ユーザーにどんな体験を届けたいか。新しい面白さや感動を、どう実現していくか。ソニーのインタラクションデザインへの取り組みが、ユニークなアプリケーションを生み出しました。それが『x-アプリ』。その開発のプロセスに、ソニーのモノづくりの知られざる側面とデザインの伝統を垣間見ることができます。
椋: 『x-アプリ』は、ソニーがユーザーの皆さんに「新しい体験価値をお届けしたい」という思いを込めて開発したアプリケーション群です。では、私たちが『x-アプリ』の何をデザインしたのか、というと、もちろんGUIだけではありません。ユーザーにどんな楽しさ、面白さ、驚きを味わってほしいかというエクスペリエンスのデザイン、つまり無形のものをデザインしています。使いやすさが求められたインターフェースデザインの時代から、よりインタラクティブなものが求められる時代を経て、今や「楽しい」というエクスペリエンスまでもが求められる時代になってきているのです。
アプリケーション開発にデザイナーが積極的に関わる、ときにはリードするというのは、ソニーの伝統のようなものです。VAIOの登場はその役目の大きな転換点でした。はじめてVAIOが市場に導入された当時、エンターテインメントをコンセプトに掲げたPCは世の中に存在しませんでした。そこで音楽や映像を楽しんでもらうためのアプリケーションが必要になったわけですが、「何を」「どう」提供すればよいのかは、エンジニアリングだけでは解決できない問題です。こうなるとデザイナーも単純に使いやすいGUIを追求するだけでは十分ではなく、インタラクションという視点でアプリケーションを提案・判断することが求められます。私たちにとってインタラクションデザインとアプリケーション開発は不可分なもの。ソニーでは、新しい面白さや感動を見つけるのもデザイナーの役目なんです。
まして現在は、ネットワークの時代です。画面上の動きが同様であっても、ユーザーが目の前の機器と対話している時もあれば、ネットワークの向こう側の機器や人間と対話している時もあります。その時どこにあるコンテンツやデータを見ているのかも含め、インタラクションの状況はユーザーや楽しみ方によって多種多様です。
このような時代には、そもそものインタラクションが何なのかを考えなくてはならず、また、「ユーザーは何をしたいのか」「何をしたらうれしいのか」というエクスペリエンスまでを含めたより高次元でのデザインが求められます。『x-アプリ』は、このテーマに対する私たちの答えのひとつとも言えるでしょう。
反畑:デザイナーの領域が「オンスクリーンディスプレイをより美しく」から「機能をより使いやすく」、さらに「感動や楽しみの実現」へと広がっていくと、従来のようなUIデザインに対する取り組みだけでは限界があると感じていました。
『x-アプリ』は、このような限界を超える試みのひとつとして誕生しました。まず自分たちがやりたいこと、楽しいと思うことを考える。その結果をアプリケーションとしてアウトプットし、デバイスやプロダクトに展開する。いわば従来とは逆のプロセスをとることで、より柔軟に発想し、新しいユーザーエクスペリエンスを実現しようと考えたのです。
だから、『x-アプリ』は、必ずしも特定のプロダクトに搭載することを前提としているわけではありません。『x-Pict Story』のように、すでにプロダクトに搭載されているものもあれば、『x-Time Line』のように単体のアプリケーションとして無償で配布しているものもあります。このような開発スタンスもリリース方法も、ソニーとしては異例のこと。ユーザーとソニーがいい意味で一緒に遊びながら、これまでにない楽しさやわくわくする何かを作っていくことができたらと期待しています。