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技術情報

バイオ電池(環境技術)

 私たちは、体内に存在する「酵素」(化学反応を促進させるたんぱく質の一種)を用いて、食物から活動エネルギーを得ている。その仕組みを応用し、電気エネルギーを得るのがバイオ電池だ。この電池は私たちが口にする、パンや米飯といった炭水化物(ぶどう糖)を燃料にして発電することから、極めて安全性が高い。さらに、ぶどう糖は植物が光合成によってCO2をとりこんでつくるクリーンなエネルギー源であり、エコな電池とも言える(*1)。ソニーは2001年、このバイオ電池の研究開発を開始した。
炭水化物(ぶどう糖)は化石燃料と異なり、大気中の二酸化炭素を増やさない循環炭素(カーボンニュートラル)の一つとして位置づけられる。

生命体とエネルギー

 植物は太陽から降り注ぐ光のエネルギーを用いて、水と二酸化炭素から酸素と炭水化物(ぶどう糖)を生み出す(光合成)。一方、動物(生命体)は呼吸により酸素を取り入れ、食物から炭水化物を吸収し、生命維持のための活動エネルギーを得て、二酸化炭素と水を排出する(生みだす)。ぶどう糖はエネルギー密度が非常に高い物質で、例えばぶどう糖を多く含む米飯1杯(150g)には240kcalのエネルギーを有し、これは単三電池96本分に相当する。同時に、ぶどう糖は極めて安定した物質である。安定しているということは、取り扱いが容易であること、自己崩壊現象に伴う急激なエネルギー放出により自分自身が傷つくことがないことを意味しており、これは生命を維持するエネルギー源として非常に重要な要素である。
  • バイオ電池による“ウォークマン”動作デモンストレーション
    バイオ電池による"ウォークマン"動作デモンストレーション(2007年8月プレス発表)

 では、生命体はどのようにぶどう糖からエネルギーを取り出しているのだろうか。ここで登場するのが生体触媒の「酵素」である。酵素は生体内において極めて特異的な反応を加速させることが知られており、ぶどう糖のような分解しにくい物質でも、何種類もの酵素を用いることにより、二酸化炭素まで分解することが知られている(解糖系やクエン酸回路等)。生体内ではこの分解に伴い生じる電子と水素イオンの流れを利用して、エネルギーを様々な形(熱エネルギーや他の化学エネルギー等)に変えながら生命活動を維持するわけである。バイオ電池はこの、生命体のエネルギー獲得システムの中心を担う「酵素」の力を借りて、炭水化物(ぶどう糖)から電気エネルギーを直接取り出す電池のことをさす(*2)。ソニーではこの技術をいち早くセルの形にして、"ウォークマン"等の駆動に成功している(1ユニット当り50mW/40cc(1.25 mW/cc)を4つ直列:2007年8月時点)(*3)。


バイオ電池のしくみ

 バイオ電池の主な構成部は負極、正極、電解質、セパレーターであり、通常の燃料電池と基本的には同じである。

特徴は
1. 負極、正極に用いる触媒に生体触媒である酵素を用いること
2. 負極、正極の電極上に「酵素」と、酵素間や酵素と電極間の電子の受け渡しを行う「電子伝達物質」を固定していること である。
  • バイオ電池のしくみ
    バイオ電池のしくみ

 負極側でぶどう糖が分解され、水素イオン(H+)と電子(e-)が発生する。そして、水素イオン(H+)はセパレーターを介して正極側に、電子(e-)も電子伝達物質を介して外部回路に受け渡され正極側に移動する。正極では負極から流れてきた水素イオン(H+)と電子伝達物質を介して到達した電子(e-)を用いて、酸素の還元反応を酵素の力を借りて行い、最終的に水が生成される。この負極反応と正極反応により、電解質中の水素イオン(H+)と電極−外部回路中の電子(e-)の流れを作り、電気エネルギーを発生させるのだ。


出力を上げるための工夫

 上記の通り、バイオ電池では負極、正極において「酵素」と「電子伝達物質」を固定している。負極においては酵素(グルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ)、電子伝達物質(ビタミンK3、ニコチアミドジヌクレオチド(NAD(H))を電極上に固定化する必要があるが、これらの条件を満たす固定化方法として、ソニーはアニオン性ポリマーであるポリアクリル酸とカチオン性ポリマーであるポリ−L−リシン(PLL)を用いたポリイオンコンプレックス法を採用した。(*4,5)正極も同様に酵素ビリルビンオキシダーゼと電子伝達物質であるフェリシアン化カリウムをPLLで固定化し、更に酸素、水、酵素の三相界面を作るため、大気暴露型電極を採用した。(*4)また、多孔質炭素電極内への水素イオン伝導を効率よくするために、高濃度電解質(リン酸緩衝溶液、pH7、1M)を採用。その結果、1.5mW/cm2@0.3Vという2007年当時としては圧倒的な出力性能を示すことができた。(*3
  • バイオ電池の電極面積当りの出力性能の推移
    バイオ電池の電極面積当りの出力性能の推移

 その後、負極の電子伝達物質をビタミンK3から2-アミノ-1,4-ナフトキノン(ANQ)に変えることにより3mW/cm2@0.5Vという性能を達成し、(*5)さらに電解質をイミダゾール緩衝溶液(2M、pH7)にすることにより5mW/cm2@0.5Vを達成している(*6)。2010年4月には、正極の電極構造を、従来の大気暴露型から、電極表面に撥水性を持たせることで、正極を電解液に浸しても機能する新規電極構造へ変更し、出力をさらに2倍の10 mW/cm2@0.5V まで高めることに成功した(*7,8)。また、一方で、ぶどう糖の分解物であるグルコン酸の2段階目の分解に用いる酵素(高容量化のために導入を検討:負極)や酸素還元用の酵素(正極)の耐久性向上のため、野生型の酵素を基に、遺伝子改変の技術を導入して耐久性の高い人工酵素を開発、こちらも近年、いくつかの成果が出始めている(*7,9,10)。

 これらの技術を順次導入してバイオ電池セルを試作、実用性の検証も行っている。2009年2月に開催されたFC EXPO 2009では、出力5mW/cm2を達成した技術を使い、従来の2分の1の電池サイズで"ウォークマン"を駆動させることに成功した。さらに、2010年1月には、出力10mW/cm2を実現した試作セルを、大手玩具メーカーである株式会社タカラトミーのコンパクトなリモコン操縦カーの試作機に搭載、玩具業界の展示会TOY FORUM2010で披露、おもちゃのエコカーとして注目を集めた。
  • FC EXPO2009で展示した最新のバイオ電池。
    FC EXPO2009で展示した最新のバイオ電池。 2007年8月当時と比較して、体積半分で同等の"ウォークマン"の駆動が可能となっている。
  • TOY FORUM2010で展示したバイオ電池搭載リモコン操縦カー。
    TOY FORUM2010で展示したバイオ電池搭載リモコン操縦カー。



今後の展開

 バイオ電池は、まだまだ技術的課題は多くあるものの、炭水化物(ぶどう糖)のような環境親和性が高く、エネルギー密度も高い燃料を利用できることから、次世代のエネルギーデバイスとして有望な存在だ。今後は早期実用化へ向けて、玩具などの低出力製品への搭載をめざし、将来的にはノートパソコンなどのモバイル機器への導入も念頭に置きながら、さらなる性能向上をめざして研究開発を進めていく。

参考文献

  1. http://www.sony.co.jp/SonyInfo/csr/eco/product/reduce/03.html
  2. 池田篤治:バイオ電気化学の実際, CMC出版 (2007).
  3. http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200708/07-074/index.html
  4. H. Sakai, et al, Energy Environ. Sci., 2, 133 (2009).
  5. Y. Tokita, et al, ECS Trans. 13 (21), 89 (2008).
  6. H. Sakai, et al, ECS Trans.16 (38) 9-15 (2009).
  7. H. Sakai, et al, Meet. Abstr. - Electrochem. Soc. (2010), in press.
  8. T. Nakagawa, H. Mita, et al, Meet. Abstr. - Electrochem. Soc. (2010), in press.
  9. D. Yamaguchi, et al, Meet. Abstr. - Electrochem. Soc. (2010), in press.
  10. H. Kumita, et al, Prepr. Pap.-Am. Chem. Soc., Div. Fuel Chem., 54 (2), (2009).






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