SONY

ソニーイメージングギャラリー 銀座

吉田裕之 作品展 イデア eye of the heart

“イデア”とは古代ギリシャ哲学者プラトンが提唱した概念である。簡単に略してしまうことをお許し願いたいのだが、「我々が住んでいる世界である“現象界”とは別に“イデア界”があり、そこにすべての本質(理想)が存在している。そして私達は目の前の物そのものを認識しているのではなく、その向こう側にある“イデア”を見て取ることで例えば「美しい」というような“知覚”がもたらされているのだ。」という考え方だ。そこにある物が美しいのではなく、“心の目”で見た理想的な美しさ(イデア)を想起し美の本質に触れたから美しいと感じたのだということである。

吉田は高校の授業で『“心の目”で見た理想的な美しさ(イデア)』という思想を初めて知り、それ以来ずっと心の奥でそれが気になっていたという。しかし、プロカメラマンになり様々な仕事をこなす日々を長年繰り返すうちに無意識に自身の“イデア”を封印して、クライアントからのリクエストを完璧にこなそうとする職人的なプロカメラマンと化して行った。
「楽しい作品を作りたい、それが全ての始まりだった」と語る、この作品展は吉田が自らその“封印”を解き放ったスタート地点となる。

“心の目”で見た理想的な表現(イデア)を想起し、現実の色とかけ離れた色に置き換えたとき東京の街並みは異次元の景色となり、どこにも存在しない虚構の街へと変貌する。路上で回収を待つゴミの袋や電線など普通の写真では脇役としておとなしくしていた画面の隅々の様々なものたちが強く主張を始める。光と陰、線と面、お互いに重なり合って作り出すバランスの世界。あたかも波動のように強くて不思議なパワーが沸き立つようだ。吉田のイメージに沿ってコントロールされた色彩とトーン・・・・極端にディフォルメされて浮かび上がってくるデティール感はこれまで体験したことのない強烈なインパクトをもたらす。

写真でもなく絵画でもない現実と虚構がパズルのように混在したその世界に身をゆだねていると、“写真とは”というステレオタイプで強制的な価値観が打ち砕かれるようだ。吉田はハイティーンの頃、ポップアートのアンディ・ウォーホルやストリートアートのキース・ヘリング、そして天才画家ジャン=ミシェル・バスキアの影響を受けたという。そして吉田が子どもの頃から好きだったという浮世絵のフィーリングも密やかに顔をのぞかせている。現実とは異なる色彩とディティールが寄せては返すこの作品世界は観る人をどんな異次元世界へ誘うのだろうか。

吉田よしだ 裕之ひろゆき プロフィール

1967年生まれ。
多摩美術大学建築科を中退後スタジオに入社

1989年
フリーアシスタントになる。各分野の写真家に師事
1991年
西村淳氏に師事。ファッション・広告の基礎を学ぶ
1994年
独立後雑誌なのグラビア写真で活動
2011年
  • sharaku project結成
  • 写真展 sharaku project vol.00 に参加
2015年
  • HASSELBLAD JAPAN GALLERYにて初めての個展
  • 同年10月 6回目のsharaku project vol.05に参加