自然の中を車で走っていると、多くの木々の間に存在している道路、橋、トンネルなどの人工物が目に入ってくる。これらのものは人の多く住む都会や街などにも存在しているものだが、自然の中に存在している人工物は都会に比べてどこか印象的だった。

撮影を進めていくと既に人工物がある場所に加えて、人があまり通らずに自然に還っていくような場所や、自然に直接手を加えている途中の場所など、変化していく景色も目に入ってくるようになった。

これらの場所には共通して、大きな自然に対してとても小さな人間が作り上げてきた痕跡が現れている。

　2019年、ミャンマーの登山事故で姉のように慕った友人が亡くなった。彼女への思い出が年々重なり、強くなっている。留学中に他の人たちも失ったが、私は彼女だけに執着しているようだ。彼女の写真を失い、彼女の記憶が薄れつつも、4年経っても彼女という存在が傍に感じられた。私は山を恐ろしくなったし、彼女に関してのニュースも見ることができなかった。彼女の死に向き合えなかったのだろう。

　彼女がいない事実に向き合えるようになった今、彼女へ伝えられなかった“さよなら”を作品という形に変え、彼女のことを背負いながら先に進みたい。私だけではなく、彼女のことを思っているご家族や友人のために、彼女についての作品を作ろうと思った。

　今の自分に足りないものは幼少期に集約されている。 多才な当時の自分に近づくために、母校の幼稚園に通い、遊び、そこで生まれた制作物を収集した。
子どもが作るものや言動は実に無防備かつ暴力的で、こちらに不穏や緊張感を絶えず与える。その中には嘘や誇張、デタラメが錯綜しているにも関わらず、むしろ想像や常識の壁を打ち砕くものとして私に深く突き刺さった。
今こそ作品から整った調子を手放し、危うさや不安定な部分を残して立ち向かっていくことだけが、かつての自分を宿す方法なのかもしれない。

　ある日、塀の上にいた猫と目があった。その猫は険しい顔でこちらを見据えていた。毛は汚れボサボサだが、どこか気高さのようなものを感じた。その出会いは、外に棲む猫の力強さに魅せられ、日々を生きる姿を撮影したいと考えるきっかけになった。
　河原や森、公園、住宅地、島で撮影を続けていると、人間社会が猫に恩恵を与えているように見えてきた。
　猫は、人間が廃棄した人工物を本来の目的とは違った形で利用し、人間のために作られた空間を猫独自の世界に組み込んで活用していた。
　自然と人間社会の間（あわい）で生きる猫の適応力の高さと共に、その背景に写り込むものも見ていただきたい。

　私は今年双極性障害になった。これは躁と鬱に悩まされる状態である。その症状の中に今まで好きだったものが好きでなくなるというものがある。不眠や過食状態に悩まされることもあったが、写真が好きでなくなる状態に一番苦しめられていた。
　そういった中でフォトアートセラピーというものに出会った。これを行いたいと考え、考えるよりも先に撮影し自分自身の内側を映し出した。
　そしてこの行為をきっかけに写真から色が抜け落ちている事に気がついた。写真を見返すと撮っていた喜びや色が無くなっている。それは私が鬱の時に感じた苦しみや悲しみが色を奪ってしまったのかもしれない。写真は私にとって双極性障害と向き合うためのツールとなった。

　微細な「罅」（ひび）から吹きこむ風は、逆説的にその「罅」の存在を指し示す。

　本作はその関係性から着想し、一見重要でないように見える写真と人間の想像が、知覚に予期せぬ奥行きを生み出してくれるのではないかと仮定する。

　動物園で死んだキリンは、トラックで研究施設へと運ばれ、解剖される。この事実を受け、キリンが当たり前に動物園にいる動物としてではなく、日常に潜んでいる可能性があることに違和感を覚えた。
　本作では、ある死んだキリンを追憶する。

　「catalogue:shinjuku」は新宿をカタログ化することによって、その巨大な情報を整理して提示することを試みた作品である。1000を超える路上設置型消火器や、歌舞伎町のカメラ映像、信号待ちをする人々、壁の汚れを撮影した。これらは自分が新宿でスナップを撮影していた際に得た着想や発見をきっかけに生まれた。よって全てが、新宿という街を行き交う人々と関係している。同じものを撮り続けることで、さらなる発見も多くあった。
　街の全てを撮り尽くすことができたわけではない。しかし、数多くの同じ被写体を並べてみることで初めて見えてくるものがある。

　私が中学1年生の時、父が亡くなった。その日から、父に関するものを見るたび、父のことを思い出す。父はすぐにものを捨てることができるタイプの人だったので、遺品は少なかった。私たち家族には父との記憶があるけれど、父と関わったことのない人たちにとって、父が生きていたという証になるものは何があるのだろうと思った。また、私は幼い頃の記憶があまりなく、父との記憶も忘れている部分が多くあった。そこで、父の持ち物や家族でよく行った場所、一緒に暮らした家や町などを撮っていくことにした。そうすることで、父との記憶を追っていくとともに、父のことを知ってもらう機会になるのではないかと考えた。

　彼女のことはなんでも知っているつもりだった。

　住んでいる場所、家族、人間関係、思考。私からみた彼女は良くも悪くもない、なんとも普通でどこにでもいるような人間だった。しかし、ある人は彼女を変わった人だと言った。私と他人の知っている彼女は別人のように感じた。

　私は私の知らない「彼女」を知りたくなった。

　鳥居というものは、神社に建てられた門を指していて、日本古来の宗教である神道の「聖域」と人々が住んでいる「俗域」を分けている境界としての役割がある。鳥居の内側には神々が奉られており、本殿を持たず山や海を御神体としている神社にあっては、その前に鳥居が建てられ境界を示している。
　この作品は、目には見えない「聖域」と「俗域」を鳥居がその境界を可視化しているということへの私の興味に基づき、神々が奉られている「聖域」と我々の住んでいる「俗域」との調和を表現している。

　プリントの表面を薬剤等を用いて剥離し、別の支持体に貼り付ける。これを「スクラッチ・アンド・ペースト」として繰り返した。剥がして貼る、削り取って盛るという行為を続けていくと、その乱暴な痕跡はどこか獣が駆けずり回った形跡のように見えてくる。見慣れた景色は、どこか不穏で生の感覚を伴ったものへと異化される。

　故郷の八丈島には太平洋戦争末期、特攻兵器「回天」が配備されたものの使用されずに破棄されたという歴史がある。格納していた壕を探し出し、実在したいくつかの痕跡を確認したがその実物は見つからなかった。
　格納壕の奥へと進むさなか、時間を遡るように将兵が見ていた光景が私の心を巡り、一つの始点に迫るような感覚を憶えた。足音さえも飲み込まれてしまう暗闇の中では、視界を代替するように、記憶にない回想が私の中に湧き上がってきたのだった。
　ふと振り返ると外の光が見える。
　その瞬間、壕が内包する戦争の記憶と共に故郷の問題が立ち昇った。
　戦争を視聴していた私は壕の中から故郷を覗くことで、循環する時代の渦中にいることを悟った。

　改革開放が中国の経済を躍進させ、成都は西南部の拠点都市として農村の人々を引き寄せました。この潮流は都市の風景を変えただけでなく、ここに暮らす人々も変容させました。
　この作品は、単なる風景の変化ではなく、人々の内なる葛藤や感情を伝えたいです。