
岡:こうして作成したストアブックを、どうすれば読んでもらえるか。ブランドのフレームワークに理解と共感を得られるか。ひとつの方法は、理想形をモデルストアとして示すことです。私たちの意図を理屈抜きで示せますし、それがデザインの力でもありますから。そう考え、直接現地でご協力をお願いし、積極的にディレクションしてきた店舗が、ようやく次々とオープンしはじめたところです。
先陣を切ってオープンしたモデルストアは、アジアの香港店、南米のブエノスアイレス店です。前者はロイヤリティの高いお客様をお迎えする場として、後者はこれから市場を開拓していく場作りとして。ターゲットや出店の目的は異なりますが、同じ空気感を演出しています。両者を見比べると、私たちのビジュアルコミュニケーションデザインの方向性がご理解いただけると思います。
たとえばエクステリアは、都市(=外)に対して「ソニースタイル」のプレゼンスを主張する重要なポイント。鳥居をモチーフにしたファサードで空間を仕切る、というのが世界共通の考え方となっています。「ここから先はソニーの世界」という、私たちからのメッセージですね。
インテリアは、白とシルバー、黒でトーン&マナーを統一。頭上の黒いラインの高さも、ストアブックで規定しています。そうすることで、各店で天井高が違っても、商品と空間の在り方をしっかり定義できるんです。同時にナビゲーションの機能も兼ねており、黒いラインをたどると、ソニーがサブブランドと呼ぶ“ブラビア"や“サイバーショット"といったカテゴリー別製品群がすぐに見つけられます。
リテールの世界には「お客様が店に入って、5秒で何を売りたいか分からせなければいけない」という言葉があり、ソニーにはデザインポリシーとして「シンプル」「ファンクショナル」「ユーザビリティ」などのキーワードがあります。それをビジュアルコミュニケーションの視点で実現すると、こういう店になるわけです。
石田:私は川鯉のチームで、ストアブックの制作から、具体的な店舗のグラフィックデザインまでを行っています。
たとえばファサードデザインもそのひとつ。屋号である「ソニースタイル」とは別に、それがソニーの直営であることを示す「SONY(ソニーロゴタイプ)」のプレートもあしらっています。これは、「私たちソニーが自信を持って、真心をこめてご案内するストアです」という証明であり、誇りです。そのため、プレートの扱いには、素材やロゴのレイアウトなどに最大限の注意を払いました。
さらに、店内ではカウンターやショッピングバッグに至るまで、各所に文字を表記する必要があります。そのフォントに関しても細かく定義しました。これまで地域や店舗ごとに文字の使い方がばらばらだったものを、今回のプロジェクトを機に統一したわけです。
困ったのは、製品のサブブランドのロゴの扱いです。それぞれのロゴの縦横比、使用するブランドカラーが異なるため、個別に対応していくと、いろいろな情報が氾濫してしまいます。そこで、店内で掲示されるグラフィックエレメントが視覚的に整理されて見えるよう、全てのロゴに共通の表示ルールを定義して、ストアブックに盛り込みました。「ソニースタイル」は、他社製品との差別化を考慮しなくてもよい、ソニー独自の空間。ソニーらしい機能美や、「ソニースタイル」としてのブランドイメージを醸し出せればうれしいですね。