ソニーが開発したWindows版偏光カメラSDK(XPL-SDKW)について紹介する。
XPL-SDKWはWindows Installer形式で提供されており、下記から構成されている:
- SDK本体(dll)
- APIドキュメント
- サンプルソースコード
- ライセンスID取得用ツール
- サンプルビューア(XPL Viewer)
本SDKは透過光・反射光を扱う偏光アルゴリズムを7つ提供していることが特長の一つである。本稿では、SDK付属のサンプルビューアを使用して確認できる、SDKの各機能を紹介する。
偏光度(Degree of Polarization)
被写体の偏光度合いを算出する機能であり、白く表示される箇所ほど偏光していることを示す。束ねた電源コードのようにコントラストが低く、画像ではつぶれて視認が難しい被写体や、背景と同色のためカメラで認識しにくい物体でも、偏光度を求めることにより物体の形状を確認することができる(第4、5図)。
第4図 電源コード(元画像)
第5図 偏光度による表示
面法線(Surface Normal)
偏光情報から被写体の面の法線を算出することができ、SDKでは被写体に対して画素ごとに面法線を計算する機能を提供している。また求めた面法線をカラー化して表示する機能も提供しており、面の向きの違いを色で表現することができる。この機能も偏光度と同様に、カメラでは認識困難な同系色の物体(第4図)に使用することで、面の向きを見やすく立体的に表示できるため(第6図)、3D計測や形状認識に利用できる。
第6図 面法線
応力(Retardation)
物体内部にかかる力を応力という。応力は外から力をかけた時に発生し、外力を除いた後にも物体内に残ることがある(残留応力)。応力が生じた時のひずみの大きさと向きに応じて、複屈折の大きさと向きが変化する物質を光弾性体という。 透明・半透明の光弾性体に偏光光をあてると、ひずみの大小によって複屈折した偏光に位相差が生じる。これを観測することで物体にかかる応力の大小を確認でき、サンプルビューアでは観測された位相差を色で視覚化して表示している。第7図はアクリル板の右側側面に金属の棒を挟み込み、左右から万力で圧力を加えている図である。人の目ではわからないが、第8、9図のように応力を観測すると、金属が支点となりアクリル板に応力がかかっていることがわかる。
第7図 Retardation(元画像)
第8図 Retardation(弱い圧力)
第9図 Retardation(強い圧力)
反射除去・強調・抽出(Reflection Cancel / Enhance / Extract)
無偏光光が被写体の表面で反射するとその角度に応じて偏光するという性質があり、偏光フィルタではこの特定方向の偏光を遮断することで反射光を除去(Cancel)することができる。偏光フィルタでは除去するだけだが、偏光カメラではSDKでの数値計算処理により反射光の強調(Enhance)表示や反射成分のみを抽出(Extract)することもできる。
反射除去(第11図)のメリットとしては、車のフロントガラスや水面などの写りこみ部分を除去することによる視認性向上があげられる。 また反射強調(第12図)はガラスのように透過率の高い物体に対して、反射成分を強調することで通常のカメラでは困難だった位置や形状を特定することができる。
偏光カメラSDKでは反射除去の機能としてManualとAutoの2つを用意しており、用途に応じて最適な除去方法を選択できる。
- Manualは本来Brewster角でなければ完全には除去できない反射を、反射面の角度を手動で指定することで除去することができる
- Autoは各画素単位で被写体の偏光(反射成分)を求め、自動で低減できる
第10図 元画像
第11図 反射除去
第12図 反射強調
ストークスベクトル(Stokes Vector)
ストークスベクトルとは、ストークスパラメータと呼ばれる4成分𝑆0、𝑆1、𝑆2、𝑆3から構成され、偏光状態を表現するための列ベクトルであり、
𝑆 = (𝑆0、𝑆1、𝑆2、𝑆3)t で表される。それぞれのストークスパラメータは測定可能な光の「強度」で表現される。光学素子についてMueller行列𝑀を定義し、ストークスベクトルに行列計算をすることで、光学素子を通過した後の光の状態変化を知ることができる(𝑆′=𝑀𝑆 )。
SDKからこのストークスベクトルを取得することができ、サンプルビューアでストークスパラメータの各状態を表示することができる。𝑆3は偏光イメージセンサで取得できないため、SDKでは扱っていない。
第13図 ストークスベクトルの表示画面
- 𝑆0 : 光強度(第13図・画面左上)
- 𝑆1 : 水平直線優越偏光成分(0°−90°成分)(第13図・画面左下)
- 𝑆2 : 45°直線優越偏光成分(45°−135°成分)(第13図・画面右下)
- 𝑆3 : 右向き円優越偏光成分(右円−左円成分)