デジタル映像文化の開拓と発展に貢献してきたソニー。2008年に生んだデジタルフォトフレーム"S-Frame"も、ユーザーから大きな支持を集めています。それは、写真の本質とデジタルフォトフレームの可能性にアプローチした、デザイナーの想いの結晶です。





石井:"S-Frame"は、2008年に誕生したデジタルフォトフレームのプロダクト群です。私たちにとっては「満を持して」の市場参入でした。というのも、デジタルフォトフレームの楽しさにいち早く着目したのはソニーでしたから。実際、1999年にはPHD-A55というプロダクトをリリースしているんですよ。しかし、当時はデジタルカメラの普及率がまだ低く、デバイスも高価。開発に注力し続けるためには、時代が私たちの提案に追いつくまで待つ必要があったのです。
近年では、もうデジタルフォトフレームは珍しいものではなくなりました。しかし、目にするプロダクトは素材感に乏しく、ガジェット的なものがほとんどです。何より、単に画像を再生するビューワーを超えるものがありません。そこで"S-Frame"の市場導入に向け、私たちはデジタルフォトフレームのあり方を見つめ直すことからはじめました。「写真とは記憶そのもの。ならば、ただ写真を見るためのビューワーでなく、撮影したときの日時や気持ちを想起させるツールを目指そう」。それが私たちの結論でした。具体的にいえば、時計やカレンダーといった、ユーザーインターフェースの工夫です。こうして「インダストリアルデザインとユーザーインターフェースの融合」というデザイン指針が定められ、"S-Frame"のデザイン開発がスタートしました。
石井:市場導入時のインダストリアルデザインは、コンペの末に決まりました。その中から導き出されるキーコンセプトは、デジタルフォトフレームの主役は、あくまで画像であるということです。画像を引き立てるため、造形としては可能な限りシンプルでミニマムなものを目指しました。
そのための表現方法として、フロントを1枚のクリアパネルでカバーしました。そうすると、ただの額縁ではない黒いガラス板のような佇まいが表現できるのです。さらに、Vシリーズのパネルには、画像が透過する部分を除きハーフミラー処理を施しています。画像を鏡の中に浮遊しているかのように見せるのが狙い。これは2009年のXシリーズにも継承されており、"S-Frame"のアイデンティティにもなっています。
箱田:こうして生まれた "S-Frame"も、市場導入して早2年目。従来のミニマムデザインを踏襲しつつ、新鮮さや先進感をどう表現するかが、2009年モデルのインダストリアルデザインを担当する私のテーマでした。また、新登場となるXシリーズは、高精細な液晶パネルを搭載したぶん本体の厚みが増しています。それをデザインの力で薄く見せることも、重要なポイントだと考えました。 端面に向けて薄くなるXシリーズの造形は、これらの課題を一挙に解決するためものです。斜め前から見るとよく分かるのですが、従来のモデルはサイズもミニマムを目指し、端面をすっぱり断ち落としたスタイルをとっていました。しかし、Xシリーズで同じ手法をとると、いかにも厚ぼったく見えてしまいます。そこで今回は発想を逆転。あえて外側へとベゼルを伸ばし、薄くしていくことで、存在感を主張しつつ薄く見えるようにしたのです。端面を引き締めるフレームも細く、かつ丸みのある造形とし、外光をたっぷり写り込ませることで、さらに薄さを強調しています。
前面のパネルは、Xシリーズのみアクリルパネルではなくガラスを採用しました。これは前面の平滑性を高めたい私たちの要求と、反射防止のための樹脂封入に耐える強度を両立させる、合理的な選択。これだけ大きな液晶パネルに樹脂封入した例はないと思うのですが、効果は一目瞭然です。写り込みが激減し、写真がガラスに貼りついているようにクリアに見えます。またガラスならではの平滑な面がプロダクト全体の質感を高め、高級感のある仕上がりを得ることができました。