MDR-1
MDR-1
[ 2012.9.3 up ]

Proud to Listen, Proud to Wear

ソニーのヘッドバンド型タイプのヘッドホンに、新しい"顔"の登場です。MDR-1シリーズ。スタンダードモデルのMDR-1Rに、ノイズキャンセリング機能を持つMDR-1RNC、Bluetooth対応のMDR-1RBTを加えた3モデル。その誕生の背景には、「1」を冠するに値する、ヘッドホン開発の先駆者・ソニーのプライドとデザイナーたちの熱意があります。

飯嶋 義宗
飯嶋 義宗
ソニー(株)
クリエイティブセンター
統括課長
森本 壮
森本 壮
ソニー(株)
クリエイティブセンター
プロデューサー/デザイナー
矢代 昇吾
矢代 昇吾
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー
青柳 聡
青柳 聡
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー
前坂 大吾
前坂 大吾
Sony Europe Limited
デザインセンター・ヨーロッパ
シニアデザイナー
Richard Small
Richard Small
Sony Europe Limited
デザインセンター・ヨーロッパ
デザイナー

"最高級"を生み出すための総力戦

飯嶋

飯嶋:ここ数年、欧米のヘッドホン市場では、高級ヘッドバンド型タイプが成長を続けています。音響機器メーカーとしての真価が問われるこのセグメントでソニーのプレゼンスを高めたい。そのためには流行に流されるようなものではなく、「音質」「装着性」「デザイン」の本質を極めたプロダクトの創出が必要と考え、それが今回のプロジェクトの発端となりました。

森本:MDR-1シリーズは、より高い音質を求めるヘッドホン愛用者に問うモデルです。その開発には、携わる全員が最初から同じ情報、ユーザーのイメージ、目指すプロダクト像を共有することが必要だと考えました。

そこで、まずプロジェクトメンバー全員でワークショップを行うことにしました。世界各地のデザインセンターのデザイナーたち、ヨーロッパのマーケティング担当者や日本の商品企画担当者から音響エンジニアまで。マーケットリサーチやブレストを行い、全員の意識のベクトルを合わせるべく、ロンドンへと乗り込みました。

飯嶋:なぜロンドンか? 答えは、そこが世界に通じる音楽とファッションのトレンドが生まれる地だからです。マーケットリサーチに、ここほど適した都市はありません。我々はロンドン近郊にあるデザインセンターヨーロッパのメンバーと共に、プロジェクト専用の暫定オフィスを立ち上げ、何十人ものユーザーを招き、その声を受け止めました。

追求すべきは、ヘッドホンの本質

image飯嶋:リサーチに協力してくれたのは、プロの音楽関係者だけではありません。セミプロのDJ、WEBクリエイター、ファッション誌の編集者といったトレンドリーダーたちも快くインタビューに応じてくれました。さすが、ヘッドホン文化の先進国です。誰もが、音質や装着感に一家言を持っています。その声をもとにブレストを行い、目指すヘッドホンのあり方を検討しました。

森本

森本:中でも印象的だった意見は、「ソニーはヘッドホンの先駆者なのだから、王道を歩んでほしい」というもの。トレンドリーダーたちは、"流行もの"には食指が動かないものなのですね。音に強いこだわりのある方に響くのは、究極の道具としてのヘッドホンなのだと我々は確信しました。

ヘッドホンの本質とは音質と装着性です。課題は、それらのバランス。我々は、このテーマと「Proud to Listen, Proud to Wear」というキーワードを持ち帰り、それぞれにデザインの検討をはじめました。そして社内コンペ。同じ出発点からスタートしたため、各地のデザインセンターから的を射た案があがってきます。それらを選りすぐり、ブラッシュアップを繰り返して、最後に選ばれたのが矢代の案でした。

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伝統の技術とモダンデザインの融合

矢代

矢代:我々の強みの一つは、半世紀にわたって培ってきたヘッドホンづくりの技術です。それを装飾に頼らずシンプルなデザインに閉じ込める。この、堅実でストイックとも言えるものづくりが、本質的な価値を生み出すソニーのヘッドホンの基盤と言えるのです。

しかし、今回はそれに加えブランドの顔となる、アイコニックな強さが欲しいところ。私は、もともとソニーが持っている資産を活かして、新しいアイデンティティを構築することが重要だと考えました。辿りついたコンセプトは、ソニーの伝統である技術力と、今までになかったモダンデザインの要素を、最高の形で融合させることです。

ヘッドホンのどこにモダンな表情を加えるか。注目したのが、ハンガーでした。MDR-1シリーズでは、ハンガーがハウジングに沿うように弧をなし、コードと一体となって流れるようにラインを描きます。このとき、コードが自然に身体の前方へと流れるのがポイント。コードが肩に当たる違和感を軽減できます。快適なリスニングを追求したら、「コードはハウジングから真下に出す」という従来の考え方を離れ、新鮮な姿が生まれたというわけです。

一方、ハウジングはあえてオーソドックな形状としました。ドライバーユニットは真円。パッドは耳を効率よく覆い、かつ密閉性を高めて音質向上にも貢献するオーバル形状。これらの単純な組み合わせは、数十年前から存在する言わばヘッドホンの原型とも言える伝統的な形状です。このハウジングとユニークなハンガーの組み合わせにより、伝統と先進性の融合を表現しました。

機能がデザインに説得力を与える

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矢代:もうひとつの工夫は、空気の抜け道であるダクトを、あえて"見せる"ようデザインしたことです。これは低音をレスポンスよく鳴らすための設計要件のひとつ。密閉式のヘッドホンでは、ハウジングとパッドの合わせ目などに隠すよう処理されていたものです。つまり、技術の「都合」という認識ですね。しかし、音響設計によって最適化された機能である以上、このダクトも高音質の「象徴」と捉えなおせば、話は違ってきます。むしろ技術に裏打ちされた力強いデザインを形成する要素になり得るじゃないですか。

ハンガーの根元部分の形状は、ダクトの開口率を高めるために湾曲させています。苦労したのは、その微妙な曲率です。わずかな加減で、貧弱に感じたり、不自然に凹んで見えたり。これは数値で定義できない、感性の領域です。髪の毛一本というオーダーで何度も試作と調整を繰り返し、ベストな形状を求めました。

ハンガーに込めた私の狙いは、動物の骨格に例えると伝わりやすいでしょうか。無駄な肉を削ぎ落し、最後に残る根幹。すべてに機能的な裏付けがあり、有無を問わない説得力。同じように、ハンガーも、音質や装着性といったさまざまな技術的要素を最適化していった末に現れる、必然の姿を目指しました。しかも、それがそのままアイコンとなっているのが、今回のデザインのポイントです。

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