Feature Design Z/ZX/EX Monitor Series
[ 2010.12.14 up ]

“音の王道”の追求

ソニーヘッドホンといえば、Zシリーズや、プロの現場では定番のMDR-CD900STなど、原音再生を徹底的に追及した、緻密なモニターサウンドをまず思い浮かべるでしょう。そんなソニー伝統のシリーズが、次のステージへと大幅な進化を遂げました。音作りのプロが認めるハイクォリティなサウンドが、モノフォルムのプロダクトデザインから響きはじめます。

小宮山 淳
小宮山 淳
ソニー(株)
クリエイティブセンター
プロデューサー
北山 壮平
北山 壮平
ソニークリエイティブワークス(株)
デザイナー
勝又 潤
勝又 潤
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー
森本 壮
森本 壮
ソニー(株)
クリエイティブセンター
デザイナー

極限の性能を目指す意思

小宮山:音質の好みやライフスタイルは人それぞれ。リスナーの数だけ、理想のヘッドホンがあります。そのため、ソニーではさまざまなコンセプトのヘッドホンを開発してきました。それを可能にできたのも、装着性に関するノウハウや、音づくりの確かな技術があったからです。

モニターヘッドホンは、そのようなヘッドホン開発の最もエッセンシャルな要素を、徹底的に磨き上げ、凝縮したもの。サウンドエンジニアがスタジオで使う「プロの道具」だけに、原音に忠実な再現性、すべての音を分析的に聞き取るための解像度が問われます。この分野で、およそ10年の長きにわたりリファレンスモデルとして君臨してきたのが、ソニーのMDR-CD900STでした。今回のZシリーズは、その血を受け継いでいるモデル。スタジオで築いた実績とプロの信頼を受け継ぎ、これからの音づくりの現場を支えていくものでなければなりません。

プロダクトデザイナーの力量が問われる案件です。どれほど高性能なドライバーユニットでも、装着性が悪ければ、本来の能力を発揮することができません。ヘッドホンの世界では、プロダクトデザインも性能の一翼を担っているのです。ましてモニターヘッドホンの場合、デザイン開発に先立ち、プロの要求に則してプロダクトのあり方を考え、開発者たちの価値観を束ねていく牽引力も求められます。だからヘッドホンのデザインは難しく、面白い。

今回、私はクルマに例え「ZシリーズはF1マシーン」という世界観を打ち出しました。F1マシーンは、スピードというただひとつの目的のために、すべての頭脳と労力を結集します。乗りこなすには、高度なテクニックが必要。コックピットは機能優先でタイト。決して万人向けではない、まして快適性とも無縁ですが、そこまでやって得られる極限の速さこそ重要なのです。同じように、モニターヘッドホンも「原音の再生」という一点をストイックなまでに追求することで、研ぎ澄まされた耳を持つプロの厳しい要求に応えうると考えました。問題は、それをプロダクトデザインにどう落とし込むかです。

ストイックな音づくりを象徴する、モノフォルム

小宮山:私がデザインを手がけたMDR-Z1000は、Zシリーズのフラッグシップモデルです。密閉式ヘッドホンの場合、再生する音を外界から完全に独立させる遮音性が重要。そのポイントとして、まず注目したのがイヤーパッドでした。イヤーパッドと耳の間に髪がはさまると、密閉度が犠牲になります。その影響はわずかですが、F1マシーンを標榜するMDR-Z1000では、許せない問題でした。この問題を解決するためには、髪が生えていない、わずかな部分を狙うのが効果的。ソニーの現行のヘッドホンよりも縦に長く、横がちょっとタイトになっているのは、そのためです。

同時に、パッドの縫製にも新しい手法を導入しました。いくらイヤーパッドを縦長にして髪の巻き込みを抑えても、頭骨の曲面にフィットしなければ、密閉性を得られません。ならば、単純に「耳に乗せる」のではなく、すき間なく「耳を包み込んで」しまうしかない。そのためには、イヤーパッドの開口部は小さく、内部は耳に負担がかからないよう大きな容積を確保すればいい。この考え方に基づき、MDR-Z1000のイヤーパッドは、外側の面が内側に向かって絞り込まれて行き尖っている形状をしています。髪の毛の生えていないわずかな隙間を狙うための工夫です。これを実現するためには、縫製にも工夫が必要だったというわけです。さらに、頭骨の曲面に合わせ、イヤーパッドのベース面を頭蓋骨に沿うような湾曲面で成型し、完璧なフィッティングを目指しました。

このような密閉度を全体の造形でどう表現するのか。私は、モノフォルムならではの“塊り感”がふさわしいと考えました。従来のヘッドホンは、パーツ点数の多さがそのまま多くの面や凹凸として見えてしまいます。面としての連続性がないため、面の継ぎ目から音が漏れそうな印象になってしまうのです。

それに対し、MDR-ZX1000のハンガーはちょっと異質なまでに無骨な形状をしていますが、これは、剛性や強度を上げるのに役立っています。プロが使うものだけに、耐久性や信頼性を象徴する要素は必要だという判断です。通常、長さや角度の調整といった可動部分には関節や軸が見えるものですが、そういう「機構上の都合」も消し込んでいます。ツイスト軸やスライダーとバンドの勘合部など、見た目はただ単に塊と塊が合わさっているだけ。「音を完全に密閉するモノフォルム」というコンセプトを、あらゆる角度から徹底しました。

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