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English ソニーイメージングギャラリー 銀座

本田晋一 作品展 7 years in 上海 ”質感の王国”

 上海に7年間住んだ。最初は1年ほどで東京に戻るつもりだったが、街が面白すぎて長居をしてしまった。シンガポール6年、ニューヨーク5年と海外で暮らすことはあったが、上海にこんなに長く住むとは思わなかった。 上海の何にそんなに惹かれたのかと言うと、租界時代から続く西洋と東洋が積み重なり混じり合った歴史と、そこから立ち現れる豊穣な質感…だろうか。とにかく人も街も「濃ゆい」のだ。80年代までの中国の「とにかく壊れるまで使うべし。メインテナンス…何それ?」という図太い精神のおかげで、1910~30年代の美しいネオクラシックやアール・デコの館が、中途半端なリノベーションをされずにオリジナルな形で残っている。テープで補強している割れ窓をよく見たら30年代の波打っているガラスだったり、分厚い100年分のホコリの下からオリジナルの壁面が顔を出したりする。

 今や「人民」の生活の垢にまみれて薄汚れてはいるが、かつては阿片がもたらす富で世界の頂点にあった魔都の豪奢な館やビルディング。傾城の美女が無残に年老いて腹わたまで見せながら、なお蠱惑的な残り香を放つような凄惨な美しさを感じる。そして何より、今、購入すれば20億円を超えるような文化財クラスの館に、全く普通の庶民が安い家賃でノホホンと気楽に暮らしている。これは羨ましい!

 清朝末期から変わらないこれらの風景も急激な発展でどんどん失われている。一軒ではなく一区画丸ごと消え去る事も多い。上海という特別な街のイメージを残すために7年間で5万枚撮影、住んでいる間は毎日 SNSで日常を記録した。これらの写真群の混沌の中から物語や道筋を見出して、少しずつネット上でアーカイブを作っている。見るのに何時間もかかるほどの大量の写真を蓄積したら、ネット上で失われた街を散歩できる様になると思う。その仮想の街造りこそが私の目的である。

本田 晋一(ほんだ しんいち)プロフィール

大阪芸術大学写真学科中退

80~90
シンガポール、ロンドン、ニューヨークに居住しファッションを中心に撮影
90~92
東京 amana所属
92~
Rayzoo.co 設立 写真、映像、ネットのデジタル創生期に参加
アサヒパソコン表紙を12年間担当しビル・ゲイツ氏など200名以上の著名人や芸術家を撮影
Issey Miyake Men のディレクション+撮影を2年間
06~08
Panasonic Chinaの広告の総合ディレクション+撮影を2年間
09~18
上海在住 広告キャンペーンの撮影、上海のギャラリーおよび蘇州や南京の大学で講演
19~現在
大阪芸術大学写真学科 教授

個展

  • "China in Deep" (シンガポール)
  • "TRANS" (東京、ニューヨーク、パリのISSEY MIYAKEショップで展示)
  • "Wired Woman"
    (Saatchi&Saatchi the Gallery 東京)
    (文化庁メディア芸術祭にも出品)
  • "Rooms/London " (代官山FG Gallery)
  • "future sex " (kunst licht Gallery上海)