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技術情報

青紫色半導体レーザー(半導体レーザー)

 高精細で美しいハイビジョン映像を"そのままの画質"で記録できる新世代の録画規格ブルーレイディスク(BD)方式。その実現に欠かせなかったのが、光ディスクへの高密度記録を可能にするソニーの「青紫色半導体レーザー」技術だ。BD機器で使用する青紫色半導体レーザーは、400nm〜410nm帯の短波長で発光することで、高密度でのデータ記録と再生を実現した。赤色のレーザーを使用するDVDに比べて、同じ12cmの光ディスクに約5倍もの情報を記録できるのが特徴だ。

半導体レーザーとは

 レーザーには半導体レーザー以外に、ルビー、ガラスなどを使う固体レーザー、ヘリウムネオン、アルゴンなどのガスを使う気体レーザー、色素を使う液体レーザーなどがある。この中で半導体レーザーは、化合物半導体のP-N接合に電流を流してレーザー光を放射するので、他の方式に比べて比較的シンプルな構造である。ソニーは1984年に"MOCVD"結晶成長法による半導体レーザーの生産を開始し、音楽CDやMDの普及に貢献した。

 青紫色半導体レーザーの構造を図1に示す。半導体には電子の保持特性により、2種類のタイプが存在する。一つは電子を余分に蓄え、電子過剰型と呼ばれる「n型」。もう一つは電子を受け取る正孔の数に余裕がある正孔過剰型と呼ばれる「p型」だ。発光ダイオードはこの二つの材料を接合し p型にプラス極を、n型にマイナス極を接続して電流を流すことで結合部に"光"を発生させている。

 半導体レーザーはただ発光するだけでなく、目的に合わせた波長での安定した発光が求められるので、p型とn型の間に発光体「MQW層」を挟み込んで製造する。ソニーの青紫半導体レーザーは、p型クラッド層とn型クラッド層にAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)を採用し、発光体となるMQW層周辺の構造を適正化することで高い発光効率を実現しているのが特徴だ。

 青紫半導体レーザーの実用化で重要となる要素の一つに"寿命"がある。半導体レーザーは発光時に発熱するが、それにより素材が劣化して発光寿命が短くなってしまう。従来は半導体レーザーの基板にサファイアを使用していたが、放熱効率が低く、寿命を延ばすのに限界があった。ソニーはレーザー半導体基板の設計を根本的に見直すことで、基板に熱伝導率がサファイアよりも高い、窒化ガリウムを採用。これによりレーザーの熱を効率よく放熱するので、製品寿命を飛躍的に延ばすことに成功した。
  • 図1.窒化ガリウム基板上の青紫色レーザー概略図
    図1.窒化ガリウム基板上の青紫色レーザー概略図



レーザーの波長(色)と記録密度

 光ディスクへのデータ記録密度は、レーザー光の波長と出力特性が大きく影響する。レーザー光の波長が短いほど小さなスポットに光を絞れるので、より高密度なデータ記録が可能になる。

 世界で初めての半導体レーザーの発振波長は840nm(赤外線)から始まった。1975年にソニーは波長780nm(赤外線)の AlGaAsレーザーの室温連続発振を達成。12cmのディスクに650MBから700MBのデータ記録を実現し、音楽CDの普及に貢献した。また、ソニーは1985年に波長が650nm(赤色)のAlGalnP系レーザーの世界初室温連続発振を達成。容量が単層4.7GBのDVDは、12cmのディスクに映画一本を記録できるようにした。

 このDVDよりも高密度の記録を実現するために、発振波長405nmと極端に短い青紫色半導体レーザーが開発された。青紫色半導体レーザーの開発により片面単層25GB、片面2層50GBのBDの開発が成功。これにより1920×1080iのハイビジョン映像を1枚のディスクに2時間以上、記録できるようになった。

青紫色半導体レーザー開発の経緯

 当初、青や青紫のレーザーの開発は不可能とまで言われていた。理由は青色で発光するのに必要な化合物半導体の結晶化が困難だったからだ。さらに青や青紫で発光する化合物半導体を製造するには、周期律表の上段に位置する元素を使って化合物をつくらなければならない。そこに大きな課題があった。周期律表の上段に位置する元素ほど結合が強くなり、結晶化させるのが難しくなるのだ。

 ソニーは元素の特性について試行錯誤しながら、素材から研究をスタート。ついに1993年7月には、不可能と言われていたZnSe系半導体レーザーを使い室温での連続発振に世界で初めて成功する。その後も1996年2月にZnSe系半導体レーザーを使い連続100時間の連続発振に成功するなど、製品化を見据えた青色半導体レーザーの開発を成功させた。その後さらに安定した青紫の発光が得られるGaN素材を使用し、民生機器用の青紫色半導体レーザーの開発に成功する。そして2003年には、世界初のBDレコーダー「BDZ-S77」が発売された。
  • 図2.波長405nmのAlGaInNレーザー(a)と波長780nmのAlGaAsレーザー(b)の室温連続動作における光出力−電流および電圧−電流特性
    図2.波長405nmのAlGaInNレーザー(a)と波長780nmのAlGaAsレーザー(b)の室温連続動作における光出力−電流および電圧−電流特性

    BD用レーザーとCD-R用レーザーでは電圧-電流特性に違いがある。BD用レーザーの方が短波長のため、1光子あたりのエネルギー量が多いのでCD-R用レーザーに比べて駆動電圧及び消費電力が高くなっている。


3波長レーザーの実現

 3波長レーザーは光学系パーツの光ピックアップの簡素化が可能で、パーツ数、組み立て、製造などの生産工程を簡略化できるメリットがある。しかし CD、DVD、BDとそれぞれで使用する半導体レーザーは素材から異なっており、簡単に3イン1のピックアップはつくることはできないと考えられていた。

 不可能を可能にしたのは「プレイステーション 2」の技術だった。ソニーは「プレイステーション 2」で、すでにCDとDVDのハイブリッドピックアップを成功させており、このノウハウを投じることで、3波長レーザーを実現した。3波長レーザーはBD 用のGaNレーザーチップを装着した基板を製造し、その上にCD/DVDのハイブリッドチップを実装させている。BD用のGaN基板は熱伝導率が高く、 CD/DVDのハイブリッド基板から発せられる熱を効率よく排出できる。

 そして、「プレイステーション 3」は1台で、CD、DVD、BDというまったく異なる3つの光ディスクの規格に対応していた機能を備えて登場した。「プレイステーション 3」は、ゲーム機としてだけでなく、次世代のハイビジョンプレーヤーとしての市場を急速に広げていった。
  • 図3.3波長レーザー模式図
    図3.3波長レーザー模式図



今後の展開

 CDからDVDそしてBDへと映像やデータを記録する光ディスクは引き継がれてきた。新しいメディアの規格が登場する背景には、半導体レーザーの進化が大きなファクターとなっている。

 より波長を短くすることによる開発は、青紫色半導体レーザーの登場で一区切りがついたと言える。青紫色半導体レーザーよりも波長を高めると次は紫外線になってしまい、半導体レーザーだけでなく、光学部品や記録メディアの紫外線耐性にも問題が発生してしまうからだ。今後はより強力な出力を備えた青紫色半導体レーザーを開発することで、データ記録の高速化や多層化の実現に向けて開発を進める。




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