第14回公募セレクション作品 山本 剛士 作品展 AGAINST FATE

「How are you?」と不意に声をかけられ、反射的に手を合わせて「サワディーカップ」と挨拶してしまう。会話になっていないことに気づく。肌を焼き、汗を流してカオサン通りの安宿から歩く。「チャイナタウンの病院。小さな路地を入ったところにムエタイのジム」と書き殴った紙を手にして。『拳の先』（角田光代著）は偶然の出会いを予感させた。"We're on Thailand！" 俺たちは出会った。

2年後、再会したのはパタヤだった。現地の子供たちに埋もれるように、ムエタイの練習に励む日本人の少年は川間奏楽（かわま・そら）。当時11歳の彼は、「別にムエタイは好きじゃない」と吐き捨てた。
午前5時に起きてランニングと練習、午後3時から再び練習。淡々とした日々のなか、時折試合がある。きつい練習、不規則な時間で行われる遠征。5年間、「日本に帰りたい」と不満を漏らし続ける彼を淡々と記録し続けた。

美談なんてものは無かった。ただ一つのことを頑張っていた。必死に視えた。10代の少年が自分の道を定めるということ、時が経つにつれて周りの人に認められ、応援される。彼はもう逃げることが許されない立場になっていた。