操作のたびに、プロダクトから返ってくる音や光のレスポンス。ソニーでは、それらをUIの要素と考え、重要なデザインテーマと考えてきました。すべてはユーザーエクスペリエンスのため。音と光の表現にこだわる、デザイナーたちの取り組みを紹介します。
椋:ボタンを押したら、音がする。電源を入れたら、パイロットランプが光る。動作の状態を伝えることは、プロダクトにとって基本機能のひとつです。そして、そのための最もプリミティブな手段が、音と光。私たちは、そんな音や光さえもUI言語と捉え、戦略的なデザインを試みています。
あえてUI「言語」と言ったのは、言葉と同じように、音や光を介してユーザーとプロダクトが対話できるからです。それも、単なる情報伝達といったファンクショナルな要求を超え、エモーションに訴えるという、高い次元の対話を実現できる。私たちは、そう考えています。
たとえばLEDがパッと光り、短い音が鳴ると、ユーザーは認識力を刺激され、次の操作を促されます。体感として、軽快感やスピード感が増すのです。同じプロダクトでも、逆にLEDの輝度がじわりと上がり、長く美しい和音が響けば、ゆっくり操作したくなるでしょう。インテリア性や空気感を重視するカテゴリーのプロダクトには、こちらの方がふさわしい。
ある操作に対して、どう音と光を反応させるか。それによって操作の「間」が変わります。その生理的な「間」が、ユーザーの心理的なリズムや、プロダクトのキャラクターとフィットしたときの操作感は格別です。音や光は、ユーザーをより快適な使い心地へと導くもの。私たちが明確な意思と目的を持って、音と光を作りこんでいる理由は、ここにあります。
椋:UI言語としての音や光は、Graphic User Interface(GUI)とはまるで性格が違います。今日のプロダクトでは、それぞれの特長を活かすことが必要です。では、音や光の特長とは? 私は「ほのめかす」表現が可能なことだと考えています。
GUIは、テキストやアイコンを活用したインジケーション(明示)。多機能化やカスタマイズに対応でき、大変に便利です。一方でユーザーには、メッセージを「読み」「認識し」「回答する」負担が生じてしまいます。
それに対して音や光は、インプリケーション(暗示)。ただ音楽や映像を再生するような単純操作では、「プロダクトはこんな状態にある」と察知できれば用が足ります。ならば、GUIに依存しない方が、操作の負担を減らしてあげられる。音や光は、そういう「ほのめかし」に最適なUI言語なのです。
また、近年のプロダクトはネットワークへの対応が進み、実際にアクセスしているメディアやソースはクラウドにある、ということも増えています。しかし、人の常として、対話する相手は目の前にあってほしいもの。音や光は、その存在をほのめかすのにも有効です。
困ったことに、音や光の表現は、いくらパソコンでシミュレーションしても、その有用性が実感しにくいものです。しかし、プロダクトに実装し、モノそのものから放たれると、驚くほどの効果を発揮します。誰の目にも、モノとしての価値が、ぐんと高まって見えるのです。私たちUIのデザイナーは、早くから社内で啓蒙やデモを続け、実績を積み重ねてきました。その結果、今ソニーでは、当たり前に音と光のデザインが行われるようになっているのです。