
川鯉:最近のソニーは、その製品カテゴリー独自のブランディングを軸にプロモーションを展開することが主流でした。しかし、たとえば「フォトアルバムを作りたい」というお客様のニーズを、ひとつの商品だけで完結させることはできません。"サイバーショット"や"アルファ"、"バイオ"、フォトフレーム、ハードディスクレコーダーなどを「群」として展示し、お客様に体験していただくことこそ、「ソニースタイル」の狙いであり、これからのソニーのプロモーションの方向性だと思うんです。
そのとき、製品カテゴリーを言葉やサブブランドのロゴで示すより、ユーザーの「行為」をアイコンで示した方が直感的で分かりやすくなるはずです。また、マルチリンガルの国でも複数の言語を併記する必要がありません。ここはビジュアルコミュニケーションのメリットであり真髄ですから、しっかりやりました。
石田:アイコンは「ソニースタイル」共通のものを作成し、各店舗に配布しています。以前は、製品のインターフェースで使われているアイコンが、そのまま店内ディスプレイやフロアマップに流用されていました。しかしながら、該当するアイコンがない場合、店舗ごとに独自のものを作って対応していたため、店舗によってアイコンが不統一になる問題があったのです。
これはビジュアルコミュニケーション上、好ましくありません。また、一眼レフカメラのアイコンが「撮る」と「見る」をくくる、というように定義があいまいになったり、同じアイコンでも国や文化によって違う意味合いに受け取られたり。店内のサインボードとして使ってみると、製品の画面上で見たときと印象が変わることもあります。インターフェースとして慣れ親しんだアイコンも、リテール空間で使うには、デザイン検証やアレンジが必要になってきます。
ただし、まったく新しい形のアイコンをデザインするよりは、既存のものをベースにした方がより直観的に意味を伝えられます。各国の反応を見つつ、その用途に適した最善のビジュアルコミュニケーションとしてのアイコンデザインを用意するのは、カテゴリーが多いだけに苦労した部分でした。
岡:「ソニースタイル」は、これまでの店づくりのセオリー通りとは言えません。普通は「店構えはこうしなさい」「商品の見せ方はかくあるべし」という厳格なガイドラインがあり、その制限のなかで店舗空間を作り、限定された空間の中に新製品の紹介や季節ごとのプロモーションを行うもの。「ソニースタイル」では、あくまで商品が主役です。商品をいちばん輝いて見せることが不変のフィロソフィーで、そのためには店ごと、時代ごとに、ある程度違う空間デザインをしても構わないと考えています。

だからこそ多様であり、展開が柔軟で容易です。たとえば、電気店の一角がソニーの販売エリアとして割り当てられた「ショップインショップ」。ヨーロッパのデパートのソニーコーナーでは、他社の展示とフロアを共有しながらも、鳥居コンセプトに則した什器で空間を切り分け、「ソニースタイル」の店舗空間と同じ空気感やディスプレイのクオリティを確保しています。
川鯉:そのようなカスタマイズを、世界中の多くの人たちとの関わりの中で行うのが、プロダクトデザインといちばん違う部分ですね。マーケティングやセールスといったクリエイティブ部門以外の方々に、いかにして私たちの気持ちやデザイン思想を理解してもらい、彼らの手で、お客様にとっての最上のソニー体験の場である直営店を完成させるか。そのプロセスには、他の案件にはない臨場感と、コラボレーションを通して共感を得る、コミュニケーションデザインの醍醐味があります。
モデルストアやショップインショップを目にした人からの反応は上々です。その思想を自分の店舗に採り入れたい、という声も届き始めました。新規に出店する店舗だけでなく、既存の店舗も順次リニューアルし、私たちがストアブックに示したソニーデザインの精神やブランドの哲学を全世界に広げること。それを目標に、私たちのミッションはまだまだ続くことになります。