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Life Space UX ニュース

空間そのものを活用して体験を創出する「Life Space UX」。
ソニーはさまざまな活動を通して、その体験の場を提供しています。

Life Space UX

「きくをひらく」 空間観察学Vol.3は感覚のアップデートから。

[ Report ] 2016.10.13

「きくをひらく」=「聞く」を「ひらく」
この言葉は、デザインユニットgift_の後藤寿和さんのもの。

「聞く」を「ひらく」とは? 一体、どういうことなのでしょう。

毎回、最前線で活躍中の建築家やデザイナー、アーティストを招き、1番大切にしている視点など「ものづくりの根っこ」を、参加者と共有する「空間観察学」。参加者はその視点を自らの暮らしや仕事に落とし込み、新たな価値を生み出すヒントとして活用していく…という、未知の試みです。

「gift_lab GARAGE」にて開催された「空間観察学Vol.3」

Vol.3は、2016年9月27日、ゲストの空間デザイナー・後藤寿和さんが清澄白河に作り上げた場「gift_lab GARAGE」にて開催されました。家具や店舗、展示会などの設計や空間デザインを手掛けながら「場づくり、状況づくり」として空間を捉え、新しい価値を生み出している後藤さん。

ゲストの空間デザイナー・後藤寿和さん

今回の会場であるgift_lab GARAGEは、築80年以上の歴史ある建築をセルフリノベーションした、という懐かしさと新しさが絶妙にミックスした建物の中にあります。サウンドアートを中心とした音響イベントや展示のほかトーク、上映会など、モノやコトを越えた探求の場として、親しまれています。

今回の会場である「gift_lab GARAGE」の様子

ドアを開けると、gift_のクリエイティブ・ディレクターでもある池田史子さんが作る、お料理のいい匂いがふんわりと。

gift_のクリエイティブ・ディレクターでもある池田史子さんが作るお料理

満員御礼のイベントスペースでは、天井からぶら下がったLED電球スピーカーが2つ。光と音のシャワーを優しくフロアに降り注いでいます。

LED電球スピーカーがぶら下がるイベントスペース

居心地の良い空間にすっかり馴染んだ、ランタンのような灯りをともすグラスサウンドスピーカー、まるでオブジェか何かのような佇まいの、ポータブル超短焦点プロジェクター。

ランタンのような灯りをともすグラスサウンドスピーカー

「空間作り」は、すでに始まっている

デザインスタジオ | カフェ | ギャラリー | ショップ | サロンなど、多彩な顔を持つgift_lab GARAGEに、今夜も知的好奇心に満ちた面々が集まりました。

本日の参加者は、建築を学ぶ学生、アニメーター、家具デザイナー、音楽家、室内音響のエンジニア、シェアハウス運営者、コミュニティデザイナー、パタンナー、医療機関の方、などなど、この場所に負けないほどのバラエティーに富んだ顔ぶれです。

知らない人同士が1つの小さなテーブルを囲み、お互いの顔をしっかりと見るスタイル。みなさん、最初は少し緊張した面持ちでしたが、すぐに打ち解けて会話が弾み出します。

打ち解けて会話が弾む参加者

実は、わざとこんなスタイルにしています。イベントの時は、出演者に目線が集中しないよう、視線をコントロールしています。演る方もリラックスできますし。身体が向き合っていると、参加者同士のコミュニケーションが生まれるんですよね。」

と、話すのは後藤さん。
なるほど!こんなところからすでに「空間作り」が設計されていたんですね。
確かに、すでに「もともと、友だちだった?」というぐらい盛り上がっているテーブルもあり、あちらこちらから笑い声が聞こえてきます。

どうしても最初は、ぎこちなくなりがちなイベント開始時の空気が「視線のコントロール」で、こんなにも和気あいあいとしたものに変わるとは、驚きです。

意識のスイッチを、換える。

お話を始める後藤さん

「来ていただいた方の期待を、はぐらかしてしまうかもしれませんが、今日は技術的・専門的な話は、一切しません。非常に主観的な話をします。そのほうが、自由な発想で学んでもらるかな、と。」

と前置きして、お話をはじめた後藤さん。
主観的な感覚についてのお話……いきなり修学旅行2日目の夜のような、パーソナルなお話が始まりました。

音に興味を持っていた後藤さんは、旅行へ行くと写真を撮る代わりに「現地の音を録って」いたんだそうです。
様々な国々の、それぞれの雑踏の音や、話し声、自然の音。
それらをスナップのように録りためて作ったのが、「サウンドトリップ」という作品。

スナップのように録りためて作った「サウンドトリップ」という作品

こちらは、ぱっと見、ただの四角い箱です。これに、箱男(安部公房)さながら頭を突っ込むと、周囲の雑音が消えて、ふっと静かになり、とつぜん別の世界にまさに「トリップ」します。

暗闇の中に、浮かび上がるように聴こえて来るのは「上海のとある公園の鳥たち」の声や「ミラノ、ドゥオーモ」の大聖堂の中の響き、はたまた「ジンバブエの平原」に風が吹く音、「ヨルダンのホテル」で聴いたコーラン、かと思えば「目黒川沿いの神輿」の掛け声……

身体は清澄白河なのに、頭は世界中あちこちに旅行中という、分断トリップ状態。今、自分がどこにいるのか一瞬分からなくなるような、ふしぎな感覚。

後藤さんは、この作品を通して「意識のスイッチを換える」という体験を促しているといいます。

「いつもは無意識に聞き流しているような音を、切り取って『耳を澄ます』ことで聴こえ方が変わる。対象に意識を向ける・向けないだけで、感覚が変わるのが、おもしろいんです。」

「きくをひらく」という言葉について説明する後藤さん

ここで出てきたのが、冒頭のキーワード『きくをひらく』。分かりやすい例が「カクテルパーティ効果」

たとえば、10代の頃。にぎやかな休み時間、教室の後ろのほうで話しているグループの中に、好きな人がいるとします。その好きな人の話し声だけ、耳が抽出して捉えた記憶はありませんか?

これって特殊能力?いや、恋の魔法? いいえ、実は人間の脳には「音を処理して必要な情報だけをピックアップし、再構築する」という、すごい力が備わっているのです。

「目は開く・閉じるでスイッチオン・オフが容易にできますが、耳は、目のように開いたり閉じたりできません。では、どうやってやっているのかというと、自分の意識のスイッチの切り替えでやっているんですね。意識のスイッチをいれる=きくをひらく、というわけです。」

はじめて聞いた「きくをひらく」という言葉に、戸惑う間もなく司会者から

「日常の中で『きくをひらく』体験はありますか?みなさんで意見をシェアしてみましょう!」

というアナウンスが。

「写真じゃなく、音を録る。なんでビデオじゃないのかな?と考えた時、音だけ聴いたほうが、その時のリアルなビジュアルなど、記憶されているものが鮮明に蘇るのかなと思いました。ビデオだと、余計な情報も写ってしまうから。」

「鎌倉に住んでいるんですが、人に会う仕事なので疲れてくると閉じてみたい、と思うことがあります。他の音を閉じるために、波の音を聞きに行ったりします。」

「好きな人の趣味(映画、インテリアなど)を、普段は意識していないけど、TVなどを見ていてキーワードの映像が流れた時、ふと頭をよぎることがあります。これが『きくがひらかれた』状態なのかな、と。」

「あるある」と、みなさんが頷くお話が幾つも出てきました。そして、みなさんの「聞く」がどんどん、ひらかれていく……

「きくをひらく」体験をシェアする参加者

「きくがひらいた」状態で、もう一度アップデート

次に、サウンドトリップ制作時のメモや、後藤さんご自身の「日常の中で突然『きくがひらいた』体験」のお話を聞いて

「旅行中のように、感覚が研ぎ澄まされた状態を、日常で再現してみるとどうなるか」また「意識のスイッチを切り替えることで、生活の工夫に繋がりそうなことは?」
というディスカッションへ。

ディスカッションのメモを取る参加者

ケンカをすると、どうしてもとじたくなります。ですが、思い切ってひらいてみると、実は言葉で言っていることと、全く違う別の情報が読み取れることがある。本当はそうじゃないんだ!ということに気が付けます。」――後藤さん

「風鈴の音を聴くだけで、涼しさを感じることができます。音にはそんな力がある。たとえば、日本にいながらにして、海外を旅しているかのような。物理的・空間的な制約の中で、狭い空間を広く感じさせるような可能性が、音にはあるんじゃないか。」

活発な意見が飛び交う様子

「高野山に入った時、意識的に開こうとしてはいないのに、身体が勝手に『ひらく』『ひらかれる』という感覚があって。そういうのを意図的に作れないか?あの無になった感覚を、どうやったら再現できるのかな?と考えました。」

「失恋した時に、失恋ソングが染みる。留学した時に電話でお母さんの声を聞くと、気持ちが落ち着く。受け手側の心の状態によって「きくをひらく」レベルが変わってくるのかなと思いました。」

などなど、活発な意見が飛び交いました。

「人によって、シチュエーションと気分によって音の感じ方が変わります。感情とか体温とか鼓動を感じ取って、その人にあった音を流してくれるマシーンや、空間が家にあればいいなって。ソニーさん作ってくれませんか?

という意見には、笑い声と大きな拍手が。SF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に出てくる情緒オルガン(一種の感情制御装置)のプロトタイプを、ソニーが作る日も近い!?

後藤さんからの締めくくりのアドバイスを聞く参加者

「サウンドトリップには、実は、そんな機能があると思っています。普段、意識して聞いていない音を聴くと、みなさん決まって、『すごく心地よい』と感じます。その行為自体がシンプルにスイッチを切り替えられるきっかけになります。また、いつどんな時に自分の『きくがひらかれる』のか、俯瞰してみるとおもしろいと思います。」
と、後藤さんからの締めくくりのアドバイスが。

後藤さんと参加者の集合写真

あなたの「きく」はどんな時に、ひらきますか?

さて次回は、どんなアップデートが起こるのでしょうか。
次は、あなたの身に。

まずは体験してください。

(TEXT BY SATOKO HIRANO)
(PHOTO BY LAWRENCE RANDALL)

空間観察学 Vol.3 presented by Sony Life Space UX Lab.

日時:2016年9月27日
会場:gift_lab GARAGE

登壇者

後藤寿和(空間デザイナー)

企画・運営

VOLOCITEE Inc.