ソニーモバイル
コーポレートビジョン

会社の存在意義を
デザインする

「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というコーポレートビジョンを発表した、
ソニーモバイルコミュニケーションズ(ソニーモバイル)。その裏では、デザイナーが従来の領域を超え、ビジョンの再定義を社長に提案し、
その策定から導入までのプロジェクトで大きな役割を果たしました。このプロジェクトの軌跡を、
ソニーモバイル社長の岸田をはじめ、メンバーたちが振り返ります。

ソニー クリエイティブセンター
シニアアートディレクター 前坂

ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
代表取締役社長 岸田

ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
経営企画部門 経営企画部 統括部長 結束

ソニー クリエイティブセンター
デザインプロデューサー 江下

すべての社員の
心を一つに

コーポレートビジョンとは、企業が進む道を示す旗印となる重要なもの。今回、ソニーモバイルのビジョンを再定義するプロジェクトは、デザイナーの提案からはじまった。

前坂僕はXperia™スマートフォンの、キービジュアルやプロモーションムービーなどコミュニケーションデザイン領域でディレクションを行う立場なのですが、担当者や外部協力会社の違いによって一貫性がとれず、コミュニーションプランが不揃いになってしまうという課題を抱えていました。これではXperiaのブランド力が低下してしまうため、さまざまな改善提案をしてきたのですが、グローバルで全社員の意識を統一させることは困難でした。一方で、スマートフォンのコモディティ化が進み、ソニーらしいモデルを生み出せていないという社内の危機感も感じていました。

このような状況をどうすれば打破できるのか…そう考えていくうちに、企業の旗印となるコーポレートビジョンを定義すれば、会社全体が変わるのではないかと思い至ったのです。調べてみると、コーポレートビジョンが無いわけではなかったのですが、普遍的かつ冗長だったため、社員に浸透しているとは言えない状況でした。そこで社長に就任したばかりの岸田に、今後のスマートフォン市場を勝ち抜くためにも、すべての社員の心を一つにするようなビジョンの再定義が必要だと訴え、そのためのワークショップをやらせてほしいと提案しました。

岸田前坂の提案を聞いて、本当にハッとしました。彼は「Xperiaというブランドを刷新したい」と言っているのだと理解し、私もそれが必要だと考えていたのです。もともと私はソニーモバイルの前身であるソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの設立に関わり、今回社長として古巣に戻ってきたのですが、まず目にしたのが、厳しいビジネス状況下でありながら、スマートフォンへの情熱を一つも失っていない社員の姿でした。そのとき私は、ソニーモバイルには技術力や営業力、マーケティング力などすべてがある。それらの力を一点に集約するようなビジョンがあれば、この会社は躍進すると確信しました。このプロジェクトに取り組むことで、時代の変化に左右されず、自分たちが信じ抜けるものを見つけたいと考えました。

その決意を表すために、私はすぐソニーモバイル社員が一同に会する全体ミーティングで「私たちの旗印となるコーポレートビジョンを再定義し、つぎの世界最大規模の携帯通信関連・国際展示会『MWC19 Barcelona』で発表する」と宣言。前坂らデザイナーたちにビジョンを策定するプロジェクトの旗振り役になってもらいました。

企業の「本質」を
引き出す場

コーポレートビジョンを議論するためのワークショップには、社長の岸田を含め、各部門のマネジメント数十人が参加した。そのワークショップのリーディングを担ったデザイナーたちはどんな働きを見せたのか。

江下今回のワークショップでは、ソニーモバイルの担当者、ファシリテーションの知見を持つエージェンシーのスタッフとチームを組み、マネジメントの方々をはじめ社員全員が共感できるコーポレートビジョンを導きだすため、そのプロセス全体をデザインしようと考えました。その中で私たちが目指したのは、マネジメントの方々に徹底的な議論を促し、そこから湧き出た想いを心に響く形で具現化することでした。

具体的なプロセスとしては、ワークショップを数回に分け、すぐにビジョンについて議論してもらうのではなく「自分にとってプレミアムとは」「日常と非日常とは」などの議題からはじめ、段階的に核心的な議論に進むようにプログラムを作成。さらに、皆さんの本音を引き出し、議論をより活性化させるため、参加メンバーの相性を考えてテーブルの席次なども入念に考えました。同時に現場との乖離を防ぐため、全社員に「どういう会社になりたいか」などのアンケートをとり、それを現場の意見として議題に盛り込むなど、ワークショップ全体を組み立てていきました。

結束私はソニーモバイルの担当者として参加したのですが、私自身「いま必要なのはビジョンだ」というデザイナーの考えに強く共感し、「ようやくこの議論ができるタイミングが来た!」と思いました。そして、このワークショップを自分たちが変わる第一歩にしようと決意しました。そのためには、参加されるマネジメントの方々が本音をぶつけあい、本質的な議論ができる場をつくらなければなりません。そこで大きな助けとなったのが、どんなときでもお客様の視点を貫くデザイナーの考え方でした。例えば、ワークショップの質問事項を考える際、私たち社内の人間は各部門の事情などを考えてしまいがちですが、デザイナーたちは「いまソニーモバイルはお客様からこう見られている。だから、この質問を投げかけるべきだ」と常にお客様の立場から意見してくれました。その結果、実際のワークショップではマネジメントの皆さんが「きれいごとのビジョンにしてはダメだ。自分たちがお客様に提供したい価値とは何か、本音で話し合おう」と白熱した議論が展開されました。

前坂ワークショップの回を重ねるごとに「好きを極める」「つきぬける」などの新たなソニーモバイルを予見させるようなキーワードが発せられました。そこでワークショップを開催するたびに、前回の議論の内容から発想したビジュアルやフレーズを会場に持ち込み、より具体的なビジョンへと議論が深まるようにしました。そうしてワークショップは充実した内容で終わったのですが、それを最終的なアウトプットにまとめるのは至難の業でした。エージェンシーのコピーライターと散々悩んだのですが、味付けせず、ワークショップで議論された内容を順に並べてみたところ「これだ!」と思いました。そして「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というコーポレートビジョンと、それを紐解いたステートメントが生まれたのです。

岸田実はこのビジョンとステートメントを社内で見せたところ、一部の社員から反対意見が出たんです。だからこそ、私は「いける」と思いました。それは、ありきたりのものではなく、反対意見がでるほど、私たちマネジメントの本気で変わろうとする決意が表れている証拠だからです。コーポレートビジョンとは「さぁどうぞ」と手渡すものではなく、「これはどういう意味で、どう実現するのか」とみんなで語り合い、一致団結しながら追い求めていく行為そのものだと私は思います。デザイナーたちがザラザラした言葉でまとめてくれたこのビジョンとステートメントは、まさに私が求めていたものでした。さらに心を掴まれたのが、この星空を見上げる孤高の人物のビジュアルです。この人物は私たち自身であり、万人向けを追い求めず、我が道を歩む覚悟を示す、これからのソニーモバイルにふさわしいビジュアルだと思いました。

ビジョンをいかに
浸透させていくか

新しいコーポレートビジョンによって社内の意識をいかに統一していくのか。社外への発表の場である携帯通信関連・国際展示会「MWC 19 Barcelona」でこのビジョンをいかに披露するか。それらの過程においても、デザイナーが大きな役割を果たした。

結束次のステップは、新しいコーポレートビジョンの浸透でした。実はワークショップと並行してXperia 1の開発が進んでおり、「想像を超えたエクスペリエンスを」というビジョンを受け、ソニーの映画撮影用カメラ VENICEの機能を投入するなど、私たちの製品は確実に変わりはじめていました。そして最も大切だったのは、会社全体を変えていくため、ビジョンをいかに社員に浸透させるかということでした。そこでデザイナーと社内導入のストーリーを綿密に考えながら、全社員にビジョンを発表する際に使うプレゼンテーションをつくりあげていきました。その中で、マネジメントたちが議論するワークショップの様子から、ビジョンに込められた覚悟までを丁寧に説明。そのうえで、ビジョンを体現するXperia 1を示すことで「新たな旗印のもと、会社は本当に変わるのだ」という決意を社員のみんなに深く理解してもらえたと思います。

前坂社内への浸透を図る一方、コーポレートビジョンとXperia 1を対外向けに発表する「MWC19 Barcelona」の会場づくりも非常に重要でした。ビジョンが変わるのなら、ブランドの見え方も変えなければ、お客様へ説得力を持って伝えられません。そこで、新しいビジョンを会場全体で表現しようと、イベントブースの空間デザインから、会場内のグラフィックス、展示台などの什器、さらに製品の並べ方まで、すべてを刷新。さらに、岸田がコーポレートビジョンとXperia 1を発表し、その思いを語るプレスカンファレンスについても、細部までビジョンの世界観を徹底的に反映させました。

岸田お客様の目線を忘れず、あらゆる仕事をやりぬくこの姿勢こそ、ソニーのデザイナーの真骨頂だと思いました。例えば、プレスカンファレンスでXperia 1を発表する際、後ろのスライド横一面にXperia 1のホーム画面に設定されているグラフィックが浮き出てくる演出があるのですが、デザイナーたちはそのグラフィックの位置を私が広げた手の位置に合わせ込もうと調整を繰り返していました。一瞬にこだわる、細部まで手を抜かない、そんなデザイナーの真剣さが空間全体に伝わり、会場の空気感まで変えていったと思います。そのような舞台をつくりあげてくれたおかげで、コーポレートビジョンとXperia 1を発表したとき、私たちが変わろうとする決意が多くの聴衆の方に伝わっていく手応えを確かに感じることができました。その後、世界中のプレスがこのビジョンを大々的に取り上げてくれるなど、成功を収めたと思います。

ビジョンをもとに、
さらなる深化へ

新しいコーポレートビジョンによって、ソニーモバイルの社員たちには変化が起こっているという。そして今後について、メンバーたちはどんな展望を持っているのだろうか。

江下僕は全社員に向けてコーポレートビジョンが発表されたとき、若いエンジニアが言ってくれたことが今でも忘れられません。彼は「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というビジョンと星空のビジュアルを見て「僕は天体写真を趣味にしていますが、今のXperiaではこの星空を撮ることは難しい。でも、ぼくはどうしたらこの星空が撮れるかわかっています、そんなつきぬけた撮影体験をユーザーに提供したい」と語ってくれました。この発言こそ、新しいコーポレートビジョンの真意であり、それが伝わったことに本当に感動しました。ビジョンが社内に着実に浸透し「自分はこういうものをつくりたいんだ」という社員がどんどん増えていくこと、そのビジョンのもと生まれるものに共感する人々が増えていくこと、その拡がりにワクワクしています。今後、製品づくりのハードルは格段に高くなりますが、それに挑み続ける決意がこのビジョンには込められています。我々デザイナーもその挑戦をサポートしていきたいと思います。

岸田私はソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ設立時にもゼロからイチを生み出すブランディングに携わりましたが、今回のプロジェクトはその何倍も難しい仕事だったと思います。これまでXperiaが積み重ねてきたものを生かしながら、どうつくり直すのか。ワークショップで他のマネジメントたちと夜を徹して議論した末にたどりついた新しいコーポレートビジョンによって、これからソニーモバイルらしい製品をつくっていく土台ができました。これで、絶えず変化するビジネス環境のなか、自分たちが信じる道を突き進むことができます。

今回のコーポレートビジョンは、デザイナーの協力なしに描けませんでした。彼らはお客様の目線を持ちながら、かつ製品への愛情も持ち続けている希有なグループだと思います。ワークショップのリーディングを通じて、彼らはソニーモバイルの存在意義をずっと問い続け、新しいビジョンへの道筋をつけてくれました。今回彼らがデザインしたのは、ソニーモバイルの存在意義そのものだったと思います。これからもビジョンの実現まで果てしない挑戦が続きますが、ぜひ遠慮せず、いろいろな提言をしてほしい。デザイナーたちの提案をいつでも待っています。

デザイナーの提案から始まった、ソニーモバイルのコーポレートビジョン
今後もこのビジョンのもと、デザインの力を生かし、お客様の想像を超えるような体験を提供していきます。