Sony Design

コンテンツメニュー

Perspectives vol.1

働くこと、生きることの「こうであるべき」を解きほぐす

各分野の、豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、多様な思考に触れつつクリエイションを通じて学びを得る「Perspectives」。

今回は、求人サイト「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒト代表のナカムラケンタさんを訪ねました。
多様な働き方にスポットを当て、人と仕事をつなげながら、自らも自由な働きを実践するナカムラさんの話に耳を傾けたのは、チーフアートディレクターの隅井。
「働き方は、その人の生き方でもある」という言葉にインスピレーションを得てデザインした5種類のカトラリーを紹介します。

堅苦しさを解きほぐす

通常、デザインの仕事というのは、問題解決だったり、困っていることに対してさらに良い提案を示したり。生活を豊かにすることが本質だと思います。働き方をテーマにナカムラさんからうかがった話に「こうであるべき、というルーティン化した行為で堅苦しくなっているのが、今の働き方の問題点」という言葉がありました。そこに自由度を与えることで、もっと楽しく働き、生きることができるのではという考え方に共感しました。

もうひとつ感銘を受けた言葉は、「生きるように働く」です。ナカムラさんがオフィスの1階で運営するカフェも、生活のために欠かせないものですよね。食べなければ仕事もできない。生きるうえで欠かせないもので、かつ人のクリエイティビティを高めるものはと考えたとき、カトラリーのイメージが浮かびました。

自由で、食べることがより楽しくなるカトラリー

カトラリーは歴史や文化、風習が積み重なってできたもので、並べ方を含めたマナーのような決まりごとがあります。もし、そういうルールがなかったら、もっと自由で、食べることがより楽しくなるんじゃないか。ナカムラさんの「ルーティン化した行為で堅苦しくなっている」という言葉に学んで食べる道具を見つめ直すことで、そこに新しいクリエイションが生まれる余地があると考え、手の形に似せたカトラリーをデザインしました。

普段何気なく行っている食事という行為を見直してみると、手を使って食べ物を口に運ぶのが最もシンプルで自然ですよね。それを実践しているのは案外子どもだったりして。国や場所によっては、大人でも許される場所もあります。行為を解きほぐすことで、人種や年齢にとらわれず、ご飯を楽しく食べられる道具というのがデザインのテーマでもありました。ナカムラさんの話を受けて、「こうであるべき」という凝り固まったルールに縛られない自由な発想の大切さに、改めて気づかされました。

ナカムラケンタさんが代表を務める株式会社シゴトヒトが運営するカフェ「今日」が、カトラリーに合わせてつくった特別メニュー。中央が「オレンジと生ハムのサラダ」。右の「お芋とマッシュルームの白味噌グラタン」から時計回りに「かぼちゃの豆乳スープ」「2種のトマトの和だしピクルス」「バゲット」。奥が「苺のクラフティ」。

共通するのは、問題を探るプロセス

求人業界は、一見クリエイティブな業種と縁遠い気がします。しかしナカムラさんが運営されている日本仕事百貨は、実際にクライアントとなる会社を訪ね、そこで働く人たちの話に耳を傾けて求人記事を作成するという、これまでにない求人サイトです。その発想は、僕のデザインプロセスとも似ています。クリエイティブな視点や思考は、デザインだけに活かされるわけではなく、さまざまな領域に取り入れることでさらに世界が広がっていきます。

ナカムラさんの話のなかに「企業の根本を知るために、根っこの部分を探り出す」という発言がありました。依頼主の「人材が欲しい」という要望に対して、まずは話を聞き、「あなたの会社には、こういう人がいたらいいんじゃないか?」と逆に提案する。まさに僕のデザインプロセスそのものです。例えば、社内で「新しいデザインにしてほしい」と依頼されても、あまりに漠然としすぎて、どんなものを欲しているのかわかりません。そういうときはいったん「新しい」という制約を取り払い、「何が問題なのか」を探ることからデザインに取りかかります。課題を解決した結果、気づいたら表現が新しくなっている、ということがデザインの本質だと思います。

写真右:ナカムラケンタ
株式会社シゴトヒト代表。1979年東京生まれ。明治大学大学院建築学科卒業。2008年不動産会社を退職し、生きるように働く人の求人サイト「東京仕事百貨(12年から日本仕事百貨)オープン。13年からさまざまな生き方・働き方に出会うことのできる場所「リトルトーキョー」運営。
写真左:隅井 徹/すみい・てつ
ソニー株式会社クリエイティブセンター スタジオ2のチーフアートディレクター。

構成/「AXIS」編集部

文/Junya Hirokawa