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君は「生録ブーム」を知っているか
  • 君は「生録ブーム」を知っているか

  • SLを狙う生録ファン。いわゆる「カメラ小僧」たちとは微妙に位置取りのポイントが違うらしいのだが、彼らは写真を撮り終えるとザワつき始めるので、生録派にはそれが頭痛の種だったらしい。

  • 「TC‐2850SD」(1973年発売、52,800円)と生録の装備。これらを背負って全国各地の“音”を追い求めた。
 かつて、1970年代中頃、日本中に「生録(なまろく)ブーム」なるものが吹き荒れた。「生録」——すなわち、生の音源を、自分自身で録音するという作業である。当時、録音といえばFM放送のエアチェックが主流であった(もちろんテープである)。しかし、それに飽き足らないオーディオマニアの間に、「自分で生の音を録ってみたい」という機運が盛り上がり始めた。その願いを叶えたのがソニーの“カセットデンスケ”「TC‐2850SD」である。プロ用可搬型テープデッキ“デンスケ”の名を冠した本格派で、キャッチコピーは「おもてに飛び出すデッキメカ」。もちろん、家庭内におけるオーディオデッキとしての性能も十分兼ね備えている。
 このカセットデンスケの登場によって生録ブームは爆発的なものとなる。お祭りやカーレースといったアクティブなものから、森の小鳥のさえずり、清流のせせらぎといった癒し系まで、録音対象はさまざま。中でも折からのSLブームと結びつき、走る蒸気機関車はファン垂涎のターゲットとなった。力強いドラフト音(シュ、シュ、ボッ、ボッ)、劈(つんざ)く汽笛……消え行くものを音で残すという郷愁とロマンがファンを魅了し、全国各地の録音ポイントが紹介された。
 “ハンディカム”や携帯電話のようにポケットに入る“機械”で、音はもちろん、映像ですらいとも簡単に記録できるようになった現在、「音を録るだけのために…」と、若い人は笑うだろうか。しかし、音だから、音だけだから、鮮やかに蘇る光景もある。生録ブームはそんなこだわりの人々がオーディオ史に加えた1ページであった。
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