Technology

ソニーの車載用CMOSイメージセンサーは、
自動運転の切り札となるのか?

ソニーが車載用CMOSイメージセンサーの商品化を発表したのは2014年。いわば後発組であった。躍進を目指すソニー製品のストロングポイント、あるいはソニーらしさとは一体どこにあるのか。最前線で活躍する3人に訊いた。

プロフィール

  • 本橋 裕一

    Sony Europe B.V.
    Automotive Sensor
    Sales & Marketing

  • 飯田 聡子

    ソニーセミコンダクタ
    ソリューションズ株式会社
    第1研究部門

  • 佐藤 直哉

    ソニーセミコンダクタ
    ソリューションズ株式会社
    車載事業部

クルマを包み込む繭(=コクーン)のごとく

──まず、車載用イメージセンサーの研究開発において、みなさんがどのような役割を担っているのか教えてください。

佐藤:私は、画質グループで、イメージセンサーの画質基準の検討や評価をしています。以前、監視カメラ用のセンサーを担当していたのですが、監視カメラはどのメーカーでも商品化しているので、他社のセンサーとソニーのセンサーを比較することは比較的容易でした。その点、車載カメラは比較や評価をしづらいのです。「性能はいいけれど、その評価方法がなくてアピールができない」といったことが多く、自分たちの優位性をうまく表せる評価軸をつくれないかな、ということを常々考えています。

飯田:私は画素設計を担当しています。過去には、ソニーから初めて車載専用CMOSイメージセンサーとしてリリースされたIMX390を担当していました。現在は、大手自動車部品メーカーとの協業開発案件や次世代の車載用イメージセンサーの画素設計を担当しています。

本橋:私は、商品企画とお客さまとの仕様の折衝を担当しています。私たちがお客さまのニーズを聞き出し、企画し、仕様を決めて、飯田さんや佐藤さんたちが設計・調整するという役割分担になっています。

──車載用イメージセンサー開発のサイクルは、どのくらいなのでしょうか?

飯田:イメージセンサーの開発のサイクルは2〜3年ですが、その製品が実際に自動車に搭載されて市場に出るまでには、他の用途と比べると、長い時間がかかります。

本橋:実際、いま行っている商談は、5年後市場に出る車に対してのものだったりしますね。

──ソニー製の車載用イメージセンサーは、どういったコンセプトのもと開発を行い、他社と比べてどのような優位性があるのでしょうか?

本橋:まず開発コンセプトということで言うと、2018年のCES(世界最大規模の電子機器の見本市)で当時の平井一夫社長兼CEOがスピーチを行った際に、「セーフティコクーン」というコンセプトを発信しました。全方位をカメラでモニタリングすることで、クルマ全体がコクーン(=繭)のように守られている状態を実現するという話で、現時点ではそれがゴールになります。

今後、自動運転が本格的に普及するとなると、前も横も後ろも車内も見なければいけませんから、お客さまのニーズとも合致していると思います。

飯田:ソニーが長年培ってきたコアコンピタンスである「低照度特性」を訴求しながらも、車載用イメージセンサーで強く要求される「単一露光でのダイナミックレンジ拡大技術」を訴求したソニーオリジナルの画素アーキテクチャを開発しました。これは、他社に負けない技術だと思います。

──「車載用イメージセンサーに対する要求」という部分を、もう少し教えていただけますか?

本橋:まず、広いダイナミックレンジ(HDR)を求められるという点が挙げられます。暗いところから明るいところまで写したときに、黒く潰れないとか、白く飛ばないという技術です。あとはフリッカー対策です。フリッカーとは、LED光源を撮影するときにチカチカしてしまう現象です。LED光源は常にオン/オフしているので、シャッターと発光のタイミングが合わないと、消えているように見えてしまうわけです。赤信号なのにそれを判別できずに突っ込んでしまったら、まずいですよね。

フリッカーを解消するためには、露光を長くしないといけません。しかし露光を長くすると、今度は白飛びしやすくなってしまいます。要はトレードオフになっていて、両立するのが難しい特性なのです。

そこで、いま飯田さんたちが挑戦しているのが「画素をなるべく飽和させない」という方法です。それには、たくさん電子を集めても満杯にならないような画素を開発することが必要で、各社いろいろなやり方で挑んでいるのですが、われわれは自社のやり方が一番いいと思っており、実際、お客さまからも評価をいただいています。

──通常のHDRとはどう違うのでしょうか?

佐藤:HDRの処理を行うとき、通常はシャッタースピードを変えて複数回撮るのですが、それだと、動きの速い被写体の場合は「モーションアーチファクト」というブラー(ボケ)が出てしまいます。そうした動体エラーは、人間が見ても不自然ですし、画像認識アルゴリズムに判断させるにしても、よくないわけです。その点ソニーのセンサーは、独自の画素構造になっているので、HDRだけれどモーションアーチファクトもフリッカーも出ない、という特性を持っています。これが、先程、飯田さんが言った「単一露光でのダイナミックレンジ拡大技術」で、他社との大きな差異化ポイントになっています。

求められるのは125℃という環境下での性能

──ほかにも「車載ならではの要求」はあるのでしょうか?

本橋:他の用途と大きく異なるポイントのひとつは、非常に広い温度範囲での動作が求められる点だと思います。フロントカメラは、通常バックミラーの下あたりに付いているわけですが、夏は車内温度が非常に高くなるので、現在は125℃まで耐えられる仕様が求められています。

温度が上がると、イメージセンサーというのはノイズ(暗電流)が増えていきます。ノイズが増えると、暗いところが見えにくくなります。ですので、高い温度でもセンサーを使うためには、ノイズをどれだけ低減できるかが鍵になるわけですが、実はそこに、私たちの強みがあるのです。

ソニーは、熊本をはじめ日本国内にイメージセンサーの自社製造事業所を持っています。競合他社は、ファウンドリといわれる外注のウェハー工場で製造しているわけですが、私たちは自分たちの工場に膨大なノウハウを蓄えているんです。もともとソニーは、1970年からCCDイメージセンサーの開発を行っています。製造工程で出てくるノイズをどれくらい減らすか、というノウハウを約半世紀にわたって製造事業所に蓄積していることが、強みのひとつになっています。

そしてそれは、飯田さんたち、画素の設計者と、製造事業所のエンジニアが密接にやり取りをすることで実現しているわけです。

──エンジニアが、直に製造事業所とやり取りをするわけですか?

飯田:特にプロトタイプやエンジニアリングサンプルが最初に出てきた時には、その評価・解析や不具合対応のために、多いときは毎週、熊本の製造事業所へ行くこともあります。設計者が直接製造事業所に赴き、現場の担当者と密にやり取りできるのが強みだと思います。

カメラは自動運転に「絶対不可欠」

──現在は、どのような視点で開発に臨んでいるのでしょうか?

飯田:先程、暗いところのノイズ低減をはじめ、ソニーの強みを挙げましたが、それは、プロセス技術が他社より秀でていたことによって勝ってきた歴史でもあります。しかしプロセス技術がコモディティ化して、そこで差別化することが難しくなってきた現在、画素のアーキテクチャで差異化を図り、優位な特性を示していく必要があります。ただ、私たちのお客さまであるOEM(自動車メーカー)やティア1(1次サプライヤー)からしてみれば、車載用イメージセンサーは一部品ですので、全体を俯瞰した「システム思考」で、ユーザーが何を要求しているかを本橋さんらがキャッチアップし、それに基づいて私たちがプランを提案して、それを実現するということを行っています。

本橋:われわれのセンサーは、光を受けるシリコンと、回路が入っているシリコンが重ね合わさって1枚の製品になっています。この回路のほうに、いろいろな機能を付加していくのがひとつの方向性かと思っています。例えば、ディープニューラルネットワークを実装して、画像をただ出力するのではなく、「これは人です」とか「クルマが300m先にいます」といった情報を、イメージセンサーから出すということを考えています。世の中ではエッジAIと呼ばれていますが、それをイメージセンサーでやればいいのでは、という考え方です。

システムから考えたとき、後段のシステムの負荷を減らしてあげたり、転送するデータ量を減らしてあげることが、次に来る大きな進化なのかなと思っています。

もうひとつ、センサーフュージョンという取り組みも行っています。自動運転のクルマを作るためには、カメラとレーダーとLiDAR(光センサー技術)という3つを組み合わせることが不可欠と言われています。この3つは、それぞれ強いところと弱いところがあって、全部を組み合わせることで相互に補完し合えるわけです。そうした違う原理のセンサーの組み合わせも、進化の軸としてはあると思います。

──カメラのセンサーが、レーダーやLiDARといったほかのデータも集約するターミナルになる、というイメージなのでしょうか?

本橋:カメラのセンサーがターミナルになるかはわかりませんが、全部のセンサーから出てくるデータを統合し、判断した結果を後段のシステムに送るというフュージョンシステムが、ひとつの目指すべき方向性だと思います。

佐藤:センサーフュージョン技術は、複数のセンサーを組み合わせることで、物体認識が難しいとされる逆光や悪天候、夜間などの状況においても、高精度な物体認識を実現できます。信号の色や道路の白帯といった色情報は、カメラじゃないとわかりません。なので、3つのセンサーのなかでも、カメラは絶対に必要だというのが、多くの人のコンセンサスになっています。空間分解能が一番優れているカメラを中心にして、弱いところをほかのセンサーシステムで補っていくという考え方が自動運転への筋道だとするならば、カメラのセンサーにデータを集約するという考え方は、理にかなっていると思います。統合プロセッサーみたいなものがあって、そこで処理をすることになるのかもしれませんが、いずれにせよ、カメラの重要度は変わらないと思います。

──車載用イメージセンサーを開発する難しさをあえて挙げるとすると?

本橋:われわれはエレクトロニクスの業界にいて、これまではお客さまもカメラメーカーであったり、電気・電子技術に詳しい方が多かったのですが、自動車業界というのは文化も違うし、商慣習も違います。始めたときは、そもそもその違いがあるということがわからず、次に違いがあるということがわかってくると、今度はそれに慣れるのが大変でした。

飯田:車載用イメージセンサーというのはすべてがチャレンジなのです。自動車用の国際的な規格であるIATF16949やISO 26262などがあり、設計も信頼性も非常に高い水準で求められます。既存のアーキテクチャを持ってきて使っているだけでは優位になりません。ほかの用途向けのイメージセンサー技術を横展開するだけではなくて、車載用ならではの技術を立ち上げて示していく必要があり、そうしたチャレンジの難しさがあります。そして車載なので、もちろん、命に関わることを行っているという難しさはあります。

強みは、技術力と提案力

──これまでお話した自動車の外側を認識する車載カメラ以外にも、自動車の内側を認識する車載カメラがありますが、これらにはどのような役割があるのでしょうか?

本橋:2つあります。ひとつは、いわゆる自動運転におけるレベル3に必要な技術だという点です。レベル3の場合、人間と機械がハンドオーバーするかたちになります。そのハンドオーバーを行うタイミングで、「機械がダメだったらドライバーさん、運転よろしくね」ということなので、その「よろしくね」に移行する際、人間がよそ見していないかどうかを見極め、きちんと前を見ていたらハンドオーバーするというわけです。

もうひとつは、助手席を見て「人がいるからエアコンの風をもう少し当てよう」とか、ジェスチャーでシステムをコントロールするといった用途になります。

──車載用カメラの技術が、クルマの外で応用されていく可能性はあるのでしょうか?

佐藤:あると思います。ロボットとか自律走行系にはそのまま使えますからね。

本橋:先程も出たエッジAIはほかの用途、例えば監視カメラで必要になってくると思います。あとは指紋や虹彩といった認証系の用途の場合、プライバシーの観点から、なるべく端末の中からデータを出したくないという要求があるようです。なるべくエッジ側で処理したいというニーズは、いろいろな業界であると思います。

──ソニーが、今後さらに優位性を発揮していくためには、何が必要になってくるのでしょうか?

本橋:技術の差異化と、あとは提案力の強化ですね。お客さまがいま何に困っていて、それに対してわれわれの技術でできることを提案していくと、部品売りのビジネスから、もう少し上流のビジネスになっていくのではないかと思います。

飯田:車載ビジネスとしては、売り上げを伸ばし、シェアを獲得していくことをもちろん目指しています。車載用イメージセンサーは、もともと監視用イメージセンサーを転用することから始まりました。監視用イメージセンサーは、低照度特性を主に訴求して開発してきましたが、車載用イメージセンサーではそれに加え、高照度特性を独自に訴求することでダイナミックレンジ特性を上げました。いまは監視カメラもダイナミックレンジに対するニーズが高まっていますので、車載カメラで培われた技術を転用していくことで、ソニーのイメージセンサー全体を伸ばしていくことに貢献できたらと思います。

本橋:われわれが開発した要素技術がほかのカテゴリーに転用されることは結構あります。逆に、モバイルやカメラのカテゴリーから技術をもらうこともあります。そこが、いろいろな用途に向けて開発を進めているソニーらしさのひとつだと思います。

飯田:ソニーのイメージセンサーは、モバイル、カメラ、監視など、カテゴリーが多岐にわたり、イメージセンサー全体の世界シェアは50%を超えています。つまり世界各地に顧客がいて、その顧客要求に対応するべく切磋琢磨して培われた技術をカテゴリーを超えて共有できるということが、他社には真似できない強みだと思います。

佐藤:センサー技術単体の差異化も重要ですが、例えば可視光以外の波長を使用して性能を上げるとか、システム寄りの観点から考えてみると、ソリューションという部分でいい提案ができる気がします。

──最後に、「こんな仲間がほしい!」というご意見があればぜひ教えてください。

佐藤:新しい技術の開発には、同じくらいの技術力を持った評価者も必要です。技術力が上がれば、技術を評価するほうの技術力も重要で、そういう、いわば縁の下を支えることができる方にも、たくさん来てほしいと思います。

飯田:この会社には、イメージセンサーの先端技術がたくさんあります。がんばれる場所もたくさんあります。そして、尊敬できる技術者の方々、目指したいロールモデルの先輩・同僚がたくさんいます。

本橋:いろいろなことに興味がある人、例えば半導体の画素の研究開発や技術開発を行っているけれどAIに興味があるとか、分野を横断して研究開発や技術開発をしてみたいという意識がこれからは重要だと思いますので、もしそういう気持ちがある人がいれば、すばらしいと思います。「いろいろなことをやっている人がいる」組織は、いい組織だと思いますので。

関連リンク:
イメージセンサーという「小宇宙」を創造する者たちの視座
IMX490商品化プレスリリース

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