ソニーイメージングギャラリー 銀座

山田博行 写真展 CABIN

仕事や作品制作で世界の雪山の僻地やアラスカの森に滞在して撮影する経験を重ねてきたという写真家山田博行。だが写真展 “CABIN”(キャビン)には過去の彼の作品に代表される、睥睨するかのようにそそり立つ雄大な雪山やブルーに染まった美しい氷河帯といった絶景はない。そこにある作品には主体となる被写体は写っていない。
「あるとき好きな山道(トレイル)を撮りたいと思いました。山道を歩いた記憶と心地を視覚化して表現したいと思いました。写真を何度も撮りにいきシャッターを押しましたが、何か、撮れたという感じを掴めないままでした。主題に迫れば迫るほど、撮影が何か森での被写体を見つけなければならないという行為にどんどんなっていき、本来の自分の狙いからずれて不自然に感じてきました」と山田は当時の心境を語った。つまり、いま自分が感じている森を歩いているときの気持ちよさ、それをフレームの中で主張ある被写体で表現することの限界を感じたのである。そんな事が原点になって詳細な表現を拒否したぼんやりとした自然風景作品へと向かい始めたという経緯があった。

今回の写真展の作品群が、なぜ山小屋の窓から見える風景なのか。それは長く滞在していたアラスカや山岳遠征での体験のなかで、山田の記憶に深く印象に残っているもののひとつが山小屋の窓から見える景色だったからだ。山小屋の窓の外には特別な絶景というものはなく、ただ木々の枝が触れ合いながら揺れ、葉が重なり、光が漏れている。季節によってはホワイトアウトの吹雪や霧のこともある。それぞれの山小屋の窓の風景体験こそが、その空間や時間の記憶につながり、それらの記憶をたどり、記憶から景色を描写したいという思いに至った。それが、今回の作品シリーズ “CABIN” なのである。「自然の中に建てられた山小屋というミニマルな居住空間で味わえる独特の静寂さやポジティブな孤独感、四季の自然の移り変わりなどを含めて、具体的なものを主張せずにぼんやりとそして確かに私たちに届く景色の存在感や気配感を描写したいと思いました。」と山田は話す。

―人は常に景色の情報を見つめているわけではなくて、自分というフィルターを目の前の景色に重ねて心に映し、それぞれの想いにふける。その間、木々のざわめきを音で感じ、風の流れを肌で感じている―、その時空間の気配を探求した結果が、写真表現の焦点を再考し、どこに焦点を置くかという山田の独特のアプローチに繫がっている。そして明るく平滑で抽象的な作品からは、溢れる光や葉の擦れ合う音、鳥のさえずりという自然豊かな森林が、イメージと共に漂い広がっている。作品を飾るという行為を再構築して、山小屋の窓からの風景を擬似的に表現しているところが興味深い。

山田やまだ 博行ひろゆき プロフィール

1972年新潟生まれ。写真家。
武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。
2013年「waterproof」で Japan Photo Award を受賞。
国内外で極地の大自然から日常まで美しいもの、瞬間を追い求めている。
写真集に「Tuesday」(bueno books) がある。