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ビデオ・サウンド事業の中でも異彩を放つ二人が考える、これからのエンジニアに求められる働き方とは?

イヤホンの未来のカタチとは?

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〝人生にBGMを〟。
そんな音楽の楽しみ方を
届けたいです(三原)

〝人生にBGMを〟。
そんな音楽の楽しみ方を
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世の中をもっと楽しくしたい。
だから私も楽しさを
追求しています(松尾)

世の中をもっと楽しくしたい。
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現在のイヤホンの原型を発明したのがソニーであることを知る人は意外と少ないのではないか。1979年に発売された初代「ウォークマン®」は、二つの発明を同時に成し遂げた。一つはポータブル音楽プレーヤー。もう一つは、ヘッドホンのプラグであるステレオ・ミニジャックだ。以来ステレオ・ミニジャックはイヤホン、ヘッドホンのデファクトスタンダードとなった。あれから約30年。ソニーのイヤホンは今も進化している。ユーザーの耳の形や音楽の嗜好に合わせてカスタマイズが可能なテイラーメイドイヤホン『Just ear®』や、ソニーからスピンアウトしたジョイントベンチャーが生み出した、耳を塞がないイヤホン『ambie sound earcuffs』はその筆頭。固定観念にとらわれず、イヤホンを進化させ続ける秘訣はどこにあるのか? イヤホンの未来はどうなっていくのか? 商品の開発者である二人に、自由に語り合ってもらった。

“みんなが求める装着感と高音質との両立は難しいと思ったんです“(松尾)

——まず、二人の入社動機から教えていただけますか?

松尾
「音を極めるエンジニアになりたい」。学生の頃、音響に詳しい教授の影響で音を出すプロダクトに夢中になり、いつしかそう考えるようになりました。就職活動ではいくつかのオーディオメーカーに挑戦。そのうちの1社に就職し、さらに転職して2社目のオーディオメーカーで初めてイヤホン・ヘッドホンの設計に携わるようになりました。ただ、それでもソニーのことは常に頭にありました。なにせステレオ・ミニプラグを発明した、今のイヤホンの原型を発明した会社ですし、実は学生の頃に採用試験を受けて落ちたという雪辱もあり(笑)。それで3社目に、晴れてソニーに入社したのです。
三原
ソニーに対して、イヤホンを発明した会社というイメージは私にもありましたね。私も松尾さんと同じで学生時代からものづくりが大好きで、世の中にないものをつくりたい、新しいものをつくりたいという思いが強くてソニーの門を叩きました。ただ、当初は、学生時代にテレビの駆動回路の研究をしていたこともあり、ヘッドマウントディスプレイの開発に携わりました。当時はまだ企画書1枚ぐらいのアイデアのタネしかない状態だったのですが、レンズ、メカ、ファームウェア、電気の各担当が一つになって、小さな会社のような規模で日々働いていましたね。

——なぜ新たな事業に挑戦しようと?

松尾
結論から言うと、みんなが求める装着感と、高音質との両立は難しい、と思い至ったのが理由です。私は『Just ear』を立ち上げるまでに前職を含めて12年ほどイヤホン・ヘッドホンの設計の仕事に携わり、常に「より良いもの」を作り続けてきた自負があります。イヤホンやヘッドホンの装着性を検討する材料として、耳の型を取る「耳型職人」と呼ばれる仕事を担当したのもその一環。ただ、当時私が集めていた耳型は、耳型の“最適解”をとるためでしたが、耳の形に詳しくなればなるほど、周りから「自分の耳に合うイヤホンを教えてほしい」と聞かれるようになって。その相談に乗っているうちに「一人ひとりに合わせれば、もっといいイヤホンがつくれるんじゃないか」と思うようになりました。そこで会社に提案し、2013年から『Just ear』の検討チームを立ち上げ、構想、市場調査、量産設計などの準備期間を経て2015年に新事業としてスタートしたのです。実は当時私はソニーのヘッドホン、イヤホンの多くの機種の音響設計を担当していたのですが、上司は「今の君の仕事はなんとかするから」とサポートしてくれました。ソニーは新しい取り組みを支援する風土があり、そこには大いに助けられたと思っています。
松尾 伴大さん
V&S事業部
プロジェクトリーダー松尾 伴大さん
2社のオーディオメーカーでのエンジニア経験を経て、2005年にソニー入社。イヤホン・ヘッドホンの開発に携わるとともに、耳の型をとる耳型職人も担当。しかし完全な装着感を満たさずに音質を高めるのには限界があると感じ、2015年に個人の耳の形に合わせたイヤホン、『Just ear』を考案。現在は『Just ear』のプロジェクトリーダーを務める。大学では工学システムを専攻。
just ear

“あえてソニーを飛び出して、違うブランドで挑戦した方が面白いよねって”(三原)

三原
確かに、ソニーには常に新しいものを生み出そうとする文化がありますね。私が『ambie sound earcuffs』を考えたのも、もともとは本来の業務とは異なる、有志の検討チームによる「骨伝導」の技術を使ったプロトタイプづくりに参加したことがきっかけでした。ストリーミング配信が普及して“ながら聴き”をする人が増えたことで、これは本格的な商品化もあるかもしれないと。ただ、その時に懸念していたことは、この商品がそれまでのソニーのイヤホンの方向性と逆を向いていることでした。これまでのソニーのイヤホンは、騒音を遮断したり、ハイレゾなど音質を高めることで、音楽の世界に“没入”していくタイプのものが多かったんです。ならばあえてソニーを飛び出して、違うブランドで挑戦した方が面白いよねってメンバーと話して。この考えに賛同してくれたベンチャーキャピタルと会社を立ち上げ、2017年に事業化に至りました。
ambie
三原 良太さん
ambie株式会社 ディレクター三原 良太さん
2010年、新卒入社。エンジニアとしてヘッドマウントディスプレイやBluetoothイヤホンの設計を担当。2017年、ソニービデオ&サウンドプロダクツ(株) (現:ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ(株) )と、ベンチャーキャピタルであるWiLのジョイントベンチャー、ambieに出向。「ambie sound earcuffs」のプロジェクトリーダーを務める。大学院では電子工業科を専攻。

“この会社なら、エンジニアとして徹底的に自分を磨ける、新しいことができる”(三原)

——お二人とも、自分のやりたいことを追求していく手段として、新たな事業を立ち上げていますね。モチベーションの源は?

松尾
学生時代からものづくりをしていましたし、実はいつかは自分のつくりたいものをつくって独立したいと思っていたので、会社のスキームとは別のところで何かをつくることには何も抵抗もありませんでした。ただ、三原さんが入社してきたときには、「新世代が来た!」と驚きましたね。三原さんの時代は僕らの頃にはなかったクラウドファンディングも始まっていて、三原さん自身も「社内ハッカソン」というイベントも企画していて。それも、無理にやっている感じがしなくて、割とニュートラルにそういう活動をしている印象があった。すごいなあと。
三原
発明したい思いが強いんです。それも、まだ世の中に全くない、というものではなくて、ちょっとしたアイデアで、既存のモノの位置付けを変えたいと思っていました。今だから言えますが、実は就職活動中は大手自動車メーカーでも、耕運機のグループ企業を受けていたぐらいですから。
松尾
耕運機! 確かに、コモディティ化していそうではありますが……。ということは、本当はソニー以外の会社に入りたかった?
三原
いや、そんなことはありません。他社の内定もいただきましたが、その中でもソニーはエッジが効いた会社に映っていました。決め手になったのは、ある面接官の言葉です。「ソニーらしさって一言で言うとなんですか」と聞いたら、「一言で言えないな。ただ、みんな“俺が一番ソニーらしい”ぐらいに思ってものづくりをしているよ」と。それぐらい強い自負とこだわりを持つエンジニアがいるなら、間違いない。エンジニアとして徹底的に自分を磨ける、新しいことができると思って入社したんです。
松尾
“俺がソニー”——確かにそうかも(笑)。だから上司も、若手が突拍子もないことを言っても、それを応援します。一般的には若手が挑戦すると上の世代の方が豊富な経験を盾に「できない理由」を述べる、という印象がありますが、ソニーでは上司が豊富な経験に基づいて、挑戦を進める助言をくれます。
三原
1年前に失敗したことがあっても、「今は状況が違うからやってみた方がいい」と言ってくれる方が多いと感じます。そもそも、過去にできなかったことが今もできないと思っていない。俺が失敗したからお前も無理だよ、とは絶対言わないですよね。皆さんに、「世の中の仕組みは変わっている」という前提がある。そこは「ambie」を開発する上でも強く感じたことでした。

“音楽家がつくりだす音を、少しでも良い状態で届けたい”(松尾)

——二人は、それぞれの製品で何を届けたいと考えていますか?

三原
私が『ambie sound earcuffs』で実現したいのは、“人生にBGMをつける“という音楽の楽しみ方を広げることです。私は音楽が大好きですが、それが全てではない。音楽自体を集中して楽しむために没入するというのが従来のイヤホンのスタイルだったと思いますが、私は日々の生活そのものをより楽しむために音楽をそえたい。『ambie sound earcuffs』を通じて、音楽というコンテンツでなく、人生というコンテンツを最高に楽しめるようにしたいんです。
松尾
すごく面白いですね。私は『Just ear』を通じて「音楽家がつくりだす音を少しでもよい状態で届けたい」と思っています。パーソナライズはその手段です。ただ、ソニーというマスに向けて商品をつくるメーカーがこのようなマスカスタマイズのビジネスをやることは実はかなりの挑戦。それでも今のイヤホンの原型を発明したとも言えるソニーがこの事業をやることには意義があるとも思っていますし、こういう手法がイヤホンだけでなく別の領域にも広がっていけばいいと思っています。

——では、お二人が考える、未来のイヤホンの形とは?

三原
なんだろう。もしかしたら、『ambie』の先にあるのは、イヤホンとは別のモノかもしれません。ただ、何十年という長い人生の中で、そのシーンに最適なBGMを自然につけてくれるようなモノがあったらいいなと思いますね。
松尾
私は、ネットワークをつなぐUIを視覚によるものでなく、聴覚にできれば楽なのにと思いますね。集団で何かをするとき、画面越しという解は、コミュニケーションを一旦遮断してしまう。画面というUIでなく、音を軸にしたUIを通じてつながることができないかな、と思っています。それこそ、そう考えると音響デバイスであるイヤホンの可能性はもっと広がっていく。イヤホンって、スマートウォッチより古く、一番広まっているウェアラブル機器と言えますからね。
では、お二人が考える、未来のイヤホンの形とは?

“これからのエンジニアが大切にすべきは、好きを追求すること”(三原)

——これからを担うイヤホン、ヘッドホンのエンジニアには、どんな資質が求められるでしょうか?

三原
ユーザーと近い距離にいられる人だと思います。今はイヤホン一つとっても、アプリで操作したりと、インタフェースが多様化しています。技術だけ優れているのではなく、ユーザーのために技術を使いこなせることが条件ではないでしょうか。
松尾
私は、イヤホンやヘッドホンに携わる上では、音楽が好きであることが第一条件だと思います。その音が良い音か、良くない音かを判断するのは、究極的にはその人のセンスです。しかも、その音質設計は、聴く音楽のジャンルによって全く違う。ロックを聴く人とオーケストラ楽曲を聴く人では、求める音質は違います。その辺りの機微を把握できるかどうかは、究極、音楽が好きかどうかだと思うんですよ。私は『Just ear』をつくる際に、お客様の好きな音楽をヒアリングしますが、この経験を通じて、今まで自分の知らなかった音楽にも一層興味を持つようになりました。

“ソニーは、世の中をもっと面白くしていける会社だと思う。”(松尾)

——最後に、次世代のエンジニアに向けてメッセージをお願いします。

三原
これからのエンジニアは、「好き」を仕事にすることが大切だと思います。好きだからこそ徹底して追求できるし、その先にビジネスチャンスがある。あとは、失敗を恐れずどんどん行動していける人。早く失敗した方がリスクも小さい。失敗しながら磨いていけばいいんです。
松尾
わかります。私も、「楽しむ」ことを大切にしています。今では『Just ear』のお客様を誘って、DJイベントも開催したりもしています。聴く音楽のジャンルは違っても、『Just ear』を選ぶお客様は前提として音楽が大好きなので、本当に楽しい。仕事とプライベートの境界はどんどん曖昧になっている気がします。また、そうやって自分が楽しそうに働いている姿は、周りの空気にも影響すると思っています。「松尾はいつも楽しそう」と思われることが、「ソニーは楽しい会社」という印象に結びつけば嬉しい。ソニーは、そういう人が集まって、世の中をもっと面白くしていける会社だと思うんですよね。
松尾 伴大さん
V&S事業部
プロジェクトリーダー
松尾 伴大さん
2社のオーディオメーカーでのエンジニア経験を経て、2005年にソニー入社。イヤホン・ヘッドホンの開発に携わるとともに、耳の型をとる耳型職人も担当。しかし完全な装着感を満たさずに音質を高めるのには限界があると感じ、2015年に個人の耳の形に合わせたイヤホン、『Just ear』を考案。現在は『Just ear』のプロジェクトリーダーを務める。大学では工学システム
三原 良太さん
ambie株式会社
ディレクター
三原 良太さん
2010年、新卒入社。エンジニアとしてヘッドマウントディスプレイやBluetoothイヤホンの設計を担当。2017年、ソニービデオ&サウンドプロダクツと、ベンチャーキャピタルであるWiLのジョイントベンチャー、ambieに出向。「ambie sound earcuffs」のプロジェクトリーダーを務める。大学院では電子工業科を専攻。
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