−まず、ATRACの開発経緯を教えてください。

鈴木: ATRACが、MD発売によって世に出たのは1992年です。そこから圧縮率を更に高めたATRAC3を、1999年のMD新規格MDLP向けに追加しました。そして、ネットワーク音楽が浸透してきた2002年に、ATRAC3plusを新たに導入しました。

−技術的に、これらのコーデックは異なるものですか。

鈴木: 基本的な、技術上の枠組みは同じです。どのコーデックでも、入力されたPCM音源を一定のサンプルごとに信号処理して周波数に変換し、符号化を施して圧縮(エンコード)します。今度は、逆の手順で復号化を施し(デコード)、周波数を復元したのち、信号処理によってPCM音源に戻すという流れです。各コーデックでは、周波数に変換するサンプルの数に違いがあり、圧縮率が高いものほどサンプルの数が多くなります。

−コーデックの開発に際して、最も重要視することはなんですか。

鈴木: 音質とハードウェアとのバランスです。

井上: ATRACは、そのアルゴリズムをハードウェア(LSI)に実装し、商品として実現することを到達点に開発しています。そのためには、LSI開発側とアルゴリズム開発側との歩調を合わせて進めることが必要です。そこが、ATRAC以外のコーデックとの大きな違いで、LSI開発とコーデック開発を同時に進めたケースは殆どないでしょう。

辻: それは、やみくもにLSI側の処理の負担を増やせばよいというものではなく、実現可能なトレ−ドオフの接点をアルゴリズム開発側とハードウェア側で見つけだすことが必要だからです。例えばATRAC3plusでは、私の担当アルゴリズムはLSI担当者泣かせなところがあって、ミーティングなどを繰り返し、調整を行ったりもしました。

井上: 特にATRACの場合、ハードウェア(LSI)でエンコード処理できることが前提です。一般のコーデックのエンコード処理は、PC上などのソフトウェア処理での実現にとどまるものも多いのですが、ミニディスク(MD)は、ハードウェアで自己録できること、が絶対条件です。そのため、LSIで省電力で高速なエンコード処理をいかに実現するか、ということも考慮して、ATRACの規格をつくっています。