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技術情報

コンテンツ推薦(おまかせ、リコメンド技術)

 インターネットの発達や放送のデジタル化の進展はコンテンツの多様化をもたらした反面、情報の洪水という現象を加速させている。また、フラッシュメモリーなどの小型大容量メモリーの発展は"ウォークマン"などの携帯音楽機器で数百〜数千曲の楽曲を簡単に持ち歩くことを可能とした。しかし、ユーザーは欲しいコンテンツを大量の情報の中から探さなくてはならず、視聴したいコンテンツを簡単に探せる機能や、シャッフル再生に代わる新しい楽しみ方が求められている。
 これらを解決する手段としてソニーはコンテンツ推薦・検索技術に90年代から取り組んできた。研究開発の成果の一部は2001年頃からソニーの製品、サービスに搭載されはじめている。ソニーは長年培ってきた認識技術やAI技術をベースに、ハードウェア自身が再生しているコンテンツの内容やユーザーの好みを把握することで、今までにない新しい体験をユーザーに提供したいと考えている。

推薦技術とは

 推薦技術はハードウェアが自律的にユーザーの特性や環境に適応したサービスを提供するパーソナライゼーション技術の代表的応用の1つである。具体的には大量のコンテンツの中からユーザーの嗜好や状況を理解し最適なコンテンツをフィルタリングして提示する。その機能を大きく分けると以下の2つとなる。

  • ユーザー嗜好ベース推薦(個人化推薦)
    「今ならこのコンテンツを(あなたに)お薦めします」

  • 類似検索・関連検索(非個人化推薦)
    「これと似たコンテンツをお薦めします」

例えば、「今ならこのコンテンツ(これと似たコンテンツ)をあなたにお薦めします」というシナリオをハードウェアに実現させる場合には図1で示すように5つの要素技術が必要となる。

  • 図1 推薦技術の5要素
  • 図1 推薦技術の5要素
    図1 推薦技術の5要素


 コンテンツの「検索」と「推薦」システムとの比較を図2に示した。推薦システムは推測したユーザー嗜好やユーザー意図に基づき、ハードウェアが最適なコンテンツをフィルタリングする自動検索システムである。従って提示されるコンテンツは時間によって変化する。

  • 図2 コンテンツの「検索」と「推薦」
  • 図2 コンテンツの「検索」と「推薦」
    図2 コンテンツの「検索」と「推薦」



ソニーの推薦技術における特徴

 表1に、ソニーにおいて現在商用化されている代表的製品やサービスをまとめた(2011年9月現在)。ユーザーの嗜好ベースの推薦(個人化推薦)と、嗜好に依存しない類似・関連検索(非個人化推薦)の視点で分類している。
名称・
技術名称
搭載製品・
サービス
概要
嗜好ベース推薦 + 類似・関連コンテンツ推薦 「おまかせ・まる録」
「x-おまかせ・まる録」
ブルーレイディスク/DVDレコーダー 録画や再生の履歴からユーザーの好みを学習してお薦め番組を自動録画。
「おこのみナビ」 <ブラビア>
(2009年モデル)
視聴傾向をもとにユーザーの好みを学習してEPG画面上のお薦め番組に[☆]印を表示。番組がはじまる直前のお知らせ機能付。
「おすすめナビ」 <ブラビア>
(2010年モデル〜)
テレビ番組の視聴履歴を元にユーザー嗜好を学習。カメラ搭載モデルでは、顔認識技術を応用して、より正確な視聴時間を算出し、それを元に嗜好を学習。テレビ番組の中から、好みに合った番組を推薦。
「おまかせ更新転送」 ブルーレイディスク/DVDレコーダー コンテンツに対するユーザーの嗜好を学習し、据え置き機器で録画したコンテンツの中から最適なものを自動でモバイル機器に「お出かけ転送」するとともに、さらに、モバイル機器で視聴が終わったコンテンツについては、自動で据え置き機器に戻す「おかえり転送」する機能。ユーザーの嗜好を、モバイル機器への転送履歴、コンテンツの視聴/削除履歴、コンテンツ自体の特性(シリーズ番組か否かなど)から、幅広い視点で学習する。
「VAIO Giga Pocket Digital」 VAIO 視聴傾向、録画履歴、削除履歴、番組情報閲覧の履歴にてユーザーの嗜好を学習。録画済の番組も含むお薦め提示。お薦め番組自動録画。
「Media Gallery」 VAIO 再生履歴、情報閲覧履歴にてユーザー嗜好を学習。VAIOにためた音楽、インターネット上のWeb動画の中から、好みや時間帯に合ったコンテンツを推薦。再生中のコンテンツに関連する音楽、Web動画を推薦。
「VAIO Location Search」 VAIO GPSやPlace Engineで取得したユーザー行動ログに基づきユーザのよく行く場所を学習し、お薦めのスポット(レストラン、イベントやガソリンスタンドなど)情報を紹介。
「eBookレコメンド」 オンラインブックストア“Reader Store” 電子書籍の購入履歴と書誌情報からユーザーの趣味嗜好を学習し、好みに合う、もしくは関連する電子書籍をお薦めする。
「You May Like」 PlayStation Store ユーザーの購買履歴と他のユーザーの購買履歴を元に、ゲーム、ビデオ、コミックをお薦め。
「Playlist Generator」 Music Unlimited 楽曲ごとの 好き/嫌いを元に、ユーザーの嗜好を学習し、よりユーザーの好みに合ったチャンネルを構成する。
「tvtv service」(欧州での電子テレビ番組ガイドサービス) Gracenote EPG情報閲覧の履歴に応じてユーザーの好みを学習し推薦番組を提示。
「eyeQ」 (Gracenote社による電子番組表) Gracenote EPG情報閲覧の履歴に応じてユーザーの好みを学習し推薦番組を提示。従来のテレビ放送だけでなくVODなどのカテゴリーも含めた推薦を実現。
「レコメンド」 So-net「テレビ王国」地上波アナログ向けサービス※1 iEPGでの録画予約、番組情報閲覧の履歴にてユーザーの好みを学習し推薦番組を提示。DVD、VODコンテンツ、書籍などの横断推薦も実現。
「フォトナビワイン」 株式会社ゼータブリッジによる携帯電話向けサービス 携帯電話カメラを使ったワインラベル認識による銘柄検索と推薦サービス。
類似・関連コンテンツ推薦 「おまかせチャンネル」 "ウォークマン"、NETJUKE、VAIO Media Gallery、X-アプリ、"プレイステーション・ポータブル"、車載機器 海外モデル ユーザーの保有楽曲を12音解析技術を用いて6から30個のムード・テーマ別チャンネルに自動分類。プレイリスト自動生成、及び類似・関連楽曲検索。
「SensMe」 MediaGo、Sony Ericsson「Walkman」携帯電話 海外モデル、車載機器 海外モデル 音楽をテンポとムードによりXY座標にマッピングしプレイリストを生成する機能。
「気になる検索」 ブルーレイディスクレコーダ− ユーザーが選択した番組における特徴的な"人名"や"キーワード"を自動抽出し番組検索が可能
「x-みどころマガジン」 ブルーレイディスクレコーダー EPGデータから話題のテーマや流行キーワードを自動分析し、「マガジン」形式で紹介。
表1 ソニーグループで商用化されている推薦技術

※1 地上デジタル向け「Gガイド・テレビ王国」に移行し本サービスは終了。


  • 図3 VAIO Giga Pocket Degital お好み学習エンジン概要
    図3 VAIO Giga Pocket Degital お好み学習エンジン概要



  • 図4 12音解析による音楽特徴量を用いた音楽ブラウズ機能「SensMe」
    図4 12音解析による音楽特徴量を用いた
      音楽ブラウズ機能「SensMe」


1.コンテンツ解析:特徴キーワードの抽出・拡張
 テレビ番組のEPG情報などのメタ情報から番組特有のキーワードを抽出するためには、同一の意味を表す単語の表記ゆれの吸収(例:「ケータイ」と「携帯」)、未知語への対応(例:ブルーレイ)、番組趣旨に影響しない語の排除(例:司会、休止など)、単語意味のジャンルや文脈依存性(例:マウス)、複合語の取扱い(例:北海道名物、信心深い)などの課題がある。ソニーではロボットの音声言語処理技術等で培った自然言語処理技術を発展させ、テレビドメイン特有の解析技術や辞書を独自開発している。また、出演タレントの個性が番組のイメージに与える影響等、ドメイン知識による番組のメタデータの自動拡張も行っている (図5) 。将来はインターネット上のSNS(Social Network Service)など消費者発信メディアのタグ情報や評判情報を活用することも可能である。
  • 図5 ドメイン知識などによるメタの拡張
    図5 ドメイン知識などによるメタの拡張


2.信号処理と言語処理の融合
 ソニーではコンテンツ解析・嗜好解析において、コンテンツの音響信号や画像信号から得られる特徴量と言語情報を共に利用している。例えば楽曲コンテンツの場合、ソニー独自の12音解析技術で音楽信号から抽出したテンポやキー、曲の構造などの音楽的特徴量に加えて、

1楽曲のムードラベル(楽しい、ノリノリなど)との関連性の分析

1楽曲のメタ情報や批評文からの特徴も加えて楽曲を分類する

という2つの研究を行っている。

  • 信号処理と言語処理の融合
  • 信号処理と言語処理の融合


 上記 1では信号処理パターンへの言語情報の自動ラベル付けが可能となり、NET JUKE、VAIO等の「おまかせチャンネル」として商用化されている。この機能はハードディスク上に記録されたユーザーの保有する楽曲を29チャンネルのムードやアクティビティーに自動分類※する。

 また、これらの技術によりロックやジャズといった一般的な楽曲ジャンルの枠を超えた類似性、関連性による意外な楽曲との出会いを創出することができる。

分類器は多数の被験者による主観評価実験を元にモデル化。ムード語の選定も同じく感性の評価実験を通して決定。「悲しい」など評価に個人差のあるムードではさらに詳細な分類を内部で行い精度向上を図っている。


3.コンテンツ嗜好学習:CBF、CF手法の融合と最適化
 嗜好学習には、ユーザーが視聴したコンテンツの属性をベースに嗜好を予測する"内容ベースフィルタリング手法(Content Based Filtering: CBF)"と、他の類似ユーザーの履歴から嗜好を予測する"協調フィルタリング手法(Collaborative Filtering: CF)"がある。CBFとCFの融合は広がりのある推薦の実現に有効とされているが、計算処理時間の増大という問題が残る。またテレビのように次々に新しい番組が生み出されコンテンツの寿命が短い環境にCFは向いていない。ソニーでは、これらの問題を解決するためにコンテンツアイテムではなくコンテンツに紐づく属性の空間での協調フィルタリングを行い、これを内容ベースフィルタリング手法の嗜好予測演算と融合することでマッチングの計算回数を減らし高速化を図っている。
  • 図6 CBFとCF手法の融合
    図6 CBFとCF手法の融合


  • 図7 推薦理由提示画面 (VAIO Giga Pocket Digital)
    図7 推薦理由提示画面 (VAIO Giga Pocket Digital)

4.推薦理由の提示
 推薦内容をユーザーに受け入れてもらうためには推薦理由の提示が有効である。ハードウェアが自動検索した根拠を伝えることでユーザーからの信頼を向上させることができるからだ。現在、ソニーではVAIO(Giga Pocket Digital)で推薦理由を提示しており、将来はハードウェアとユーザーのより自然な対話による推薦インタラクションを可能とする技術の研究開発を進めている。

5.推薦エンジンアーキテクチャーの構築
 ソニーはコンテンツ解析、ユーザー嗜好学習、マッチングなどを統一的に扱える推薦エンジンアーキテクチャーを構築。このエンジンはサーバーだけでなくクライアント機器でも動作可能である。さらに録画済みコンテンツからの推薦、録画消去記録からの嗜好学習など家電機器特有の数多くのノウハウを投入している。

今後の展開

 あらゆる尺度の個人化に向けた研究が進行している。まずコンテンツ特徴量やユーザ嗜好を、より潜在的な変数で低次元に表現するモデルが実用化段階にある。これにより推薦の精度や検索パフォーマンスの向上が期待される。また、楽しい曲、リラックスした曲というコンテンツの感じ方には個人差があるように、人間の認知差を考慮に入れた嗜好学習モデルの研究、ユーザーの操作や表出を嗜好や興味の学習に活用する研究、クライアント機器とサーバー機器の融合による知的処理についても研究を進めている。




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