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機器内高速ワイヤレス伝送技術(無線伝送技術)

 今回ソニーが世界で初めて開発した「機器内高速ワイヤレス伝送技術」(*1)は、ますます高速化、複雑化するエレクトロニクス機器内部の配線を無線化するもので、今後の製品設計に大きな変革をもたらす可能性を秘めた技術である。このシステムは長年蓄積してきた高周波、ミリ波の技術と、ソニーの最先端エレクトロニクス製品開発の経験やノウハウにより実現したものである。

機器内配線の現状

 近年、機器内配線は製品設計を左右する大きな問題になっている。デジタルスチルカメラの高精細化、カムコーダーやテレビのHD化といったエレクトロニクス機器の高機能化が進むのに伴い、CPU、メモリー、ディスプレイやイメージセンサー等の電子デバイス間で交換されるデータのサイズと伝送速度は高まる一方だ。そのためLSIのI/Oパッド数および電子デバイス間や基板間配線の速度と数が急増、その結果LSIのサイズはパッド数で決定され、多数の高速配線が基板を占拠している。さらに高速信号を伝送する多ピンコネクタは信頼性とコストを制約している。

機器内高速ワイヤレス伝送技術の特徴

 機器内高速ワイヤレス伝送技術はこれら高速化・複雑化する機器内配線を無線に置き換え、前記のような問題を一気に解決する(図1)。このシステムは非常に小さな回路であり、基板上あるいはSystem On Chip (SoC)、System In Package (SiP) 内に埋め込まれる。ひとつの無線チャネルの伝送速度は1端子あたりのそれより高く、多くのパッドや配線は少数のアンテナに置き換えられるため、LSIパッケージと基板サイズが小さくなる。また、機器内のコネクタ数が削減され、コスト低減と信頼性向上を図ることができる。さらに配線により生ずる構造的制約が低減され、あるいは可動部にも使用出来ることから、製品設計の自由度が高まり、今までにない製品をもたらす可能性もある。
  • 図 1: 機器内伝送のコンセプト図(左:従来例、右:ミリ波機器内伝送システム)
    図 1: 機器内伝送のコンセプト図(左:従来例、右:ミリ波機器内伝送システム)


小型で高速伝送を実現するミリ波無線回路

 この機器内高速ワイヤレス伝送システムは搬送波にミリ波(30—300GHz)を採用することで10Gbpsを超える高速伝送を無線で可能とし、回路の小型化を実現している(図2:機器内高速ワイヤレス伝送システムのブロック図、表1:試作したシステムの諸元)。今回の試作で選択した搬送波周波数は 60GHz、伝送速度11Gbps、比帯域は18%になる。従って11Gbpsの信号を扱うベースバンド回路はもとより、高周波回路、アンテナにも十分な比帯域を持たせるように設計をした。また波長は5mmであり、回路やアンテナは小さくなる。回路面積の決定要因のひとつにインダクタがあるが、この数が極力減るような回路構成とした。アンテナは1mmに満たないボンディングワイヤを2本使った広帯域モノポールアンテナ(図3)等、数種類を開発した。
  • 図 2: 機器内高速ワイヤレス伝送システムのブロック図
    図 2: 機器内高速ワイヤレス伝送システムのブロック図


周波数 56GHz
変調方式 振幅変調 (ASK)
データ伝送速度 11Gbps
消費電力 送信機: 29mW
受信機: 41mW
1ビット当たりの消費エネルギー 6.4pJ/bit
チップ内の回路部分の面積 送信機: 0.06mm²
受信機: 0.07mm²
電源電圧 1.1V
半導体プロセス 40nm Low-Power Logic CMOS
表 1: 機器内高速ワイヤレス伝送システムの諸元(*2

  • 図 3: ボンディングワイヤアンテナの写真
    図 3: ボンディングワイヤアンテナの写真  


簡単確実な周波数同期を実現する注入同期方式

 注入同期方式により、11Gbps高速伝送の実現するに足る送受信周波数同期をシンプルかつ低消費電力の回路で実現している。注入同期方式とは、発振器にその自走発振周波数に近い信号を注入することで、注入信号と全く同じ周波数で発振をする現象である。このシステムの変調方式はAmplitude Shift Keying (ASK)で、その搬送波成分を受信機の局部発振器に注入している。この注入同期方式により送受信機の周波数差は無くなり、かつ送信信号に対する受信側発振器の位相変動も小さくなる。この位相変動はデータ受信特性に影響するため、低く抑えたい。今回開発したシステムでは、この位相変動のパワースペクトル密度が-123dBc/Hz (1MHzオフセット時)に抑えられていることを確認した。これは、通常無線機器の局部発振回路の位相雑音に当たるが、Phase Locked Loop (PLL) 方式による60GHz局部発振器でも実現が難しい値である。

低コスト化とLSI埋め込みをも実現するミリ波CMOS技術

 このシステムに使用する送受信回路はすべて40nm 標準ロジックCMOS プロセスを用いて実装した(図4)。特殊な半導体プロセスを使わないことで、ミリ波チップコストの低減と共に、SoCに本システムを埋め込む道筋をもつけた。回路設計に必要なミリ波におけるトランジスタモデルは自社で測定した結果を元に作成した。チップ上の配線に生じる小さな寄生インダクタ、容量分はミリ波回路設計に大きな影響を与えるが、これはレイアウト情報等から極力予測し、設計に反映させた。これらのことからミリ波CMOS回路設計においても設計値と実測値の乖離を小さくすることが出来た。
  • 図 4: 開発した送信機(左)と受信機(右)チップ写真
    図 4: 開発した送信機(左)と受信機(右)チップ写真


 このシステムから発するミリ波伝送信号は機器内に閉じ込められていて、周辺の機器に影響を与えることは無い。これは、このシステムが送信する電力が非常に小さいこと、また同システムを搭載する対象製品には、不要輻射(不要な電磁波が放射されること)を防ぐシールドが施されているためである。このことからこのシステムで使用する搬送波周波数と使用帯域幅は任意に選択できるのも、大きな利点の1つと言える。

プラスチック伝送路を用いた新しい機器内接続

 ここまでアンテナを用いた伝送について述べたが、ソニーではさらにミリ波の特長を生かしたプラスチック伝送路の利用を提案している(*3)。光ファイバー中を光が通るように、波長の短いミリ波は数mmの断面のプラスチック中を伝搬する。アンテナから放射した電波は拡散し、距離とともに減衰するが、プラスチックを伝搬するミリ波は拡散しないので、プラスチック伝送路を用いることで伝送距離を延ばすことが可能になる。また、複数のチャンネル間の電波干渉を防ぐことができるため、多チャンネル化が容易になる。現在は機器内の高速伝送にシールドケーブルが用いられるが、シールドケーブルの代わりに安価なプラスチック伝送路を用いた、まったく新しい高速接続の可能性がある。

今後の展開

 今後はこのシステムの特長を活かし、電子機器への応用を進めていく。今回発表したシステムは最大11Gbps単方向伝送であるが、さらなる高速化、多チャンネル化、双方向化を目指して開発を進めるとともに、さまざまな内部構造をもつエレクトロニクス製品への搭載へ向けて、アンテナや伝送方式の確立をめざす。

参考文献

*1
"世界初、ミリ波による「機器内高速ワイヤレス伝送技術」を開発〜11Gbpsの高速データ伝送回路を0.13mm2の小面積で実現〜", ソニー(株)プレスリリース, 2010年2月8日.
*2
K. Kawasaki, et al., "A Millimeter-Wave Intra-Connect Solution," ISSCC Dig. Tech. Papers, pp. 414-415, Feb. 2010.
*3
S. Fukuda et al., "A 12.5+12.5Gb/s Full-Duplex Plastic Waveguide Interconnect," ISSCC Dig. Tech. Papers, pp. 150-151, Feb., 2011.
Y. Tanaka et al., "A Versatile Multi-Modality Serial Link" ISSCC Dig. Tech. Papers, pp. 332-333, Feb., 2012.





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