Feature Design WALKMAN W Series
[ 2009.6.19 up ]

身につけるのは、新しい音楽文化

ウェアラブル・オーディオプレーヤーに足りなかったものは何か。音楽ファンから愛される資質とは。デザイナーたちの議論とアイデア、独自の技術がひとつの答えを導き出しました。音楽の楽しみ方の「今」を鋭いエッジで切り取った、新しい“ウォークマン"の誕生です。

小宮山 淳
小宮山 淳
ソニー(株)
クリエイティブセンター
プロデューサー/シニアデザイナー
浅井 聡
浅井 聡
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー
佐藤 寛志
佐藤 寛志
ソニー(株)
クリエイティブセンター
インフォメーションアーキテクト
藤木 学
藤木 学
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー
山岸 あさみ
山岸 あさみ
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー

前人未踏の難問に、有志が集う

小宮山:私がインダストリアル・デザインを手がけたプロダクトのひとつに、“アクティブスタイルヘッドホン"があります。そのデザインを気に入った企画担当者が「同じデザインテイストで、ウェアラブルな“ウォークマン"をつくりたい」と依頼してきたのが、すべてのはじまりでした。『言うは易し』という言葉がありますが、今回の案件が、まさにそれ。これまでも、ソニーを含むさまざまなメーカーがウェアラブル・オーディオプレーヤーに挑戦してきました。しかし、市場にしっかり根付いたものとなると、私は例を知りません。

その理由は簡単で、何よりも操作しにくいからです。液晶ディスプレイがないので、選曲は手探り。何百曲から一曲を探すとなると、ずっと手がふさがってしまいます。そのストレスたるや、コードレスという魅力も色あせてしまうほど。気持ちよく使ってもらうためには、操作性の確保が大問題です。また、好きなヘッドホンを選べないことや、装着性や音質が合わなくても取り替えられないため、購入を躊躇してしまうことも大きな一因でしょう。

しかも、私にはそこがゴールだとは思えませんでした。「小さな液晶ディスプレイを見て操作するより、絶対に楽しい」。そんな体験を提供できて、はじめてウェアラブルであることに価値が生まれると思ったからです。ポイントは、ユーザーインターフェース。そこで、インダストリアル・デザインに着手する前に、音という視点から操作性を研究開発しているサウンド・ユーザーインターフェース・デザインの佐藤に相談を持ちかけました。

佐藤:今回ほど音が使いやすさのカギを握るプロダクトは、私も初めてです。それも「必要最小限の操作性を確保できればいい」というレベルの話ではありません。小宮山がこだわり、私も共感したのが、「選曲中は、リスナーにとって音楽のない『空白の時間』。しかも、サーチする曲が増えるほど、その『空白』も大きくなる。音楽を楽しむための道具が、それでいいのか?」という問題でした。二人で相当な議論を重ねたものの、結論は出せずじまい。その様子を見かねたのか、あるいは私たちの声がうるさかったのか(笑)、隣のデスクにいた浅井が身を乗り出してきて、「ZAPPIN™」という解決策を提供してくれたのです。

選曲のプロセスをエンターテインメントに変える

浅井:「ZAPPIN™」は、私がカーオーディオのために開発したユーザーインターフェースです。機能としてはシンプルで、楽曲の一部を次々と再生し、聴きたい一曲を探し当てるというもの。運転中ずっと操作部材に触れ続けたり、液晶ディスプレイに視線を移したりするのは危険ですが、これなら目に頼らず、手もミニマムの動きで曲をサーチできます。しかし、もともとは自分が通勤中“ウォークマン"を握りっぱなしなのに気づき、「いかに操作せず選曲できるか」と考えたのが発想の原点でした。

小宮山と佐藤の議論が耳に入ったとき、この「ZAPPIN™」が使えるのでは、と直感しました。しかも、ソニーには12音解析技術があります。両者の合わせ技で、楽曲の盛り上がった部分だけを抽出し、シャッフル再生することが可能です。こういう聴き方は、音楽のランキング番組ではもう当たり前。サビの部分だけをダイジェストで楽しむ、あの感覚です。こうなると、もう「ZAPPIN™」は単なる検索機能ではなくなります。サーチ中の『空白の時間』を解消し、選曲のプロセスそのものをエンターテインメントに変えてしまうのですから。私たちは、「ZAPPIN™」を新しい再生機能、時代性のある音楽の聴き方として楽しんでほしいと考えています。

ところが、ソニー内部でも、私たちの提案はなかなか理解してもらえませんでした。アナログメディアの時代から身にしみつけてきた操作系、楽曲の起承転結を丸ごと楽しむ聴き方が浸透しているからですね。しかし、これまでの音楽の楽しみ方を「前菜からデザートまでフルコースで味わう」と例えるなら、「ZAPPIN™」は、「いろいろなコース料理から、いちばん美味しいメインディッシュだけを一口ずつ楽しむ」ようなもの。どちらも魅力的ですし、好みは人によって違って良いはずです。そのことを啓蒙するため、デザイナーたちが自主的に開発を進め、デモを行い、じっくりと関係者たちの理解を広げていきました。

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