Hidden Senses Concept

心地よいインタラクションが導く
「新しい日常」へ

「Hidden Senses(隠された感覚)」とは、ソニーらしいストーリーを持ったプロダクトや空間を通して、
人や生活に寄り添う新たなテクノロジーのあり方を提案するデザインコンセプト。このプロジェクトは、未来の暮らしを見据え、
日常生活の中でテクノロジーはいかに存在し、そのインタラクションはどうあるべきかという問いに取り組んできた、
有志のデザイナーによる研究活動が発端でした。

未来の暮らしにおける
「心地よさ」の探究

昨今、スマートフォンをはじめとするIoTデバイスで管理されるスマートホームが大きな潮流となっています。そこでは、天気や電力消費量など、生活に関わるさまざまな情報を提示するディスプレイが家中に設置された住宅が、来るべき未来にあるように展示されています。このような多くの情報に囲まれる状況に対し、デザイナーが疑問に感じたのが「スマートホームでの暮らしは、ほんとうに心地よいのか」ということでした。本来「家」は、家族でくつろぎ、心から落ち着ける空間であるべきです。そんな毎日のおだやかな暮らしの中に、情報やテクノロジーをさりげなく共存させることができないかと考えました。それは部屋の壁にタブレットを埋め込むような情報提示ではなく、生活に根ざしたオブジェクトや作法の中に、情報を心地よいインタラクションとして溶け込ませる、新しい情報提示の在り方でした。2014年、この考えに共鳴した数名のデザイナーが自主的に集まり、Hidden Sensesの研究活動がはじまりました。

スペック信仰に対するアンチテーゼ

我々は、家電や機器をスペックありきで語りがちですが、それだけではなく、テクノロジーをもっとエモーショナルな体験や価値としてユーザーに感じてもらえないかと常に模索してきました。このHidden Sensesのプロジェクトでは、情報やテクノロジーの存在意義を改めて問い直し、人や生活に寄り添っていく未来を提案していきたいと思っています。

チーフアートディレクター 田幸

実験の積み重ねによる、
コンセプトの具現化

人々の暮らしに情報やテクノロジーをいかに溶け込ませるか。デザイナーたちが目指したのは、日常の所作にテクノロジーを自然に溶け込ませつつ、これまで日常に隠されていた感覚を呼び覚ますような心地よいインタラクションをつくることでした。そのためにまず行ったのが、デザイナーの専門領域の壁を取り払うことでした。「心地よいインタラクションとは何か」という課題に集中し、さまざまな角度からアイデアを出し合い、数多くのワーキングプロトタイプを試作・検証。「今までにない面白さを感じる」「この感覚は新しいのでは」といった意識を共有しながら、それを膨らませることで未知なるインタラクションを見つけ、コンセプトを具現化していきました。

例えば、従来のように画面の中で操作させるインタラクションではなく、身のまわりの空間やオブジェクトにUIを溶け込ませ、普段の生活における行為そのものをインタラクションにできないかと発想。メンバーはテーブルに投影した木漏れ日の様子で天気を知らせたり、コップを回すことでテレビのボリュームを調整できたりするなど、フィジカルとデジタルの境界線をなくす、直感的なインタラクションをつくりだしていきました。

人とモノの界面すべてがユーザーインターフェース(UI)であるととらえ直し、モノそのものや、それが置かれている周りの環境との関係性も含めて、広い視点でインタラクションがどうあるべきかを考えました。

デザインテクノロジスト 大木(写真左)

仮説やコンセプトから動きを実装していく従来のUIデザインの手法と異なり、すべてが実験からはじまりました。新しいインタラクションや体験をデザインできなければ、仮説そのものを変えて実験を繰り返し、コンセプトを固めていきました。

デザイナー 中島(写真右)

感覚に立ち戻り、
さらなる体験価値を追求

心地よいインタラクションを追求する過程で、デザイナーたちは利便性にとどまらず、生活をより豊かにするような体験価値をつくれないかと模索しました。そこで考えたのが、いま感じている体験と、記憶の中にある体験を結びつけることで、新しい感覚を呼び覚ますようなインタラクションをつくること。例えば、日常的な道具であるトレイに着目し、その傾きに合わせて、あたかもその中にコーヒー豆が入っているかのような振動とサウンドを感じられる新感覚のトレイを創作するなど、人々を楽しませるアート性も取り入れながら、Hidden Sensesのコンセプトを深化させていきました。また、これらのインタラクションへと自然に動作を促すよう、プロダクトデザインでは直感的に使える造形や普段の生活で慣れ親しんだ素材感など、体験を最大化させるデザインを追求しています。

インタラクションにリアリティーを与える

Hidden Sensesのプロダクトデザインでこだわったのは、あえて不安定な形状にすることで動作を想起させる形状にしたり、慣れ親しんだ触覚の記憶を呼び起こすような素材を選ぶことで、いま目にしている体験と記憶の中にある体験を結びつけ、驚きや体験のリアリティーを高めていくことです。

アートディレクター 塩野

さまざまな分野のコンテクストに
浸透するHidden Senses

Hidden Sensesのプロジェクトは、そのコンセプトを社外の方にも広く提示し、多様なフィードバックを得られるよう、世界最大規模のデザインイベントであるミラノデザインウィーク2018にプロトタイプを出展しました。展示内容は、初めて体験する方にも分かりやすいようにコンセプトの要素を整理し、5つのケーススタディーから構成。最初は聴覚、次は視覚と段階的にHidden Senses(隠された感覚)が明らかになっていくようなストーリーを体験できる展示を行いました。これにより、来場者の方々にテクノロジーが溶け込む「新しい日常」を自然に感じてもらい、「未来の生活を切り取って見せてくれた」といった感想もいただきました。また、この展示は世界的な建築家パトリシア・ウルキオラ氏からも高い評価を受け、同氏がキュレーターを務めるイタリア工業デザインの巨匠 アッキレ・カスティリオーニの生誕100年を記念する回顧展への協力を依頼され、カスティリオーニ作品とHidden Sensesのコンセプトを掛け合わせたインスタレーションをつくるなどの成果につながりました。

写真上:ミラノデザインウィーク2018 
写真左下:「A Castiglioni」展 写真右下:an/other TOKYO(アナザートウキョー)

そして現在、Hidden Sensesのコンセプトはアートの領域はもちろん、サービス、テクノロジーの分野の方からも注目を集め、大きな広がりを見せています。従来のホテルの概念を覆したan/other TOKYO(アナザートウキョー)のレセプションに導入されたほか、ハプティクス分野で最大級の国際会議IEEE World Haptics Conference 2019にも出展し、独自のアプローチが多くの関心を集めました。さまざまな分野の既存コンテンツを生かしながら、それぞれの文脈に溶け込むことができるHidden Sensesのコンセプト。私たちはこの先も心地よい未来の暮らしを見据え、デジタルとフィジカルが融合した新たな体験の可能性を追求していきます。

生活空間に溶け込み、人に寄り添う新たなテクノロジーのあり方を示したHidden Senses。
これからも、人々の日常に隠されたエモーショナルな感覚を
呼び覚ます「新しい日常」を探究していきます。