


藤本:ATRACはMD時代から慣れ親しんできたオーディオ圧縮方式だし、外国勢が数多く存在するフォーマットの中で、唯一の純国産ということで、個人的にも非常に愛着があります。また最近はPCやポータブルオーディオに限らず、音楽配信サービスでも広く使われていますね。ただユーザーサイドからすると、ATRACにATRAC3、ATRAC3plusといろいろなフォーマットが存在し、少しわかりづらいようにも感じるのですが……
鈴木:まずATRACの歴史ですが、MD登場時にATRACが、その後ATRAC3、ATRAC3plusと登場し、詳しくは後に触れますが、今回可逆圧縮のコーデックとしてATRAC Advanced Losslessというものを登場させます。それぞれのコーデックは新しい規格に切り替わっていくわけではなく、並行して存在していると考えてください。たとえばMDデビュー時のMDウォークマンはATRACのみが再生できますが、最新のHi-MD機器は複数のコーデックに対応しており、ATRAC、ATRAC3、ATRAC3plusとすべての再生ができます。
井上:確かに複数のコーデックがあるということにはわかりづらい一面もありますよね。実は今回のATRAC Advanced Losslessの登場を機に、ATRAC、ATRAC3、ATRAC3plus、ATRAC Advanced Losslessを”ATRAC”と総称することにしました。ロゴも新たに作成し、市場での認知度を高めたいと考えています。
藤本:なるほど、それは楽しみですね。この並存する中で、たとえばATRACはMDデビュー時のATRACと現在のATRACでは違いがあると聞いたことがありますが、ATRAC3なども進化しているのですか。
鈴木:MDがデビューした当時のATRACは、LSI上の問題から様々な制約を受けていました。その後、LSIの進歩に合わせて、どんどん改良させていったという経緯があります。実際、ATRACのLSIはVer.1、Ver.2、Ver.3、Ver.3.5、Ver.4、Ver.4.5、TYPE-Rと進化しました。つまりMDではハードウェア中心の進化でした。一方、ATRAC3なども進化させていますが、こちらはソフトウェア中心の進化となっています。
藤本:この進化の過程においても互換性は保っていますよね?デコーダ、つまりポータブルプレイヤー側が古い機器であっても、新しいエンコーダでエンコードすると、より高音質となったサウンドを楽しめるのですか?
井上:はい、そのとおりです。それぞれのコーデックでデコーダは変わっていませんので、音質の違いはあくまでもエンコーダの改善によって実現しているということになります。
藤本:そのエンコーダの改善というのは、要するにパラメータをチューニングするということなんですか?
井上:確かにパラメータのチューニングも行っていますが、それだけではなく、圧縮アルゴリズム自体の改善や新規開発といったことによる音質改善も同時に行っています。このようなエンコーダの改善を行うことで、一層の音質向上を図っているのです。
藤本:進化させて音が良くなるというのはいいのですが、使う側からすると、ちょっとわかりにくいのがコーデックをどう使い分けるかということです。たとえばATRAC3では66kbps、ATRAC3plusでは64kbpsと、非常に接近したビットレート設定がありますよね。進化していく過程で、このようなごく近いビットレートのものは実質的に同じものになってくるのでは?とも思えてしまいます。そういうことはないのですか?
東山:そうではありません。もともとATRAC3plusは低ビットレートメインとしてスタートしたものです。ただ、その後のハードウェアの進化、そして汎用性の高さなども求め、さまざまなビットレートを使えるようにしてきました。その結果ATRAC3の66kbps、ATRAC3plusの64kbpsと非常に接近したビットレート設定があることになりましたが、これらは違うコーデックであり、音にも違いは現れてきます。
またATRAC3plus登場時はメモリの記録容量が小さかったため、ファイルサイズを小さくできる64kbpsをメインに据えたということもあります。現在はPCやポータブルプレイヤーだけでなく、たとえばPSPの映像ソフトであるUMDビデオの音声部分にもATRAC3plusが活用されています。さまざまな分野で扱える、そして扱いやすいコーデックを目指しているわけです。