2010年に北米で発売された“Sony Internet TV powered by Google TV”。テレビとネットワークを融合した新しいユーザーエクスペリエンスを提供すると同時に、デザインの完成度と使いやすさでも高い評価を得ています。「テレビとネットワークの融合により、テレビは進化し続けることができる。その可能性にチャレンジする最初の一台でありたい」。そう語るデザイナーたちが生んだ、新しいテレビのあり方です。
菅野:この商品の最大の特徴は、スマートフォンやPCのようにネットワークを通して機能が進化し続けることです。残念ながら、これらの機器を使いこなすターゲットユーザーの生活の中心にはテレビがありませんでした。そんな人々をも魅了するテレビを作りたいという思いが、企画の背景にありました。「テレビを観ない人」のためのテレビを創るには、デザインにおいても従来と異なるアプローチが必要だったのです。
そこで、プロダクト、ユーザーインターフェース、コミュニケーション、取扱説明書を含む、デザイナーのタスクフォースを組むことからはじめました。ひとつには、私たちが追求すべきユーザーエクスペリエンスを、より多角的な視点から検討し、デザイナー全員で共有するため。もうひとつは、お客様がウェブやカタログで商品を知る時点から、店頭で実際に体験し、パッケージに触れ、購入後に使いはじめるまでを、一貫したエクスペリエンスとしてデザインしたいと考えたからです。
江下:タスクフォースで最初にスタディーしたのは、ターゲットユーザーのイメージでした。「テレビを観ない人」とは、どんなライフスタイルや価値観の人々なのか。デザイナー独特の感覚をたよりにビジュアライズしてくことで、デザインコンセプトを明確にすることができました。
ネットワークを通して、様々なコンテンツに触れる機会があり、いつでもどこでも情報を共有することができる今、「テレビを観ない人」とは、単にテレビ番組を観ないということではなく、テレビ番組も、音楽やウェブ、SNSと同じ、多様なコンテンツのひとつとして捉え、それぞれの機器で楽しんでいるユーザーだと想像できます。
インターネットで動画を観ながらコメントしたり、知りたいことがあったら即座に検索する。さまざまなメディアやコンテンツを同時に楽しみ、次の瞬間には別の興味に飛んでいる。既成概念に縛られない、とても軽い感覚でコンテンツを楽しむ。そして、その楽しみ方の中心にはいくつもの自分の「好奇心」がある。何百枚ものビジュアルスタディーを経て、たどり着いたのは「重力に縛られない好奇心」を持つユーザーというメージでした。