SONY

聞かせて先輩!
後輩記者のTakeaway
視覚障がいの有無にかかわらずカメラで撮影を楽しむ。社員の熱い想いが実現した音声読み上げ機能とメニュー画面拡大表示機能とは

安部さん、鈴木さん、畠中さんがソファーに並んで座る集合写真。鈴木さんはフルサイズミラーレス一眼カメラ『α7C II』を持っている。

左から安部さん、鈴木さん、畠中さん。鈴木さんが手に持つのはフルサイズミラーレス一眼カメラ『α7C II』で、音声読み上げとメニュー画面拡大表示機能の両方を搭載している。

2023年10月にソニーが発売したフルサイズミラーレス一眼カメラ『α7C II』(アルファセブンシーマークツー)には、2021年より取り組んできたメニューや操作画面を音声で読み上げて操作をアシストする音声読み上げ機能、そしてメニュー画面拡大表示の両機能を初めて搭載しました*。

この音声読み上げ機能と、画面を見やすくするためのメニュー画面拡大表示機能は、デジタル一眼カメラα(アルファ)の開発チームで本機能の開発をリードする畠中文一さん、そして視覚に障がいがあるカメラ好きのソニー社員・鈴木淳也さんが中心となり、何度も議論を重ねながら実現したものです。

社員の熱い思いが、前例のないインクルーシブなものづくりを可能にした開発の舞台裏に、ソニーでサステナビリティの領域の広報を担当する安部優里香さんが迫ります。

笑顔の安倍さん

私がインタビューします!

安部優里香さん

ソニー株式会社 コーポレートコミュニケーション部門 広報部

2023年入社。サステナビリティの領域を中心に、対外広報を担当しています。休日はαを持って出かけることも多く、旅先の景色や趣味であるグルメの撮影を楽しんでいます。

笑顔の畠中さん

お話を伺ったのは…

畠中文一さん

ソニー株式会社 システム・ソフトウェア技術センター ソフトウェア技術第3部門 プラットフォーム3部

カメラなどイメージング領域の製品やサービス/アプリのUX/UIを担当しています。休日は釣りに行ったり、料理を作ったりしています。

鈴木さん

鈴木淳也さん

ソニー株式会社 技術開発研究所 インタラクション技術研究開発部門 インタラクション技術開発2部

生活を楽しく、便利にするための立体音響インタラクション技術を開発しています。趣味は、バロック音楽を楽しみながら、物語を描くこと。

全盲のカメラ好き、鈴木さんとの出会い

ソファーに座った鈴木さんと畠中さんが会話している

安部:まずはお二人の出会いについて聞かせてください。 お互いについて知ったきっかけは?

畠中:2018~19年ぐらいにソニーでアクセシビリティへの取り組みが始まったとき、私が担当するカメラでもアシスト機能が検討されたんです。

ただ、カメラは視覚に頼る商品。視覚障がいのある方はカメラを使わないという先入観もあり、「使ってもらえるかわからないのに、どうなの?」みたいな空気になるんじゃないか……という懸念があって。

そんなときに同僚の方が「全盲のカメラ好きが社内にいる」と教えてくれたんですよ。

鈴木:社内用のアクセシビリティ研修映像のインタビューに、僕が出ていたんですよね。それで畠中さんが僕に会いにきてくれて、カメラを使うときの不便さの話を共有しました。1ヶ月後くらいにまた畠中さんがやってきて、「αに音声読み上げ機能を搭載しようと思う」と話してくれました。

笑顔の畠中さん

畠中:初対面のとき、まだ声も掛けていないのに鈴木さんがくるっとこちらを振り向いたから、「マンガと同じだ、心の眼だ!」とびっくりした記憶があります(笑)。

話している鈴木さん

鈴木:なんとなく音とか気配でわかるんですよ(笑)。

安部:鈴木さんはふだん、どんなふうにカメラを使っていらっしゃるんですか?

鈴木:僕にとってカメラはコミュニケーションツール。人と話すと声で表情がつかめるから、「今嬉しそうだな」というタイミングでシャッターを押したり。手で触って「面白いな」と思ったものを撮ったりもします。

鈴木さんが撮影した写真
鈴木さんが撮影した写真

その写真をみんなに見せて、ワイワイ楽しむ。自分自身は見られなくても、旅先で撮った写真を見せて「こんなものが写っているよ」なんて教えてもらえると、新たな発見があるんです。

僕は後天的な視覚障がいで、12歳のときに見えなくなったので、視覚イメージは持っています。写真も「こんな感じで撮りたい」という意図があるから、デジタルカメラでバンバン撮って家族や友達に「どう?」と聞く。「なんかいい感じだよ」「ちょっと被写体が外れてる」なんて意見を参考にしながら、だんだん撮りたい写真に近づけていくという感じです。

鈴木さんが撮影した写真
鈴木さんが撮影した写真

安部:主役の猫がしっかり写っていますね!こちらのアジサイは枠にしっかり収まりつつ、花の色が鮮やかで梅雨の始まりを思わせる素敵な写真です。

カメラを設定している鈴木さんの前に、花のブーケが置かれている

鈴木さんに実際に撮影していただきました。その時の様子はこちら

鈴木:僕はこんなふうに使っていますが、ロービジョン(眼鏡やコンタクトレンズを入れても視力が0.3未満)の方にはまた別の楽しみ方があるでしょうね。例えば景色なら、見たい方向に向けて写真を撮って、パソコンの画面で見れば、拡大鏡の役目にもなる。

「見えないのにどうしてカメラを使うの?」と思われるかもしれませんが、 逆に自分が見えないからこそ、「写真を残すことで、自分の視覚情報の一部になる」という感覚があるのかなと思います。

だから、初めて畠中さんが音声読み上げ機能を搭載した実機を見せてくれたときはワクワクしました。畠中さんが生き生きと取り組んでくださっていたことも、なんだかとても嬉しかったというのが第一印象ですね。

共に走り始めた二人。その過程にあった困難とは?

安部:αシリーズの『α7C II』『α7CR』にはメニューにアクセシビリティの項目があって、「音声読み上げ」と「画面拡大」を選択できます。こうした機能、とりわけメニューや操作画面を音声で読み上げる機能は、カメラにはあまりない発想ですよね。実現までには色々なご苦労があったと聞きました。

ソファに座って話をしている阿部さんと鈴木さん

畠中:そうですね、やはり最初の一歩という難しさが大きかったかなと思います。

技術面での課題は「数千あるメニュー文言✕10言語分」という膨大な音声データを、どうやってカメラに内蔵するか。オンラインなら文字を音に変換するプラットフォームが使えますが、カメラは常にオンライン接続されているわけではないので、あらかじめ音声データを用意しなくてはいけない。

そこで音声圧縮技術を使うという判断をしたことで、光が見えた。今は全世界トータルで10言語の対応ですが、全言語展開するためにはさらにデータ用のスペースが必要ですから。

鈴木:すごいなぁ……本当に大きな一歩ですね。

ソファーに座って話をしている畠中さん

畠中:商品開発は大人数でやるので、数百人規模でプロトタイプの実機を触るんです。鈴木さんとの実証で「カメラが喋っている」という状態をみんなに見せられたことは、かなりのインパクトがあった。そういう一歩ずつの積み重ねで、徐々に我々がつくるもののイメージを共有できるようになっていきました。

安部:鈴木さんのサポートで、特に畠中さんの助けになったのはどんな部分ですか?

畠中:一番は協力姿勢かな。とにかく積極的なんです。完成度の低いソフトウェアでも、触らせろ触らせろと(笑)。

鈴木:あはは!

畠中:ふつうは何かと遠慮が生まれがちなんですけど、鈴木さんの方から「まだですか」と言ってくれるから、本当にありがたかったですね。

やはり開発者にとって、一番大切なのは当事者の声。鈴木さんが当事者として指摘してくれることは、仮に我々が考えた結果と同じだったとしても重みが違います。

話をしている鈴木さん

鈴木:嬉しいです。どんな操作だったらスムーズか、どんな順番で情報がほしいかといったことを色々イメージしながら、随時フィードバックしてきました。

当事者がアクセシビリティに関わる際、よくあるのは「完成品を見てください」と言われてしまうケース。でも畠中さんとのやり取りでは、本当に一緒に進められているという実感があります。

アクセシビリティの壁を「インクルーシブデザイン」で乗り越える

畠中:今回、我々が拠り所とした「インクルーシブデザイン」では、当事者と一緒にものづくりをすることで、障がい者と同じような状況にある他の方にも使ってもらいやすい商品を開発できるという考え方があります。

このことがチームでも実証されたんです。私も含めて老眼の人が多いんですが、「アクセシビリティいいね」じゃなくて「メニュー画面拡大表示機能いいね」「音声読み上げ機能いいね」になってくる。障がい者のためにというのは単なるきっかけで、「機能として優れている」に変わっていくなと。

α7C IIの画面が「音声読み上げなどのアクセシビリティ機能を設定しますか?」という質問と「設定する、今はしない」という選択肢を表示していて、設定するのボタンがセレクトされている

安部:私もソニーに入社してから、インクルーシブデザインという言葉を様々なところで耳にするようになりました。

このさき自分も視力が落ちるかもしれないし、スマホやカメラの文字が小さくて見えづらいなと感じることは今もあります。アクセシビリティを追求することで、誰しもが恩恵を受けられる—それを当事者の声から実現していくことは、本当に価値ある取り組みですね。

アクセシビリティがクリエイターを増やす、ソニーが目指す未来とは?

安部:αにアクセシビリティ機能が加わったことで、鈴木さんのカメラの楽しみ方に変化はありましたか。

ソファーに座って話している阿部さん、鈴木さん、畠中さん

鈴木:楽しさが2倍にも3倍にも膨らんだなという感じがあります。以前はシャッタースピードを調整したいときも、ダイヤルを回した感覚で何となくやっていました。でも今は、125分の1とか500分の1とか、ちゃんと数値を聞いて確認できる。より自分の意図をもって撮影できるようになりました。

畠中:私たちは鈴木さんと出会えたことで、「視覚障がいの有無にかかわらずカメラで撮影を楽しめる」という確信を得ることができましたが、「こういう人にはこれは使えない」「関係ない」という先入観って、カメラ以外にもあると思うんです。

ソニーは「感動を創り出すクリエイターに近づく」という考えを持っていますが、そのためにはクリエイターになりたいと思える環境づくりが大事。クリエイティビティを発揮したいと思ったとき、誰もがそれを発揮できる環境を用意できたら、クリエイターが増えるわけですよね。

私はアクセシビリティを、クリエイターを増やすという観点で捉えています。

今はどの業界も高齢化が進んでいるけれど、画面の音声読み上げやメニュー画面拡大表示機能があれば、老眼の影響で電子機器の画面が見づらくなってきたという人にも使ってもらえる。

両手を使って話している鈴木さん

鈴木:αのようなアクセシビリティ機能が、「障がいがあるかたのために」というスペシャルニーズではなく、目が見える人にとっても助けになるものとして浸透していくといいですよね。

おそらく視覚障がい者自身も、「自分は見えないから、カメラなんて使えない」という思い込みがまだまだあると思います。そんな方にαを届けることで、僕のようにコミュニケーションの幅が広がる楽しさを知ってほしい。αを使うことで視覚情報という大きな可能性が広がり、視覚障がい者がどんどん写真・映像クリエイターになっていけるような未来を思い描いています。

ソファーに座って話している阿部さん、鈴木さん、畠中さん

後輩社員のTakeaway

・自分ごととして考える

αの音声読み上げ機能やメニュー画面拡大表示機能に興味を持ったのは、決して制約のある人に向けられたものではなく、誰もが一時的に、また将来的に制約を受ける可能性があるということに着目して始まったプロジェクトだからです。 広報の業務は、部署や組織、国、地域までも異なるメンバーとやりとりすることも多いですが、お二人のお話から学んだ、相手の立場や状況をよく理解し、密なコミュニケーションを通じて描くゴールに進んでいくというプロセスは日々の業務でも実践したいです。

・当たり前を当たり前だと思わないこと

鈴木さんは普段から、周囲の人との“コミュニケーションのツール”としてカメラを楽しんでいると知り、私自身これまで視覚障がいのある方はカメラを使わないという固定観念にとらわれていたことに気づきました。 入社してわずか半年ほどですが、ソニーにはいろいろな新しいこと、常識では考えられないようなことをも真っすぐに考えている社員が本当にたくさんいて、毎日とても新鮮です。 鈴木さんと畠中さんの対話から生まれたという音声読み上げ機能も、お二人の間では“野望”をかなえるための次なる挑戦が始まっていると聞き、世の中を変えうるイノベーションは、当たり前だと思わないことから生まれるのだと実感しました。 私も自分からどんどんいろいろな人に会い、いろいろな野望を聞いてみたい、“初めて”や“挑戦”であふれるソニー社員でありたいと感じました。

・すべての人にエンタテインメントを届けるために

今回の取材の中でも特に印象的だったのは、鈴木さんが「αに出会って周囲とのコミュニケーションの幅がぐんと広がり、写真を撮る楽しみが何倍にも膨らんだ」と話していたことです。 畠中さんからは、機能の開発段階から搭載までの経緯を伺い、数百人規模の開発でありながらも社員一人ひとりが取り組みの意義を理解しているからこそ実現できた、たくさんの思いが詰まった製品であるとも感じました。 私も広報として、ソニー製品のアクセシビリティはさらに進化していくという期待感を伝えることで、一人でも多くの人に楽しみ、そして感動を届けたいと強く思いました。

※ 「音声読み上げ、およびメニュー画面拡大表示機能は、現在一部機種限定の機能です。販売地域によって対応言語は異なります。

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