
椋:「PRS-505」は、アメリカの読書家に高い評価を得ることができました。その理由は、「読書家のための本」という明快なコンセプトを見つめ、プロダクトデザイン、ユーザーインターフェースとも、単機能に徹したデザインを行ったからです。
リーダー製品といっても中身は基本的にパソコンと同じですから、実はソフトウェアさえ書けば、パソコンのいろいろな機能を載せることが可能です。しかし、だからと言ってメール機能を加えたり、キーボードを載せたりしていったら、PDAと変わらなくなってしまいます。私たちが選んだのは、その逆の方向。機能を徹底的に吟味し、削ぎ落とすことでした。
結果としては、それが正解だったと思います。意外なことに、アメリカでは高齢者の方も、クリスマスのプレゼントなどに「PRS-505」を購入してくださる、という話を耳にしています。年配の方が、奥さんの好きそうなタイトルを入れて、ラッピングしてプレゼントするというケースも随分あったそうです。コスメティック上の高級感と共に、単機能の潔さ、わかりやすさが支持された結果なのではないかと思います。
思えば、ソニーは初代の"ウォークマン"で「テープレコーダーから録音機能をとる」というチャレンジを試み、新しいリスニングスタイルをつくりました。「PRS-505」も同じです。まさに引き算のモノづくりで、新しい読書スタイルを創造しつつある。その意味で、これは本当にソニーらしいプロダクトなのだと思います。
曽我部:reddot Design Award 2008の「best of the best」、IDEAのGold Awardなど、「PRS-505」は、海外で多くのデザイン賞を受賞しました。その受賞理由のひとつに“precise"というキーワードがあります。精緻ということですね。本体左右の曲面、正面右側のエッジのシャープさは、押し出し材だから実現できたもの。プレス加工では、絶対にこの精度感や切れ味は生まれません。その意味で、最初に押し出し材を提案してくれたエンジニアの力は、とても大きいものだったと言えます。
私は、これこそソニーのモノづくりの原点だと思うんです。今、プロダクトデザイナーがどんなに魅力的なコスメティックを発案しても、製造やコストなどの理由で、なかなか思うように実現できないケースも少なくはありません。しかし、そもそもソニーは、トップ自ら木型を削って「この大きさでつくれ」と高いハードルを掲げるなど、組織や役職を超えて刺激し合い、創りたいモノを目指して挑戦してきたメーカーです。
その意味で、今回のプロダクトは、私もソニーらしいと感じるんです。エンジニア、ユーザーインターフェースとプロダクトのデザイナーが、「こうしたい」という熱意を注ぎ合って実現したものですから。正直な話、これだけ大きなサイズとなると、押し出し材は精度の確保が難しく、金型にいろいろなノウハウが必要になってきます。その難しさを、エンジニアが克服する。ディティールにしても、ボタンはプラスチックのほうが安上がりなのにあえてアルミ材を使ったり、各表記もわざわざピクトグラムを開発して表現したり。「こんなプロダクトを創りたい。」という多くの意志が、シンプルな意匠の中に凝縮されてるんです。
「PRS-505」は、ソニーにとっては、決してメジャーなプロダクトではないかもしれません。しかし、こういう仕事に携われるのは、私たちソニーのデザイナーにとっては、とても面白く、うれしい体験なんです。
※"ウォークマン"、"WALKMAN”およびそのロゴは、ソニー株式会社の日本国およびその他の国における登録商標または商標です。