これまでのミニマムデザインを継承しながらも、新鮮かつ大胆。スリムなフォルムとスタイリッシュなデザインで好評の“サイバーショット”Tシリーズが、美しい曲面と色、新しいGUIを身につけ、生まれ変わります。何がTシリーズをここまで変えたのか。デザイナーの言葉が、その答えです。
石井:"サイバーショット"Tシリーズは、DSC-T77/T700で大幅なスリム化を果たしました。また国際的なデザイン賞を受賞するなど、「薄くて美しい」Tシリーズのイメージを決定づけたモデルだと思います。今回のモデルチェンジのポイントは、「画質の向上」です。撮像素子には、暗いシーンでも美しく撮れる新開発の"Exmor R"(エクスモア アール) CMOSセンサーを採用してます。以前からユーザーの強いリクエストであった、「暗い場所でもきれいに撮れるTがほしい」というニーズにしっかりと応えるためです。
しかし、画質や性能を向上させると、改善に伴うメカ配置等で、どうしてもボディの一部が厚くなってしまいます。そこが今回のデザイン的にはとてもチャレンジングな点。うまくデザイン処理をしないと、Tシリーズのスリムなイメージが台無しになってしまいます。また、DSC-T77とは違う魅力を表現したいと思いました。DSC-T77は、直線や円を使った幾何学的なデザインで、ちょっとストイックに過ぎるほど。そのシンプルな佇まいにセクシーさや柔らかさをプラスできれば、新しい魅力が表現できるのではないかと考えました。
そこで、森澤にインダストリアルデザインを託すことにしました。彼は化粧品のパッケージデザインにも造詣が深く、ソニーのデザイナーの中でも曲面の使い方に独特の感性があります。そのセンスをぜひ"サイバーショット"の世界に取り入れたいと考えたのです。
森澤:いろいろと検討した結果、ボディの厚みという課題に対応するには、レンズバリアを曲面にするしかないと考えました。曲面は、ベースとなる線の引き方ひとつで可愛くもできるし、セクシーさやシャープさも表現できます。多彩な方向に振れるだけに、プロダクトのコンセプトに合ったバランスを作り出すことが重要です。今回は女性ユーザーを意識したものなので、化粧品などでも使われる「程よいセクシーさ」を狙いました。しかし、これまでの"サイバーショット"が持っている高級感や、シンプルで精密な質感を損なうわけにはいきません。納得のいくバランスを見つけ出すまで、一本の線に苦労することになりました。
私は曲線を主とする造形の場合、まず手で線を引いてから、それをトレースしてデータ化し、さらに3D CADでシミュレーションするプロセスをとっています。単純な曲率の線をつないでも、実際に曲面にすると光がスムーズに流れないからです。よく「曲線は光の反射でデザインする」といわれますが、それはCADで表現しきれるものではありません。石井と一緒に検討しながら線を微調整し、シミュレーションで反射光の流れ方をチェックし、モックでそれを確かめる。曲面を作るということは、一本の線を突き詰める作業ともいえます。
こうして生まれたDSC-TX1のレンズバリアは、両サイドを丸めず、抜けていくようなラインでシャープさを表現。滑らかに流した柔らかい造形と、程よいバランスでまとまりました。構造的な問題だったボディの大きさも、最終的には新しい個性に結びついて、これまでのモデルより「程よいセクシーさ」が出せたと思います。