いかにして「道具として」進化させるかです。
たとえば、かつての"ポケットビット"は丸い窓をデザイン上のアイデンティティとしていました。それを違う形に変えても、単なるコスメティック上の変化であって、本当の意味での進化とは言えないでしょう。そうではなく、使いやすさや道具としての完成度をデザインで高めたい。USM-Jシリーズのスライドアップスタイルや今回のノックスライド方式は、このテーマへの私なりの提案です。

笹子:私はプロデューサーの立場として、新製品を担当するたび、そこにデザインとしての新しい発見や発明を盛り込みたいと考えてきました。その点、今回のモデルは、使い方とユニバーサルデザインへの、明快な答えがあります。ノックスライド式が素晴らしいのは、そのメリットをわざわざ言葉で説明する必要がないことです。ストラップホールにしても、ここまで細部に配慮の行き届いたデザインは、なかなか目にできないでしょう。
しかも、今回のモデルは、3つのパーツだけで外装を構成しています。アクセスランプのローレット加工も、後端部のストラップホールも、特別な加工をせずに実現できるものばかり。つまり、環境にもコストにも負担が小さいということです。
USBメモリーのデザインが難しいことは、もうお話しました。しかし、歴代の"ポケットビット"を比べると、どんどん装飾が減り、その分、必然性に裏付けられたデザインになってきたように思えます。工業製品としてピュアになっていくといいますか。制限の大きい中で、よくここまで進化したものです。私は、このノックスライド方式を、もうソニーのスタンダードとしてもよいのではないかと考えています。

岡:許された条件の中で最大限の効果を生み出すこと、魅力のある商品をつくることは、私たちメーカーのデザイナーにとって使命です。コストやサイズの制限がいかに厳しくても、デザイナーのアイデアが宿ることで、これだけ違うプロダクトが生まれる。ぜひ、今回の"ポケットビット"を手にしてほしいですね。見ただけでは分からないノックの感触や使い心地に、きっと、クリエイティビティの高さを実感してもらえるのではないでしょうか。