Perspectives vol.4

街に漂う空気、流れる想い

ソニーのデザイナーが、各分野の豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、
多様な思考に触れつつクリエイションを通じて学びを得る「Perspectives」。

4回目のゲストは、映画プロデューサーの川村元気さん。2005年の初プロデュース作品「電車男」を皮切りに、
「告白」「モテキ」「君の名は。」などヒット映画を次々に世に送り出し、12年には「世界から猫が消えたなら」で
小説家デビュー。その後、絵本や広告といった領域にも活躍の場を広げています。
人々の気持ちを捉え、時代をつくり続けるヒットメーカーの思考に触れたクリエイティブディレクターの細田育英は、
見えない「集団的無意識」を捉えようと街に出かけ、撮影を行いました。

「人に近づく」には
街のほうがいい

「人の気持ちを捉える、もしくは掴む」とった視点から、川村さんの話には、自分の仕事との共通点を多く感じられました。自分がこれまで手がけてきたデザインも、今、未来に向けて取り組んでいるデザインも、「人に近づく」という言葉に帰結すると思います。これは、ひとりのデザイナーとして、ずっと課題に感じてきたこと。街に行くようにしているのもそのためです。製品にしてもサービスにしても、マーケットは僕の働いているオフィスにあるわけではなく、誰かの日常生活の中のいろんな場所で使われるものが圧倒的に多いですよね。そう考えると、アイデアもマーケットで出して、検証もマーケットでするほうが精度が高いと思うので、いつも、街や街にいる人の意識に目を向ける姿勢を強めたいと考えています。

ソニー株式会社 クリエイティブディレクター 細田育英

街でやっていることは
「妥当性検証」

数年前にあるプロダクトのデザインを担当したとき、チームのもうひとりのデザイナーと、A案、B案、2通りのスケッチを持って街に出かけました。街を行き交う人々と、その若いユーザー向けプロダクトのスケッチを見比べて、「あの人はこれを使ってくれるかな」「あの人だったらどうだろう」「どっちがこの場所に馴染むかな」と想像してみました。マーケットで見てみると、オフィスでつくったスケッチがちょっと合わないなと感じることは、確かにあるんです。2年ほど前には、「これは、MoMAに収蔵されるんじゃないか」と自分で思うほど、素晴らしいデザインを思いついたことがありました。しかし、そのデザインを、街で会った人に自信満々で伝えてみたら、まったくピンときてない様子。そのときはそのデザインを完全に捨てて、また一から考え直しましたね。賞を取るような素晴らしいデザインと思っても、必ずしも人々が欲しいと感じるデザインではないということがわかりました。以前、シリコンバレーのベンチャーの人と話しているときに「妥当性検証」という言葉が出てきました。自分の企画を第三者がどう捉えるかという、その企画の妥当性を検証する作業をしているという内容でした。川村さんの話でこれに近いと感じたのが、「いつも『脳内反省会』を200回はやってる」というもの。「作品の公開までに、何度も何度も頭の中で検証を重ねている」というエピソードです。川村さんの脳内反省会も妥当性検証のひとつのやり方。自分の場合は、街に行って、確認することです。

気持ちを引きずりながら
行き交う人々

「集団的無意識」は、街に漂う空気や、流れる思い。インターネットでは絶対に検索できない、時代の空気感です。今回、渋谷の路上で撮影した写真に写っているのは、ごく普通の人の姿。路上は、個人レベルの事件だらけですよね。会社員や学生なら「職場とか学校で、誰々に何を言われた」とか、ショップで働いている人なら「今日のお客さんは感じがよかったな」とか、そういう小さな気持ちを引きずりながら、人は街を行き交っています。集団的無意識には、個人がそれぞれ持つ小さな気持ちや、ふと我に返ったときの素の自分の思いなどが混じり合っているような気がしています。建前でなく本音の、本能のような思いが、街の地上30cmの場所に漂っている。このビジュアルはそんなイメージ。人々から流れ出た思いが、街のなかで可視化されるような未来の姿を想像しました。

金曜の夜 信号待ち PM11:54

なんとなく 横断歩道橋の横 PM8:24

待ち合わせ 渋谷 PM6:28

バイト帰り コンビニ AM2:15

ソニーデザインの仕事は、合格点のその先にあるもの。川村さんの「仕事。」という本にあった、糸井重里さんとの対談のコーナーで出てくる「ショートケーキのイチゴ」と同じです。ケーキの上のイチゴは、それがあることでとてもチャーミングでおいしく感じられるものになる。行き場なく漂う人々の思いに目を向けて、それをヒントに未来のストーリーを想像することで、人に近づくことができる。集団的無意識という、街に漂うなんでもないものを捉えて、とんでもないものをつくるという意味では、デザインは責任ある、楽しい仕事です。

川村元気/かわむら・げんき
映画プロデューサー、小説家

細田育英/ほそだ・やすひで
ソニー株式会社クリエイティブセンター
DBD室クリエイティブディレクター