ソニーが世界で展開する直営店「ソニースタイル」。それは、ソニーの製品・サービスの開発者の意思を高い純度で発信し、商品とマーケット、お客様を結びつける前線基地です。いま、ビジュアルコミュニケーションにかけるソニーの意欲が、国境や領域を超えて拡大。「ソニースタイル」を進化させようとしています。



川鯉:ソニーのデザイナーは、商品の「目に見える」部分だけをデザインしているわけではありません。使いやすさや楽しさといった「体験」、つまり無形の部分も細心の注意を払ってデザインしています。しかし、それは実際にモノを手にしていただかないと、なかなかお客様にお伝えしにくいところ。そこで重要になるのが、リテールにおけるコミュニケーションデザインです。
すでにソニーは世界各地で直営店を展開しています。これらの店舗では、「ソニーの空間」として演出していくことが可能です。ここを舞台に、ビフォアセールスからアフターサービスまでの、一貫した新しい「体験」をデザインすること。デザイナーが、モノづくりだけでなく、マーケットでそれらをどのようにお客様に体感していただくか。これらコミュニケーションデザインを能動的に進めていくことも私たちに課せられたミッションでした。
ソニーの直営店として、単に店構えをデザインすればよい、という単純な話では済まされません。屋号ロゴの扱いの統一にはじまり、商品をお客様にお届けするまでの、ブランド体験そのものをデザインすることが必要になります。
この課題に、ビジュアルコミュニケーションを手がける私のグループと、ビジュアルマーチャンダイジングに長けた岡のグループが協力して取り組んできました。直営店の屋号は、すでに北米ではおなじみとなっている「ソニースタイル」。フルラインアップを質量で見せるだけではなく、「ライフスタイルの中にソニーの位置付けを考えていただく場」というメッセージを込めたものです。
岡:私は建築を主軸に経営やデザインのコンサルティング、プロジェクトプロデュースなどを手がけてきました。東京や海外のオフィスなどのプロデュースにもかかわりました。「場」のデザインが、私の専門とするところです。
このようなプロジェクトプロデュースにおいては、ガイドラインの作成やノウハウの伝授といった、ナレッジマネジメントのデザインが重要になります。今回も、ガイドラインにあたるストアブックを作成することからはじめました。これは、現地のプロジェクトリーダーが「ソニースタイルとは、どういう場か」を理解するためのマニュアルのようなもの。コンテンツとしては、ソニーのデザイン哲学や出店の意義と提供価値などから説きおこし、「ソニースタイル」の基本思想を共有できるよう配慮しています。さらに、店づくりのプロセスデザインまで言及し、ロードマップとして明示しました。初めて店舗開発のプロジェクトリーダーを任された人でも、店づくりを始めるのに戸惑わないようにとの配慮です。
リテールのガイドラインといえば、フランチャイズ店のものをイメージする人もいるでしょう。手すりの形からネジ一本に至るまで細かく指定し、その通りに作れば「誰でも」「どこでも」同じ店ができる、というもの。しかし、私たちのストアブックには、そんなことは一切書いてありません。「どう店をつくっていけば、商品とお客様の間をデザインしていけるか」にフォーカスしています。というのも、フランチャイズのスタイルは、ソニーの流儀や文化にそぐわないと思ったからです。ソニーは、各地域の主体性や独自性を尊重し、ローカライゼーションをとても大切にしてきました。たとえばニューヨーク、香港、東京では、人々の好みもマーケティングプランも同じでいいはずがありません。しかし、それぞれの「ソニースタイル」を訪ねたとき、個性は違うけれども同じ空気感がある、というものを目指しています。
その意味で、私たちには「店舗(=箱)をつくる」という意識があまりないんですね。コミュニケーションデザイン、ビジュアルマーチャンダイジングデザインという形で現地の人々と関わり、コラボレーションしていく、というスタンスです。おかげで私は、今のところ世界中を飛び回らなければならないのですが(笑)。
