
久保田:はじめて試作品を見たときの第一印象は、「これがソニーだ」という一言に尽きます。私にとっての"ソニーらしさ"とは、驚きがあり、ほかに似たものがないことです。その斬新さと新しい音の楽しみ方をマニュアルでも表現し、ユーザーに伝えたいと考えました。

粟辻:マニュアルといえば、ユーザーが購入後に読むもの。プロダクトの魅力や価値をすでに理解している方が相手です。だから普通なら、「どう使うか」が説明されていれば十分なところです。しかし、あえて楽しみかたとテクノロジーまでを描いたのは、このプロダクトを中心に、人と人とのコミュニケーションを広げてほしいと考えたからです。「何ができるモノなのか。」「どうやって音を鳴らしているんだろう。」ゲストがそんな疑問を投げかけてきたとき、ホストがきちんと説明できて、会話を盛り上げられるようなツール。それは、やはりマニュアルの役割だろうなと。商品の使いかた、楽しみかたの情報が網羅されていて、しかも大切に保管されるものですからね。
だから、堅苦しい体裁にはしたくないし、通常の単色刷りでも済ませたくありませんでした。まず版型はスリムな本体を想起するサイズにしました。そのサイズを活かして、見開きの片面は各ページとも商品カットを裁ち落としで配置しています。商品の魅力を言葉に頼らず語る、「静かなコミュニケーション」の配慮です。次に印刷ですが、商品ディテールの再現性が決め手ですので、各工程は写真集並みの対応をお願いし、5色対応および現場での調整も重ねることで鑑賞に耐えうる質感を追求しました。

久保田:また、開発者に細かい点までヒアリングを行い、これまでのスピーカーのマニュアルとはちがう、読み応えのある内容と構成にしています。とはいえ、カタログではありませんから、きれいごとだけ謳っても意味がありません。実があり、しかも簡潔でわかりやすい文章になるように何度も練り直しました。また、和文と英文を併記していますが、英文の表現は単に日本語の直訳ではなく、プロダクトの魅力が伝わるよう細心の注意を払いました。
そこまでこだわったのも、ソニーからユーザーへ、またユーザーからゲストへと、ホスピタリティの気持ちが伝わるものにしたかったからです。ユーザーがプロダクトの価値を購入後に再発見できる。ユーザーとそのゲストを結ぶコミュニケーションツールになる。そんなふうにマニュアルを活用していただければうれしいですね。
松岡:個人的な感覚ですが、無指向性のスピーカーはまだ市民権を獲得していないのではないかと思います。だからこそ、「NSA-PF1」には、多くの方の目にとまりその音を届けてほしいと願っています。きっと、公共の場だけでなく、「自宅のリビングにも。」というニーズが開拓できると思うのです。そうなれば、新しいリスニングスタイルを創造することにも結びつけられるでしょう。

これまでオーディオの世界は、音を再生するための装置としてスピーカーが存在感を主張し、その前に特等席を設けるのがリッチな楽しみ方でした。一方で、ポータブルオーディオプレーヤーで自分だけの音楽の世界に浸るという楽しみ方もあります。それは間違いではないのですが、これからのオーディオのあり方として、多くの人が同時に自由で気軽に音と触れ合うという方向性も、きっとあるのではないかと思うのです。
そんなリスニングスタイルを創造したいという願いを込めて、「NSA-PF1」を世に送り出します。