Feature Design Reader Digital Book PRS-505
[ 2008.9.1 up ]

ソニーらしさ、の再発見

アメリカで発売され、reddot Design Award やIndustrial Design Excellence Awards(IDEA)2008など、世界の名だたるデザイン賞に輝いた電子ブックリーダー、「PRS-505」。「読書家のための本」に徹したこのプロダクトが、これまでの読書スタイルを変えようとしています。単機能のこのシンプルなプロダクトは、まさにソニーデザインのエッセンスから生まれました。

曽我部 卓氏
曽我部 卓
ソニー(株)
クリエイティブセンター
プロデューサー
椋 計人氏
椋 計人
ソニークリエイティブワークス(株)
シニアプロデューサー

アメリカの読書スタイルに、新しい提案を

椋:アメリカには、熱心な読書家が少なくありません。余暇を見つけては、何冊も本を買い込み、避暑地で読書に明け暮れる。そんなライフスタイルがごく当たり前という文化があります。ところが、その本が大きい、厚い、重い、値段も決して安くない。文字通り、大きな買い物になってしまいます。学生たちも大変です。学期が変わるたびに、教員が指示したテキストや参考書を買い揃え、毎日持ち歩かなければならないわけですから。

もし、本を電子化できれば、これらの問題を一挙にクリアできます。そこでアメリカのSony Electronics Inc.が企画したのが、Protable Reader System、つまりPRSシリーズでした。これは、デジタルファイル化された本をインターネット経由でパソコンにダウンロードし、リーダー製品に転送して読むというもの。ネットワークサービスと一体化したプロダクトですね。

我々のミッションはこのプロダクトを実現するために、ネットワーク側には何が必要か、リーダー側のユーザーインターフェースはどうあるべきかをデザインすること。そのためには、アメリカの読書家がどう本を扱うか、ローカルな実態を知ることが欠かせません。また、将来的には他の地域でも展開したいため、グローバルな視野も必要です。そこで、アメリカ現地の開発者の知恵と見識を借りつつ、日本でユーザーインターフェースとソフトウェアを最終的に仕上げるという、特殊な体制で開発が進められました。

ゴールは、デジタル端末の常識を捨てた世界にある

椋 計人氏

椋:アメリカの電子ブック市場は、PRSシリーズ以前にもさまざまな可能性が模索されていました。例えば、小説をテキストファイル化して販売し、パソコンやPDAで読んでもらう、というように。この場合、表示デバイスは液晶ディスプレイです。もし長時間、飛行機で移動するなら、あの眩しいバックライトは目に負担となるでしょう。手元が揺れ続ける電車となれば、なおさらです。そこでPRSシリーズでは、表示デバイスに電子ペーパーを採用しています。

電子ペーパーというのは、まさに紙なんです。中に帯電したインクが閉じ込めてあり、電圧でインクの振る舞いを制御して白黒、濃淡を表現するので、インク粒子のレベルでの、きめ細かい描写も可能です。描画後は、電圧をかけなくても像が維持されるので省電力なうえ、バックライトがないため目にもやさしい。まさに、ソニーの目指す電子ブックには理想的と言えます。

ただし、描画速度が遅いという欠点もあります。液晶ディスプレイなら、画面のスクロールや、カーソルの移動も高速に行えますが、電子ペーパーではそれが簡単ではありません。しかし、そういうパソコンライクな使い方を排除することで、逆に本や紙の良さに近づけるのではないかと考えました。索引を見るだけで必要な情報がどこにあるかを把握でき、ページをめくるだけでアクセスできる。基本的なあり方が千年を超えても不変である。「本は究極のインターフェース」という人がいますが、そのわかりやすさを、電子端末でも表現しようと試みたのです。

そこで、読者が関心を持つ機能や項目にダイレクトにアクセスできるよう、メニューや索引に対応する数字ボタンを用意しました。ページ送りのボタンは2カ所に設けています。メニュー画面のアイコン作りには相当な議論を要しました。アメリカ人には自明のピクトグラムも、他の地域のユーザーには必ずしもそうではないケースがあります。最初の市場となるアメリカのユーザー事情をリスペクトしつつも、世界中で使えるものにする必要がありました。

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