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技術情報

デジタルノイズキャンセリング(ノイズキャンセリングヘッドホン技術)

 2008年1月、ソニーは米国ラスベガスで開催されたコンスーマーエレクトロニクス機器の展示会「2008 International CES」においてデジタルノイズキャンセリングヘッドホン「MDR-NC500D」を発表。日本国内へ向けては、2008年4月下旬に商品発売することを発表している。ノイズキャンセリングヘッドホン機能をデジタル化したのは世界初
 従来、ノイズキャンセリング機能はアナログ信号処理で行っていたが、ソニーは音響解析技術・デジタル信号処理技術・トランスデューサー技術を結集し、ノイズキャンセリング機能のデジタル化を実現した。
※2008年3月ソニー調べ

デジタルノイズキャンセリングヘッドホンとは

 ノイズキャンセリングヘッドホンは、使用環境における騒音をマイクロホンで集音、信号処理を行うことで、騒音をキャンセルする信号を生成し、ドライバーユニット(発音部)から音として放射することで結果としてユーザーに静かなリスニングを提供するというものである。このノイズキャンセリングヘッドホンの心臓部とも言うべき信号処理は、処理速度の関係で従来はアナログのシステムが用いられていた。ソニーは、この信号処理をデジタル信号処理に置き換えることにより、ユニークな特長を得ることに成功した。次にこれらの特長について解説する。

高いノイズキャンセリング性能

 「MDR-NC500D」のブロックダイアグラムを図1に示す。本機はフィードバック方式の構成をとっている。ハウジング内に設けられた検出マイクロホンは耳元の音を継続的に監視している。このマイクロホンの出力信号 A (図1の A )はアンプ、A/Dコンバーターを経てデジタル化され、DNCソフトウェアエンジン(信号処理部)に送られる。一方、入力プラグから入ってきた音楽ソースの信号 B (図1の B )は、A/D コンバーターでデジタル化されデジタルイコライザーで周波数特性が整えられ、DNCソフトウェアエンジンに入る。DNCソフトウェアエンジンでは、耳元の音 A から音楽ソースの信号 B を減算し、差分をとることでキャンセルすべき騒音の信号 C (図1の C )を抽出する。次に抽出されたキャンセルすべき騒音の信号 C を位相反転し、ドライバーから音楽信号とともに再生することで耳元でのキャンセリングを実現する。

 ただしここでキャンセルすべき騒音の信号 C をそのまま位相反転、再生すると主に比較的高い周波数において マイクロホン→ノイズキャンセリング回路→ドライバーユニット→空間→マイクロホンの経路で発生する位相遅れに起因する発振が起こる。いわゆるハウリング現象である。これを防ぐためにフィルター回路で発振の原因となる高い周波数帯域の信号を除去する必要があるが、「MDR-NC500D」はこれをDNCソフトウェアエンジンにおけるデジタル信号処理とすることで、緻密なフィルタリングを行い大幅な性能向上を果たした。

※従来のアナログフィルターでは急峻な遮断特性を得ることが困難であったため、安定性(=耐発振性)を求めると本来キャンセルに寄与する有効な帯域の信号までも除去してしまうため、性能の向上が難しいという問題があった。


  • 図1.MDR-NC500D ノイズキャンセリングヘッドホン 内部ブロックダイアグラム
    図1.MDR-NC500D ノイズキャンセリングヘッドホン 内部ブロックダイアグラム



デジタルならではの高音質

 ノイズキャンセリングヘッドホンがキャンセルしようとする騒音には、通常のCD等の音楽ソースの中には含まれていないような大きな音圧の低音が多く含まれている。これをキャンセルするためには、大きな低音に打ち勝つだけの音圧を発生させる能力がヘッドホンに求められる。ただし、ノイズキャンセリングヘッドホンはポータブル機器であるため、準備できる電源に制限がある。限られた電力で性能を限界まで高めるため、ノイズキャンセリングヘッドホンの音響系には通常のHi-Fiリスニング用と全く違うチューニングが求められる。具体的にはキャンセル帯域における高い電気-音響変換効率である。(図2)

 このため、キャンセリング性能を追求すると音質はそれと引き換えに低域がせり出し、歯切れが悪くなりがちである。そこでソニーは、キャンセル回路の前段に設けられているイコライザー回路もデジタル化することで、アナログイコライザーでは得られない優れたS/Nと緻密なイコライジングによるナチュラルなトーンバランスを実現した。
  • 図2
    図2



さまざまな騒音環境への対応
「MDR-NC500D」AIノイズキャンセリング機能

 「MDR-NC500D」に搭載したデジタルノイズキャンセリングならではのユニークな機能としてAI (Artificial Intelligence)ノイズキャンセリング機能が挙げられる。ソニーはノイズキャンセリングの"効き"が騒音環境によって異なることに着目。ユーザーの実使用における代表的な騒音環境(1.航空機内 2.列車やバス 3.オフィス)を抽出し、研究を続けることでこれらに最適化した3種類のノイズキャンセリングモードを得ることに成功した。AIノイズキャンセリング機能では、その場の騒音を分析し、最適なキャンセリングモードが自動選択される。

「MDR-NC500D」のAIノイズキャンセリング機能の動作
  1. 電源が入った状態でユーザーがAINC MODEボタンを押すと通常のノイズキャンセリングヘッドホンの機能を停止し、解析モードに移行する。
  2. 解析モードでは3秒間その場の騒音を解析、そのスペクトラムならびにいくつかの要素をパラメーターとして前述の3種類のノイズキャンセリングモードの中から最適なものを選び出す。
  3. その後、選択されたキャンセリングモードでのノイズキャンセリング動作に復帰する。
  • 図3. Alノイズキャンセリング機能:その場の騒音を分析し、最適なキャンセリングモードを自動選択
    図3. Alノイズキャンセリング機能:その場の騒音を分析し、最適なキャンセリングモードを自動選択



今度の展望

 デジタルノイズキャンセリングヘッドホン技術の歴史はスタートしたばかりであり多くの可能性がある。デジタル信号処理の特長としては1.非線形な系を扱える、2.複雑な処理が可能、ということが一般的に言われている。ソニーはこれらの特長を駆使しつつ、さらなるノイズキャンセル性能の向上、機能の拡張、省電力化、低廉化を図っていきたいと考えている。




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