イベントレポート

コンセプトアーティスト 田島 光二氏
講演会レポート

クリエイティブセンターでは、多様な業界の第一線で活躍されている方をお招きしてお話を伺い、学びを得る活動を行っています。
今回はルーカスフィルムのVFX部門Industrial Light & Magic(以下ILM)に所属し、ハリウッドの映画業界で活躍されている
コンセプトアーティスト 田島 光二さんをお招きしました。新たな世界観を生み出すコンセプトアートの話や、愛用の3DCGソフトを使って
披露してくださったデザインの実演はデザイナーたちに大きな刺激を与えました。講演の様子をダイジェストで紹介します。

田島 光二/たじま・こうじ
コンセプトアーティスト。VFX制作会社Double Negativeを経て、現在Industrial Light & Magicに所属。学生時代に「3DCG AWARDS 2010」で最優秀賞、2017年にWIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞。2018年、Forbesの30 under 30 Asiaに選出。

コンセプトアートの仕事とは

国内ではまだ馴染みの少ないコンセプトアートという仕事。田島さんはまず、その仕事内容から語ってくださいました。「コンセプトアーティストは、映画にでてくるクリーチャー(怪物)、キャラクター、マシン、街並みなどスクリーンに映し出されるものをすべてデザインします。依頼を受けるタイミングは様々ですが、僕が好きなのは初期段階からプロジェクトに参加し、監督やプロデューサーから「今度の映画でこういうキャラクターを出したいんだけど、その姿をデザインしてほしい」と頼まれること。そういうときは、本当に自由。監督の考えを聴きながら、自分のイメージを膨らませ、まだ見ぬキャラクターの姿を一からつくり上げていくのは最高に面白いです」

「コンセプトアートは一枚の絵を描くだけと思われがちですが、映画製作の最初から最後まで関わることが多い」と田島さんは続けます。「実際の撮影では、僕が描いたキャラクターを3DCGにモデリング(立体化)して、アニメーション(動き)をつけていくのですが、例えば、クリーチャーが変身・変形する様子は一枚の絵だけではわかりません。そういうときは、このクリーチャーがどう変身するのかをパラパラ漫画のように描きます。基本的な動作を各関係者に提示して、これを目指していきましょうという指針をつくるイメージです」

当日の会場は立ち見がでるほどの大盛況
ILMのコンセプトアーティストとして活躍する田島さん

左:当日の会場は立ち見がでるほどの大盛況 
右:ILMのコンセプトアーティストとして活躍する田島さん

ハリウッドまでの道のり

田島さんはどのようにしてハリウッドで活躍するようになったのでしょうか。そのきっかけについて、田島さんは「子どもの頃からアメコミヒーローのアイアンマンやハルクが好きだったのですが、ある専門学校の説明会で『うちの卒業生がハリウッドでアイアンマンを手掛けているよ』と聞いて衝撃を受け、僕も絶対やりたいと思ったのがはじまりです。ただ当時は3DCGソフトのスキルがなく、その専門学校の入学当初にハルクをCGで描いてみたのですが(写真左)、ひどい出来でしたね」と語ってくださいました。

専門学校生活の目標としてハリウッドで働くことを掲げた田島さん。そのためには「ハリウッドよりもすごい作品を作ればよい」と考え、夜遅くまで学校の作業室に残り、猛烈に勉強に打ち込んだそうです。一年後にはご自身が初めて納得できたCG作品「Werewolf」(写真右)を描き上げました。「念願がかなったのは21歳のとき、イギリスのVFX制作会社Double Negativeのシンガポールスタジオに所属でき、初めて映画の仕事に携わりました。その後、同社のバンクーバースタジオに移り、『ヴェノム』や『ブレードランナー2049』などのコンセプトアートを担当しました。そして今は、あのアイアンマンを手がけたILMに所属しています」

左:専門学校に入学当初、田島さんが初めてつくったCG作品 
右:入学から1年後につくった、CG作品「Werewolf」

最近の事例 ①コミックのダークヒーローをデザインした『ヴェノム』

ここで田島さんはご自身が手がけた映画作品を例に、どのようなコンセプトアートをつくりだしたのかを紹介。まずはマーベル・コミックの原作で型破りなダークヒーローが話題となった映画『ヴェノム』の事例から話してくれました。「『ヴェノム』は、まだ脚本作りの時期だったと思うのですが、ある朝に突然『明日から『ヴェノム』のキャラクターを考えてほしい』と言われたんです。そのときのオーダーは、コミックの世界観からあまり離れず、悪役でありながらも、ちょっとユニークな感じを加えてほしいというものでした。僕自身、大好きなコミックのキャラクターだったので、ZBrushという3DCGソフトを使って、怒涛の勢いで描き上げました。面白かったのは、『ヴェノム』好きの同僚たちが僕のデスクに集まってきて『腕はこうした方がいいよ』などと茶々を入れられたこと。静かにしてよと言いながら、つくっていましたね」

肌のてかり具合や肉質にもこだわったという、
田島さんの『ヴェノム』のコンセプトアート

最近の事例 ②メカ系のデザインに挑んだ
『ブレードランナー2049』

つぎに紹介してくださったのが、伝説的SF映画『ブレードランナー』の続編である『ブレードランナー 2049』。この作品で田島さんは、メカ系のデザインに挑んだと言います。「僕は空飛ぶクルマであるスピナーを担当しました。スピナーは前作にも登場していたのですが、そこから少し時代が進化した感じを出したいということで、丸みを帯びた前作のボディをもとに、新たな造形を組み合わせながら、デザインしなおしました。ディテールにもこだわり、デカールや経年変化の傷などもPhotoshopで細かく表現しています。実は、車体下側のメカ部分も何日間もかけて精巧につくっていたのですが、実際のシーンでは霧でぼけているという悲しい結果に。でも、映画ではそういうことが結構あります」

さらに、映画のなかで重要な役割を果たす、ジョイというホログラムのキャラクターも田島さんの仕事。「ジョイは本当に苦労しましたね。ホログラムに見せたいんだけど、生身の人間の雰囲気も感じさせたいという高難度のオーダーで、僕が担当する前にも他のアーティストたちがずっと描いていたのですが、なかなか監督のOKが出ず、僕もあらゆるバージョンを模索し、ようやくOKをもらえました。その後のアニメーション作業も大変で、実際の俳優に演じてもらった後、その動きに合わせて3DCGモデルをつくり、それを再び俳優の演技に重ね合わせたうえに、ホログラムのエフェクトを加えるという手間のかかる作業を延々とやっていましたね」

田島さんが描いたスピナーのコンセプトアート
主人公Kとジョイのホログラムが会話するシーンのコンセプトアート

左:田島さんが描いたスピナーのコンセプトアート 
右:主人公Kとジョイのホログラムが会話するシーンのコンセプトアート

ZBrushを使った、デザインの実演デモ

講演会の後半、田島さんは「今日は講演だけではなく、実際に僕がどのように作業しているかを見てもらおうと思います」と、愛用の3DCGソフトZBrushとペンタブレットを使って、クリーチャーのデザインを実演してくれました。まず会場のスクリーンに映し出されたのは、造形の元となる球体。田島さんはそれを数種類のブラシツールを使いながら、まるで粘土でこねるように頭、胴体、手などの基本的な造形を瞬く間につくりあげていきました。会場からは思わず「ハリウッドのコンセプトアーティストは皆、それくらいの早さで描くのですか?」という質問が出るほど。田島さんは「多分、僕は結構早い方だと思います。専門学校時代からZBrushをひたすら使い込んできたので」と答えてくださいました。

さらに、もうひとつ田島さんが徹底的に勉強したのが解剖学。「クリーチャーづくりでは骨格や筋肉の付け方もポイントになるので、解剖学の専門書をたくさん読み込みました。ILMのアーティストはみんな詳しくて、ミーティングでは細かい筋肉や骨の名前が英語で飛び交います」とスタジオの裏話も交えながらも、田島さんの手はペンタブレットを動かし続け、画面にはクリーチャーらしい姿が。終盤には、田島さんが即興で「翼を持った鳥の超人にしましょう」と他のブラシツールも駆使し、本格的なSF映画に出てくるようなクリーチャーを描き上げてくださいました。その間、わずか数十分。見ていたデザイナーたちからは大きな拍手が湧き起こりました。

実演のはじめに映し出された、造形の元となる球体
上記の球体が、数十分後には素晴らしいクオリティーのクリーチャーに

左:実演のはじめに映し出された、造形の元となる球体 
右:左の球体が、数十分後には素晴らしいクオリティーのクリーチャーに

実演を終えた後、会場から「田島さんがデザインしている様子を見ていると、本当に楽しそうで、いつまでも無限にできてしまいそうですね」という感想があり、田島さんは「そうなんです。ハリウッドは許可がないと残業ができないのですが、それがなければ、僕はずっとやってしまうと思います」と回答。数多くのヒット映画の世界観を創り上げてきた田島さんのクリエイターとしての姿勢が垣間見え、会場のデザイナーたちに大きな刺激を与えていただいた講演会となりました。