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技術情報

有機トランジスタ

 20世紀のエレクトロニクスの目覚しい発展は、シリコンや化合物半導体という無機材料からつくられたトランジスタの高性能化によって支えられてきた。今後は、このように高性能化されたデバイスが扱う高度な情報に、いかに効率よく、そしていかに自然に人間が関わるかが重要な課題になる。そのためには、人との親和性の高いエレクトロニクスの実現(図1)および、その製造技術の効率化が大きな課題である。これまでの微細化により高性能化を図ってきた無機トランジスタとは、全く異なるアプローチが要求されるというわけだ。ソニーは、この課題を解決するために有機トランジスタの研究開発を行っている。 図1 人間と関わるデバイスの高度化の例 図1 人間と関わるデバイスの高度化の例

柔らかいエレクトロニクス

  • 図2 有機半導体分子の例
    図2 有機半導体分子の例

●柔らかく、曲げることができる有機物
 人と親和性の高いエレクトロニクスを実現するための基板には、大きな面積でも軽く丈夫で割れにくいプラスチック基板が適している。有機物ならば、無機物と異なり耐熱性の低いプラスチック基板上にでも、良質な薄膜を形成することが可能。

ここでいう有機物とは、炭素(C)を骨格として、その他の元素を結合させた分子のことで、プラスチックやビニールのような樹脂に近い材料である。従来のトランジスタは、無機物であるシリコン(Si:ケイ素)結晶からつくる。このシリコン結晶は、非常に硬い材料だ。一方、有機物は軽く、柔らかい点が特長であり、有機物は人間と親和性の高い柔らかいデバイスに向いた材料と言える。また有機物は通常、電気を通しにくい材料であるが、近年は導電性ポリマーに代表されるように、電気を通す有機物を化学合成によってつくりだすことが可能になってきた。

●室温での作製が可能な有機トランジスタ
 有機トランジスタは、その半導体層に有機半導体(図2)を用いたトランジスタである(図3)。半導体として数10 nmの薄膜を用いる場合は、有機薄膜トランジスタ(Organic Thin-Film Transistor:OTFT)とも呼ばれている。仕組みは、通常の無機トランジスタと同様であり、ゲート(gate)電極にかける電圧を変化させることで、ソース(source)電極およびドレイン(drain)電極間の有機半導体中を流れる電流をオン/オフすることが可能だ。無機トランジスタとの大きな違いの一つは、その作製温度にある。通常無機トランジスタは、500〜1000℃もの高い温度が必要だが、有機トランジスタは室温〜200℃で作製することが可能である。このため、有機トランジスタは、熱に弱いプラスチック上にも形成でき、軽く薄いだけでなく、柔らかく曲げることのできるフレキシブルディスプレイや、フレキシブルセンサーなどのユニークなデバイスの実現が可能なのだ。

※電子の移動を制御する電極


  • 図3 有機トランジスタの構造
    図3 有機トランジスタの構造



有機トランジスタの応用例〜フレキシブルディスプレイ〜

 ディスプレイは、人間が情報と関わるために重要なデバイスのひとつである。例えば、現在の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイでは、画像の表示部には有機物を用いているが、その表示部を制御するトランジスタはガラス基板上の無機トランジスタ(シリコンTFT)で形成されており、曲げることは困難である。しかし、そのトランジスタを有機半導体材料で用いてプラスチック基板上につくると、全体が柔らかく、落としても壊れない、丸めたり、畳んだりできるディスプレイが実現できる。ソニーはプラスチック基板上に作製した有機トランジスタにより、フレキシブル透過型液晶ディスプレイ(2005年7月 発表[1])、フレキシブル有機ELディスプレイ (2007年5月発表[2])(図4)巻きとれる有機ELディスプレイ(2010年5月発表[3])(図5)の駆動を実現し、柔らかく、落としても壊れないディスプレイが可能であることを実証している。
  • 図4 曲がる有機トランジスタ駆動フレキシブル有機ELディスプレイ(2007年5月プレス発表)
    図4 曲がる有機トランジスタ駆動フレキシブル有機ELディスプレイ(2007年5月プレス発表)
    動画配信中


  • 図5 巻きとれる有機トランジスタ駆動フレキシブル有機ELディスプレイ(2010年5月プレス発表)
    図5 巻きとれる有機トランジスタ駆動フレキシブル有機ELディスプレイ(2010年5月プレス発表)
    動画配信中



エレクトロニクスを印刷する 〜製造方法の革命〜

 有機トランジスタのもう一つの重要な点は、その簡便な製造方法にある。現在、無機トランジスタの製造には、大掛かりな真空装置や複雑な加工工程が用いられている。一方、有機物の多くは有機溶媒に溶かし"インク"にすることが可能なため、大気中で印刷するという単純な工程で回路を作製することが可能だ。また、印刷という方法ではフレキシブルな基板や大面積の基板に対応しやすい。従来の無機トランジスタの製造方法の際は、数%の原料使用効率であるが、印刷の原料使用効率は、手法を最適化することで90%以上が可能になるため、環境資源問題に鑑みても魅力的な製造方法と言える。ソニーでは、この有機トランジスタを印刷で作製する研究も進めている。

今後の技術展開

 有機トランジスタは、まだ発展途上(進化中)のデバイスである。今後、有機材料からその印刷プロセス、デバイス作製、設計の総合技術開発を進めることで、実用化に向けた性能向上と信頼性向上を図っていく予定だ。ここでは応用例としてフレキシブルディスプレイを取り上げたが、今後はセンサーや入力デバイスへの応用も進むと考えられ、それらと合わせることで、一層ユニークなアプリケーションの実現ができると考えている。

参考文献

  1. N. Yoneya, N. Hirai, N. Kawashima, M. Noda, K. Nomoto, M. Wada, J. Kasahara, I. Yagi, K. Tsukagoshi, and Y. Aoyagi, Digest of Tech. Papers of AM-LCD 05, 25 (2005).
  2. I. Yagi, N. Hirai, M. Noda, A. Imaoka,Y. Miyamoto, N. Yoneya, K. Nomoto, J. Kasahara, A. Yumoto , and T.Urabe, Society for Information Display 07 Digest, 1753(2007).
    http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200705/07-053/
  3. M. Noda, N. Kobayashi, M. Katsuhara, A. Yumoto, S. Ushikura, R. Yasuda, N. Hirai, G. Yukawa, I. Yagi, K. Nomoto, and T. Urabe, Society for Information Display 10 Digest, 710(2010).
    http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201005/10-070/






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