サイト内検索エリアを開く
ソニーイメージングギャラリー 銀座
角田和夫氏によるギャラリートークを開催します。ゲストに村山功氏(写真通信社 代表)をお迎えします。
還暦を過ぎた今も、学生の頃見た、007映画「ゴールドフィンガー」が頭から離れない。 主役のショーンコネリーが使用した車といえば、アストンマーチンをベースに改造したもので、防弾ガラス、小型ミサイル、マシンガン、助手席シートが外に飛び出す装置から、当時は夢の存在であったナビシステムなども搭載されていた。小学6年生だった私には夢の車であり、映画音響が美しい映像に溶け込み、臨場感あふれる画面に圧倒され釘付けになっていた。
ボンドガールを演じた一人でもあるイギリス女優シャーリーイートンのベッドシーン。日本人が真似できないようなセクシーな演技。当時子供だった私は見てはいけない大人の世界を覗き見したようで興奮したものだ。
1995年、初めての渡米はニューヨークだった。アメリカ人の豊かな表現力や芸術家を大切にするその文化や雰囲気は、まるで映画のスクリーンの中に取り込まれるような吸引力を感じた。ただ一方で、黒人などに対する人種差別が根深い文化背景も感じ、怖さとワクワクするようなドキドキ感が気持ちの中で交錯していたというのが正直な気持ちだ。
そうしたニューヨークの魅力に取り憑かれ、度々この地を撮影するために日本から足を運んだ。そして時が流れ、日々世界を騒がせる、あのトランプ大統領が就任したニューヨークの雰囲気を撮影したくなった。喧騒と雑踏が蠢く中で、アーチストを大切にする文化が漂い、いろいろな可能性を感じるニューヨークの今を映画的なアプローチを込めて撮ってみたかった。
思えば40年を過ぎただろうか。不安と希望を胸に故郷を後にし就職したが人間関係に苦しみ、その時持っていた夢や希望も、世の汚濁に染まっていくような喪失感で傷ついた。そんな折に、兄が写真を撮ることを勧めてくれた。白黒フィルムからのプリントは、デジタルとは違って時間やエネルギーがいる。しかし暗室での作業は、禅にも似たような心の安らぎを感じ、当時の私は大いに癒された。
本展の展示作品は全てゼラチンシルバープリントとした。何か感じていただければ幸いである。
角田 和夫
1952年生まれ 高知県高知市出身 高知県立高知工業高等学校機械科卒 大阪写真専門学院卒 日本写真作家協会(JPA)会員