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English ソニーイメージングギャラリー 銀座

立川 清志楼/長島 勇太/garland/李 和晋 映像作品展 はじまりの残像

 動画は19世紀に人間の視覚を利用して絵が動いているように見せる仕掛けがいくつか考案されたことが起源とされています。それに対して“写真”の方は、紀元前に針穴写真の原理が使われ始め、カメラ・オブスキュラに改良されたのが15世紀、そしてニエプス兄弟が1826年に感光材料を用いて初めての写真を撮影しました。このように“写真”と“動画”は誕生の時期こそ異なりますが、現代においては写真を撮るのに最もよく使われるスマートフォンやデジタルカメラには当たり前のように動画を撮影する機能も搭載されており、操作一つ行えば同じ機器で誰もが“写真”“動画”のいずれをも撮影できる時代を私たちは生きています。

 そしてクリエイターたちは“写真”と“動画”のそれぞれの特性や表現力を生かし、時に両者を使い分け、時には両者を合わせて表現を構成することで、新しい表現を創り出していっています。ソニーイメージングギャラリーではこれまでも4Kテレビや4Kプロジェクターを備え動画作品も展示にとりいれて来ましたが、2021年の8月に募集を行った作品展公募から「短編動画部門」を設けました。この『はじまりの残像』展は「短編動画部門」の公募を通じて開催する初めての映像作品展になります。

 立川 清志楼は、固定カメラで撮影した写真・映像に多重化・アニメーション化等の加工編集を行った実験映像『第一次三カ年計画 Selection remix』を展示します。立川は作品の舞台である動物園の動物に対し「多くの人は『可愛い』『でかっ』『臭い』等の単純な感覚的表現で動物を表す。言葉よりも感覚が優先する動物は、意識と感覚を駆使して鑑賞する実験映像に似ている」と語ります。

 長島 勇太の作品『複眼(8つの部分をつなげる)』はひとりひとりの多様化が進み、それぞれが見ている世界も多様化していることに焦点を当てます。パラレルワールドのような並行して決して交じり合わない、人々の異なる視界を“複眼”の視覚で表現します。

 garlandは4Kの導入をきっかけに2016年ごろから映像作品の制作を始めました。その作品『Past Light』は、garlandが思い描く死生観を元に「彼岸」「此岸」「その合間」をテーマにした3部作から構成されています。その映像世界はあたかも「動くスティルフォト」のようです。

 李 和晋は家族写真が撮影された場所を探し求めて旅をしながら制作している「Saudade Project」より、2作品(「伊豆」編、「新潟と韓国の龍仁」編)を出展します。家族写真が撮影された場所を探し求めて旅をしながら制作された作品は、記憶だと自身が思っていたイメージが、本当の記憶だったのか、実は映像や写真を見返すことによる「追記された記憶」だったのかをしばしば見失うという、多くの人が体験したことがある映像がもたらす特性のひとつを再認識させられるようです。

 今後も“動画”と“写真”はそれぞれが進化し続けるでしょう。それは今のように操作一つで行き来する並行世界なのか、それともまた違った姿なのでしょうか。今後もソニーイメージングギャラリーでは、鑑賞者の皆様と共にクリエイターたちから届けられる新しい視界に注視し続けていきたいと考えています。

(『はじまりの残像』は、4名のクリエイターの映像作品を4台の4Kテレビにより展示します。4台の上映時間の合計は約57分です。)

立川 清志楼(たてかわ きよしろう) プロフィール

上映時間 15分16秒

1967年茨城県生まれ。東京在住。
動物園を撮影した映像に実験的要素を用いた編集を施し、物語性を排除した物質的な映像作品を制作している。
現在、2020年7月から始めた実験映像プロジェクト「第一次三カ年計画」を遂行中。
「写真新世紀2020年度優秀賞」(オノデラユキ選)、「写真新世紀2019年度佳作」(安村崇選)受賞。

主な展示

2021年
「モメラス実験公演『彼(私)から見える世界』」BUoY(東京)
「網膜反転侵犯」MEM(東京)
2020年
「写真新世紀展2020」東京都写真美術館(東京)
2019年
「写真新世紀展2019」東京都写真美術館(東京)

主な上映会

2021年
「第一次三カ年計画16~18」BUoY(東京)
「第一次三カ年計画11~15」BUoY(東京)
「第一次三カ年計画1~10」シアターイメージフォーラム(東京)
2020年
「第一次三カ年計画1~6」Alt_Medium(東京)
「~映像と斜陽」scool(東京)
「material zone=物質地帯」横浜美術館(神奈川)

長島 勇太(ながしま ゆうた) プロフィール

上映時間 9分52秒

1979年生まれ。東京を拠点に活動している。東邦大学、イメージフォーラム映像研究所、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー、京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)を卒業。東京芸術大学大学院 映像研究科を中途退学。主に写真、映像、コンピュータープログラム、サウンド、インスタレーションなどの手法を用いて制作している。特にカメラを使用した作品の制作は2003年から開始。また、アンビエントミュージックの楽曲制作(Yuta Nagashima 名義)では、2枚のソロアルバムと1枚のコンピレーションを国内外のレーベルからリリースしている。

garland (ガーランド) プロフィール

上映時間 約11分

映像作家、CGクリエイター、造形作家。
4Kの撮影環境を⼿にした2016年頃より⾼解像度を⽣かした映像作品の制作を始める。

※スチル写真では橋本タカキ名義で活動。

李 和晋 (り ふぁじん) プロフィール

上映時間 20分27秒

1991年東京生まれ。東京在住。80年代に韓国から渡日したニューカマー(新来外国人)2世。個人史を起点として、人間と時間との関わりの中で生起する現象を主題に、写真と映像を用いて制作を行う。それらは、国民国家を条件付ける大文字の歴史や言語から自身を宙吊りにすると同時に、離れてもなお続いていく土地との関わりの中でルーツを希求する、相反する志向を含む試みである。主な作品に、韓国の釜山に暮らす祖母を訪ねて制作した「海峡」(組写真・2013-2015)、家族写真が映された場所を探し求めて旅をしながら制作している「Saudade Project」(シングルチャンネルビデオ・2019-)、ある男の母親探しに重ねて家族や国という共同体と個人との関係を問い直す「イメージをさがして」(動画・2020-2021)などがある。東京工芸大学 芸術学部写真学科卒業、東京藝術大学大学院 映像研究科メディア映像専攻修了。