Feature Design PCM-D1 2006.10.2
[ 2006.10.2 up ]

デジタルとアナログ、技術と感性の両立

フィールドやステージにあふれる音を、臨場感、空気感とともに記録する。1970年代の生録ブームの火付け役となったソニーの「デンスケ」が、最新のデジタル技術を得てよみがえりました。リニアPCMレコーダー、PCM-D1。そのデザインを生んだ2人のデザイナーが、発想の源泉を明かします。

写真-岡広樹
岡 広樹
ソニー(株)
クリエイティブセンター
チーフアートディレクター
写真-永原潤一
永原 潤一
ソニー(株)
クリエイティブセンター
シニアデザイナー

デジタルの時代に必要なのは、「デザインのD/A変換」

岡:これまで私は、あまり民生用のデザインを手がけたことがないんですよ。8割はプロ市場向けの製品なんじゃないかな。彼らは、使いやすさについて一切妥協がありません。毎日ハードに使い込むものだから耐久性も必要。そんな必然性に裏付けられた「機能美」や「信頼感」、「プロのステータス性」の表現こそ、私の腕の見せどころといえます。

一方、技術が日々進歩し、デジタル映像やサウンドは脳の神経細胞に響くほどのクオリティになってきています。しかし人間はいつまでもアナログ感覚ですから、デジタルデータは最後の出力時にアナログへと変換され、実際に人に見聞きできるように翻訳されているわけです。そういった点から、ハードウェアも「感覚的に使えるアナログインターフェイスが重要になるのでは?」と以前から考えていました。

このPCM-D1は、そんなアナログインターフェイスを、うまく表現したいと思いました。最新技術を凝縮していても、直感的に操作できる。だから、ますます使いたくなるし、使い込むほどに愛着がわく。そんな「道具」を目指して掲げたコンセプトが、「デザインのD/A変換」です。また、ソニーは音を記録するテープレコーダーから始まった企業ですので、伝統を守りつつ新しさを伝える意味で「OLD & NEW」もキーワードにしました。

和の素材が可能にした、柔らかに輝く「眼」

写真-PCM-D1

岡:PCM-D1でいちばん印象的なのは、やはり2つのアナログメーターでしょう。私は当初、アナログメーター感覚の液晶デジタルメーターをイメージしていました。メカニカルな駆動部がなくて、ノイズに強い。しかも電子基板に直付けできますから、セット全体をスリムに仕上げられます。マイクのように自然な持ち方で音源に向けるには、やはり薄いほうが使いやすいはずですからね。

しかし、開発チームのなかに熱烈なアナログメーター信者がいまして(笑)。確かに、デジタルメーターは瞬間的な最大値をチェックするピークメーターとしてはよいデバイスなんですが、平均的な入力レベルを直感的につかむには、やはり指針がリアルに揺れるレベルメーターにかなわない。問題は、アナログメーターは意外に厚いし、フィールドで使うには耐久性も心配だということです。薄さと耐久性、どちらも譲れませんから、PCM-D1用にタフなメーターを新規設計し、基板に穴を開けて実装するなど設計サイドに無理を聞いてもらいました。

ここまでこだわるなら、暗がりでもほのかに光るよう、バックライトにも気を利かせたい。乳白のアクリルだと、どうしても光源部分だけ「点」で光って、全体的に均一な光り方にならないんですよ。どうしようかと悩んでいるとき目に入ったのが、仲間から出張みやげにもらった一枚のえびせんべい。その包装紙には、和紙をフィルムでラミネートしたものが使われていました。ハッと思いあたりメーターにあてがってみると、な、なんときれいに均一に発光しているではありませんか!(笑) 和紙の繊維に、そういう特性があったんです。「障子のうすあかり」…日本の文化はすばらしいですね。

早速せんべいの発売元に電話したりインターネットで検索したりして、フィルムコートした和紙メーカーを探しあて、試作を依頼しました。

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